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電脳コンプレックス  作者: みそおでん
第三章 「きみをしること」
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Part4 「プロ★ぼっち★プレイヤー」その4

「長々と……考えているな。必死になるの? 理由もわからないことに?」


「そうだな。ジンの野郎はいけ好かないし、野郎の得になるような話はノーセンキューなんだが……どうも人間付き合いってのは面倒臭くってね。いつものソロプレイほど適当が許されねーんだわ。

 タイキはクッソ真面目に駆けずり回ってて、哀れすぎて見捨てらんねー。それにジンは運営様だしな。実際報酬はユイちゃんの言う通り期待できる。シカトしない旨みもあるんだな、これが」


「……たいき?」


 疑問符は土嚢に覆い潰された。トーシャがけたたましく悲鳴を上げる。


 黒い間欠泉が一直線に列を成す。さながら万里に仕切りを入れるようにして。


 暗い土塊。その麓で赤熱が瞬いた。攻撃エフェクト。誰かが戦っている。


 距離を考えれば非常に大きいそれは、断続的に、しかし一呼吸にも満たない間隔を見せている。早すぎる。短すぎる。そして多すぎる。長すぎる。


 ボスとクィーン。どちらがこの攻撃をしているにせよ、その時間は異常だった。


 ――その爆寝の中心部が近づいてきているならば、尚更無視できない現象だった。


「おうおうおうおうっ……こいつはなかなかっ……ヤバイヨヤバイヨーッ!?」


「そんなわけがっ……!」


 彼女の言葉は続かなかった。言葉を表現する必要がなくなったのだ。


 熱量が置いていかれる。ロケット噴射のように、台風を生む上昇気流のように、突き抜ける嵐のような大加速。


 衝撃波と熱風がトーシャを襲った。瓦礫が吹き荒び、砂がマシンガンのように体を削り取る。


 嵐のようなそれを耐え抜き――残った付近の瓦礫の小山には、ひとつの影が佇んでいた。

火の粉のような赤い雪が周囲に散った。大きな扇のような翅が開く。カンガルーのようなバネの強い脚部。肘からは片刃の刀が生えている。


 この【異形】は――上級種。おそらくボスに相当する個体だろう。


 そしてそれは、トーシャになど一瞥もくれない。どこか明後日の方向を見据えている。


 追いすがるアバター達に指先を向け、赤く細いレーザー光線で焼き払う。アバターの悲鳴を無視し、視線は明後日の方向に向け続けられている。


「気をつけろ」


「今のレーザーを? あんなブービーに、天下の『クィーン』御中が雁首揃えて刎ねられたのか? ないわー。選考落ちて助かったー」


「……そうじゃない」


 ボスの見る方向では、空が割れていた。白色の光がテクスチャを切って手を伸ばしてくる。誰かがログインしてくる。


 ――いや。それとはエフェクトが微妙に異なっている。


「あいつは……ゲームオーバーになったプレイヤーを操れるんだ。それも、性能を強化して」


「はぁ? そんなこと――」


「信じなくたっていい。考えを改める気になった頃、あんたもあっちの仲間になってるだろうけどな」


 彼女は断言する。これで間違っていたら赤面必至。是が非でも否定してやりたいところだが。


 ここに来るまでに幾度となくプレイヤーアバターを目にしていた。 孤軍ゆえにその全容を把握しようと目ざとく確認し続けていたトーシャには、それが真実だとよく理解できてしまっていた。

 4人程度の束になった集団が1人を取り囲むようなシチュエーションを何度も見た。


 『クィーン』は大規模だ。そして頂点にいる『女王』のためなら喜んで死ねる連中だ。『女王』のために仲間を踏み台にすることも躊躇わない奴らだが――身の程はよく知っている。多少群れておいた方が有利に戦えるし手柄も立てやすい。彼らはそこそこ群れる。


 何度とも見た、その4人パーティを圧倒するソロプレイヤー。『仲間が強化されて敵として戻ってくる』――彼女の言葉には説得力がある。


 それに――タイキを地下で発見した際の状況を思い出す。ドロップされたまま、回収されずに残っていたモンスターの残骸と、破損した武器。タイキのようなド素人にはおよそ不可能。神憑り的な圧倒的な戦闘能力だ。ありえない。


 しかしその後に会ったタイキの経験値の増え方から言って、その不可能が可能になったとしか思えない。


 ――その非現実を現実に落とし込む可能性。ミッシングリンク。アヤの唐突な異変。思考の妨害。『プレイヤーアバターを強化し操る』。


 忌々しいことに、点は線で繋がりそうだ。


「ジンの野郎が解決を急ぐのも納得だわ……ゲームマスターにしちゃあんまよくねーな、この状況。ゲームが破綻するし。……や。俺にとってもか。頭をぐちゃぐちゃされるなんざいい気がしねー。洗脳じゃねーか。とっとと片してやんなきゃーな。……一応、タイキのヤツも助けてやれっし」


「……たいき?」


 トーシャは静止しているボスを見据え、両手を二度、汗を払うように無造作にたたいた。腕輪を光らせる。アイテムボックスから素材と武装を選択。両手に握り、取り出した槍に属性を付与させる。


 大きく踏み込む。左のつま先に力を込め、思い切り、槍を投げた。物理法則を無視し、槍先が一直線に空を切り。


 静止するボスに届かず、地面に突き刺さった。


「……ちっ」


「え?」


「……失敗じゃねーぞ」


「えっ……」


 捨て台詞を吐いて、トーシャは走り出した。ジャンプを織り交ぜ変則的なステップで瓦礫の山を駆け上がった。そのままボスの眼前まで躍り出た。


 努めて不敵な笑いを浮かべ、トーシャが腕を組んで仁王立ちをする。しかし、ボスはトーシャに関心を示さない。明後日の方向を見つつ、背後からくる『クィーン』の一団を時折を指レーザーで焼き払っている。


「俺のほうが近いのにこれか。――武器に反応してるのか? それとも數か? 質か? 意識か? カモフラージュか?」


「……進んで戦いたくないだけだ」


 重く、ボスが口を開く。表情は暗く、覇気がない。


「私としてもまいっているんだ。この『役目』は彼のものだったはずなんだが、いつの間にやらこんなナリだ。イヤにもなる」


「……そうか。あんたも不憫だな。なら、俺がさっさと終わらせてやる」


「無理だよ――お前らみたいな雑魚には倒せない。悲しいね」


「ぬかせ、なんとなくボスになったようなドシロートを俺が倒せないわきゃねーだろ」


 無表情なボスに対し、トーシャは不敵な笑みを浮かべ続ける。


 ――攻撃動作を取った瞬間にレーザーで輪切りにされることは目に見えているので、動くに動けないだけというのが真相ではあるのだが。



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