表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳コンプレックス  作者: みそおでん
第三章 「きみをしること」
53/82

Part2 「星の屑」 その4

「生存ご苦労、部下諸君」


 ほどなく、白い甲冑がその場に訪れた。


 無感情に周囲に視線を飛ばし、一度大きくため息をついた。


「……だが、貴様らの頑張りすぎだ。私が倒すべき量が、いささか少ない気がするのだが」


 肩をすくめ、空いた手で槍を軽く操る。矛先をまっすぐ大貴の正面に向ける。


 途端に――そこは爆発した。


「いっ……!?」


「言っておくがそこの野蛮なのと一緒にしてくれるなよ」


 ジンは軽いステップで大貴の前まで躍り出て、静かに両手で槍を握った。


 補足呼吸する音が耳を刺す。ジンの唇から白い息が吐き出されている。


 空気がぴりぴりと肌を刺す。痛覚をマイルドにするフィルタがなくなったことで鋭敏になった感覚が告げている。


 ジンの体が震えている。正しく震撼している。


 ――スキルには大きく2通りの種類が存在する。


 脳内でニルが囁いている。2通りとは「体力を削るもの」「魔力を削るもの」。


 「体力を削るもの」は物理ダメージを与えるもの。肉体攻撃・武器攻撃の延長線上というニュアンスが強い。


 「魔力を削るもの」は『魔法イリス』という超常を起こすもの。空想上の怪獣を呼び出したり、火種無く炎を燃え上がらせるものだ。


 どちらも自分の内側から出でる能力。その違いは【能力の源泉】だ。それが、【肉体的】か【精神的】かというだけの話。


 ――ジンが行っているのは、その2通りを同時に扱うことだ。


 そのハイブリッド・スキルの利点は燃費の良さだろう。体力も魔力も大きく削らず、高性能なスキルで大ダメージを狙うことができる。欠点はタメが長くなりがちな点だ。


 ジンはその欠点の解消にそのタメを短くしている。であれば、技の性能は劣化するはずだが。


「さぁ――蹂躙してやる。雑魚ども」


 ジンが跳躍する。各部関節を回転させ、高速の突きを繰り出した。


 衝撃が赤い砲弾となる。瓦礫を巻き上げ、弾丸が疾走する。着弾しても突き抜けて吹き飛ばし、軸線上のモンスターの体力を容赦なく抉り取る。


 続いて横なぎに槍を振るう。赤い衝撃はまた弾丸に変わる。今度は1発ではない。複数。5つの弾丸が周囲に散った。


 今度は着弾しても突き抜けないが、モンスターの体力を刈り取り、吹き飛ばしたモンスターを別のモンスターに当て、連鎖的に体力を削っていく。


 まるでピンボールだな、と大貴は思った。素のポテンシャル、基礎能力の高さで、クイック・ハイブリッド・スキルのサポートの低さを補っているようだ。


 それでも、と大貴はまた【左腕】をあげた。ひとりでこの量は、さすがに無理だろう。


 左右を確認し、近い相手に――。


「おいそこの鉄屑」


 ――撃ち込もうとしたら、ジンの赤い砲弾が顎をかすめた。


 じろりとジンが冷たい目を向けてくる。手を出したら次は当てる。そう言いたげな目立った。ガチな感じの。


 よたよたと二歩三歩後退する。【左腕】は光の粒子となって砕け散り、元の左手に戻る。


 目の前ではジンの槍が縦横無尽に突き込まれ、赤い衝撃が一方的にモンスターの群れをぶち飛ばし両断し消し飛ばし――宣言通り、蹂躙している。


 そして背後では、トーシャが団扇で爆弾と瓦礫をばらまいて、瓦礫の街に火をつけている。


 ――やっぱり。


 大貴は思う。よしんば強くなっていたとしても――ああいう化け物の足元にも及ばない。


 あの【異形】にも、もちろんジョージにも届きそうにない。


 ――だが。


 最早、藤林大貴はそのためにこの場にいるのではない。


 この場で求められているのは、自分自身が求めているのは、最早主戦力級の大活躍ではない。


 トーシャは背中を任せると言った。


 ジンは陽動を、サポートを行うように指示を下した。


 なによりも、今の藤林大貴の目的は戦うことではない。


 もう、「守る」などという身の丈に合わない願いを口にするだけではいられない。


 今までの道程を、裏切らないためにも――。


 諦めない。まず、それを自分の中心に据えておく。


 強く信じる。自分が「だいじょうぶ」だと。


「……やってやる」


 左胸が熱で滲んだ。青々と輝いていたクリスタルに赤い灯火が含有する。球体関節の隙間から白い煙が細く幾重も漏れ出てくる――。


 熱い。感覚が走る。胸の奥のバルブが開く。エネルギーの熱を手のひらに感じる。


 大貴は地面を蹴った。高くジャンプする。


 今までなら制御をミスしてエネルギーのオーバーフロウを起こしていたような挙動。


 それでも、今ならば。


 問題なく次の動作に移行できる。


 いける。これなら――。


 確信を以って大貴は『空』を掻いた。大貴に空を蹴る力はない。もう【脚】のような噴射もできない。ただ、少し体勢を入れ替えたのみだ。


 爪が半月を描く。景色が180度回転する。


 着地する。頭を飛び越えたモンスターの背中がすぐ目の前にある。


 これは甲羅を持っていない。背中は当たり前にノーガードだ。大貴は完全に死角へと潜り込んだ。不意を衝くことは容易。


 地面を蹴った。加速する。左手の爪が紫色の閃光を描く。モンスターの背から脇を刺した。


 モンスターは倒れない。体力は残っている。だが怯んでいる。体躯はぐらりと揺れた。膝を付く。隙だらけだ。


「ジンさん、今なら――」


 押せば倒せる。そんな感じで呼ぼうとした矢先、赤い衝撃が脇を抜けた。怯んだモンスターを撃ち貫き、光の粉に溶かしていく。


「心遣い、協力には感謝する。だが――生憎、私もこの程度の量の敵に遅れを取らん」


 チョロチョロ動いて獲物を横取りするような真似をしてみろ。次は当てるぞ。


 ――音声化はされなかったが、ジンの目は確かにそう断言していた。


「ど、どーなのさ。……やっぱり、一般のお客さんに手出しするのは……運営的に……」


「私に敵性を向けなければ問題ない。すり抜ける。安心……いや」


 ジンが言葉を切り、槍の先をモンスターから地面に向けた。視線が走る。大貴から、背後に。


 そこで戦っていたはずのトーシャの姿は、なかった。


 相手にしていたモンスターの群れも、いつしか消えていた。プレイヤーすらもいなくなっている。


 残っているのは唯の一。


 ――ヒト型のモンスター。上級種だ。


 そしてその姿は、大貴もよく知っていた。


「……どうやら、フラグ成立のようだ」

 











 * * * * *











 結果だけをいえば、トーシャは生き延びていた。


 過程をざっくりというなら、待機していたユイが地中に潜伏させたのだ。


 それだけなら、問題はないはずだった。


 ――若干、具体的な方法がアレだったのだ。


 ユイの『地中潜伏』の能力は地属性のリクガメ型召喚魔法――リーラの育成ボーナスのひとつだった。ジンが大貴らのところまですぐに辿り着けたのも、地形を無視して先に進めるこの能力あってのことである。


 便利な能力なのだが、やはり慣れない人間は混乱する。


 そもそも『地中潜伏』なんて技術がマイナーなのだ。速度もあって同じく地形を無視して行動できる『空中浮遊』の方がよほどメジャーなのである。見つかりやすいが、攻撃を振り切るスピードがある。


 トーシャも例外ではなかった。慣れているはずもない。


 突然ユイに足首を掴まれ地面の中に引き摺り込まれたのだ。さながら河童さながらの手並みで。


 そうでもしなければあの突然現れた上位種モンスターの軍団から一斉攻撃を受けて、ゲームオーバーは必至だったろう。想像に難くない光景だ。


 トーシャには性急な緊急回避が必要だった。とはいえ、まぁ――当然ながら、混乱したらしい。


 もっとも、彼の場合「くらい」「せまい」「こわい」と叫んでいたところを見ると、別の精神的な要因がかかっていたようだが。


「かといって、助けらんないんだよねー……」


 ユイの使える召喚は2種類。この召喚魔法と協調する風属性の召喚魔法だけを、ただひたすらに研磨したことによって、今のユイがある。


 他人をケアする魔法が付くボーナスの召喚魔法ではないのだ。いくらトーシャが混乱しようと失神しようと、ユイにはどうしようもないのである。


 そして今迂闊に地表にも出られない。


 ――あのモンスター。上級種。


 下手を打てば一瞬でこちらを刈り取ってくる凄味がある。


 様子を伺う必要があった。そうするしかなかった。


 ジンと大貴の戦いを。

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 大貴は直感した。


 これは――幾度も見たあの【異形】ではない。


 姿形はよく似ている。兜の一本角も屈強な四肢も赤黒い装甲も、すべて記憶にある【異形】の特徴と一致する。


 だが、大貴は直感を信じることにする。


「ジンさん、あいつ、変だ……違う」


「確かに、今までのモンスターとはずいぶん毛色が違うな。いや、毛はないようだが」


 軽い冗談を吐いて、ジンは槍を構えた。スタンスは広げず、ほとんど棒立ちの状態。片足に重心を寄せている。


 しんと空気が静まり返った。【異形】の拳が上がる。ジンが細く呼吸を編む。


 刹那。空気が破裂した。


 赤い衝撃と【異形】の拳が交錯する。【異形】の躯体が弾かれた。ジンが間合いを詰める。赤い衝撃がドリルとなって突撃する。【異形】の右肩を抉り取る。


 左拳を【異形】が握った。振るわれる前に肘を穿つ。逃げ出される前に腱を打ち貫く。


 ――あっという間に【異形】を無効化してしまった。


「……すっげ」


「タイミングがずれていれば、こうなっていたのはこちらの方だ。こいつは、それだけのパワーと精確性を持った攻撃を行える」


 抑揚をつけずにジンはそう言って、槍先をまっすぐ【異形】の額を刺す。


 それは何でもないような動作だったが、その中にも緊張感が溢れていた。言葉の内容が真実であることを裏付けている。


 【異形】は動かない。表情も動かない。甲冑に隠れているためだ。


 ――否。この【異形】には感情がないのだ。ただ単純に。


 これは、あの【異形】ではない。以前に感じた溢れんばかりの闘志も喜びも、なにも感じない。これが、あのような【異形】であるはずはない。


 では――同じ姿をしている、こいつはなんだ?


「……さて」


 槍に突き刺され、【異形】が光になって消え失せる。冷たい視線が周囲に走る。


 大貴は絶句した。


 ジンは唇をかみしめた。


 【異形】がいる。同じ姿。同じ形。同じ色。同じ顔。


 それが――無数。


 周囲を取り囲むように展開していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ