Part6 「ひとりぼっちxひとりぼっちxひとりぼっち」その2
だが、正面から突っ込んでも勝てそうにないのは大マジっぽい感じなわけであり。
(三十六計――!)
アイテムボックスに手を突っ込む。選択。煙幕弾。
――バカか。トーシャは悪態をつく。
こちらを意識的に潰そうともしない相手の視界を奪ってどうする? あいつはただ、適当に走っているだけでこっちを潰せる。
であるなら、選ぶべきは。
「物理ィィィィッ!!」
特大の金属体を眼前に落とす。目のない銀色のサイコロ。鍛冶素材のひとつである。
トーシャの筋力値では100人集まっても1ミリたりとも動かせない超重量だが、「鍛冶スキル」を介すれば一部を削り取って鎧や剣のベースに使える。
どの鍛冶屋も加工前にプールしてあるときは、だいたいこんな形でボックスに入っているものである。小分けにしていると項目数増えてボックス圧迫するし。
遅れて、くぐもった音が耳を刺した。金属体の向こうで何かが衝突したのだろう。
そのままくたばれ。――昔どこかで「人間は全力でダッシュして壁にぶつかったら死ぬ」という話を聞いたことがある。その要領でくたばれ(それが物理的な話か精神論だったにかは定かではないが)。
とにかく消えろ。なんかそんな感じで――!
金属体に触れていた指先に静電気のような衝撃が走った。鍛冶屋のスキルのひとつが走っている。スキャン機能だ。
モノの構造・属性を理解するスキル。普段はグラフィックと攻撃エフェクトとアビリティスロットのみでしか表現されないアイテムの性質を詳細に看過し、立体パズルとして鍛冶可能な状態に投影するスキル。
金属体の構造が急速に書き換わっていることを告げる。
これは。こんなのは知らない。見たこともない。経験もない。この意味は――!?
分析する間もなく、トーシャは吹き飛んだ。熱量と鉄の礫がシャワーのように手足を突き刺す。小高い瓦礫の丘から弧を描き、砂利のマットに肩から打ち付けた。そのまま数メートル、ゴロゴロと転がり落ちてようやく停止する。
――皮一枚、である。
もう少し脆い金属なら、より大きな粒の金属雨に襲われていただろう。それにはさすがに耐え切れなかった。無駄に粘り気とか取った熱処理をして下ごしらえしといて助かった。
酷いダメージだが、レッドゾーンでどうにか体力ゲージの減少は止まってくれている。死ななきゃ安い。
「……よう、無事か?」
馴れ馴れしいせせら笑いが耳をつく。先ほどトーシャが圧倒したクィーンの構成員のひとりだ。どうやらスタート位置まで綺麗に吹き飛ばされてしまったらしい。
「うるせー。黙ってろ」
「共同戦線といくか……?」
「うるせーよ。さっきから俺に流れ弾当たろうがお構いなしにブッパし続けてたろてめーら。そんなのと共同? 俺にあいつを羽交い締めでもしてろってーのか?」
「それはそれで魅力的だが……質量攻撃という線はアリだという結論にこちらでも達している。おまえの『壁』は失敗したのは、単に攻撃中の無敵効果か?」
「無敵ならあんなエフェクト――溶けた感覚はありえねー。それなら単純にブチ抜いてくるはずだ。たぶん壁も綺麗に丸くくり抜かれる。俺にあんなに欠片を当ててこれないはずだ」
「メルト・エフェクト。なるほど、魔法が効かなかった理由、その辺りもありそうだ」
魔法をリフレクトするエフェクトと金属をメルトしたエフェクトだけでは何の因果関係もない。
だが同時に、そのふたつの特性をひとつのNPCキャラクターが持ち合わせているこの現状もまた、理解できるものではなかった。
ふたつのまったく異なるエフェクト。その根本はただひとつのアビリティであるはずだ――。
そう考えて思案して幾許かで――彼もトーシャも、同じ理論に帰結した。
『レッド・レース』。薄く熱を持った被膜の特性だ。それこそ、トーシャのように鍛冶を生業とするプレイヤーでなければそう意識しない「現象」である。
ある一定値以上の魔法で焚いた炎を含有した特定の金属が発する現象。薄い膜が金属表面に現れ、あらゆる外力を弾く効果がある――すなわち、加工不可能となる現象なのである。
現象故、アビリティスロットを圧迫せずに効果を取り出せる。もちろん限定的な効果付与であり、条件も厳しく汎用性もあまり高いとはいえない。
マイナーな話なのだ。発想として着目できる人間は多くない。まして、対人戦ならまだしもNPCが使うような事例はなかった。
「……レッド・レースが起こる条件はBランク以上の熱量を『マグナック鉱石』の含有率0.5%以上の混合物に与え、かつ、Aランク魔力の含有率70%以上の濃度の流体に晒した場合――だったか。正直、うろ覚えだが」
「……それが、現象?」
「現実の金属に例えると酸化皮膜だな。金属の構成原子と酸素との反応を防いでサビをなくすヤツ」
「皮膜……膜? そんな薄っぺらいものが、あいつの鉄壁の正体!? 俺たちを弾き飛ばした防御力の理由……!?」
「そうだろうな。てか、それ以外なら純粋にクソ高いステータスってことになるが……あんたのところ、どうせ解析班とかいるんだろ。そっちに判断では?」
「……その『クソ高いステータス』が結論だ。――なにせ、さすがにああも高速で動き回っている状態の奴を捉え続けて解析はできない」
「可能性は残っているわけだ。こりゃ、俄然証明の必要があるってもんだが……さて」
トーシャは犬鼻を鳴らし、遠方に視線を投げた。
悠然とした、絶対の一。不撓にして不屈。破壊の始点。
――その、見下してくる天上人の目。
ああ。トーシャは恍惚と唇を緩ませた。その目はいい。実に良い。
やはり敵とはこうあるべきものだ。調子付き、鼻を伸ばして羽を生やしてくるくる空を飛んでいる天狗様。そしてそれをハエのように叩き落とす俺――ああ、まじカッケー。
「……どうした? ヨダレが出ているぞ?」
「へっ……はっ!」
「おまえ……」
「ちちちちち違うぞ! お前の考えていることは違う! 知らんが違う! くっそなんだよ!? なんかよくわかんねーけど感情のオーラみたいなのが伝わってく気きがするぞ!?」
「……それ、たぶんおまえの気のせいだ」
忌々しくトーシャは舌打ちする。アイテムボックスに手をかけて――。
すると。




