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不死者の王  作者: Yuki@召喚獣
第一章
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建内優香の場合

 建内優香は普通の女子高校生だった。


 まだまだ眠い中起きたら、母に急かされるままに朝ごはんを食べる。顔を洗って着替えて少し眠気が冷めると、少しだけ化粧をして学校に向かう。


 自転車と電車を乗り継いで、道中で仲のいい友達と合流して学校に着く。授業は退屈だったが、若くて格好のいい国語の先生の授業だけは頑張ってみたり。


 お昼は購買か弁当か食堂のどれかで、友達と相談しながらその日のご飯を決めていた。


 午後の授業が終わったら部活のある友達と別れて、その他の友達と帰路につく。バイトのある日はそのままバイトに向かう。


 家ではある程度勉強はするが、それは学校から出された宿題をやる程度のもので、その宿題も面倒くさいからとやらない日もしばしばだった。


 そんなどこにでもいそうな建内優香の日常は、ある日突然崩された。


 バイトに向かう途中の道。街中で、比較的交通量の多い交差点を渡ろうとした時に、それは起こった。


 突然の巨大な揺れ。鳴り響く轟音。立っていられなくなり、思わず膝をついた瞬間、建内優香はハンドル制御を失った車に撥ねられた。











「おめでとう。貴女は不死者になりました。もう死ぬことはありません」


 夢の中でそんな声が聞こえた気がした。聞こえた気がしただけで、本当は聞こえていないのかもしれない。


 夢から覚めたように、私はゆっくりと目を開いた。


 視界に飛び込んできたのは暗くなりつつある夕暮れの空と、その空を隠すように広がる黒い煙。


 耳に飛び込んできたのは飛び交う怒号と何かが崩れる凄まじい音。


「くそ、なんなんだあいつら!」


 近くでそんな声がして、顔の横に転がっていた木片を踏みつける音が続いた。


 そこでハッとして身体を起こした。


「な、何……? どうなって――」


 驚いで出た言葉は、最後まで発されることはなかった。


 全身を包み込んだ赤い光。とても熱くて焼けそうだ。服の端がチリチリと燃えていく。咄嗟に顔を腕でかばうけど、大して意味があるとは思わなかった。


 どれくらいの間赤い光にさらされていたのだろうか。数秒だったのか。数分だったのか。よくわからない。


 けれども、赤い光が止んだ時に私はなぜか無傷で、隣にいたであろう男の人は黒焦げになっていた。


 何故? どうして?


 そんな疑問を自分の中で消化する暇もなく、近くで爆発が起こった。爆風が瓦礫とともに襲いかかってきた。


「ひゃあ!?」


 パラパラと瓦礫が身体に当たる。相変わらず傷は出来ない。


 それでも、これ以上ここにいるのは危ないと判断して、私はその場から逃げだした。どこかに行こうと思っていたわけではない。ただ、人の流れに沿って移動して行っただけだ。


 隣の男性が黒焦げになる直前に叫んでいた「あいつら」という言葉が気になったけど、考えている余裕はなかった。











 人の流れ沿って着いた先は自分の高校の体育館だった。校舎に着くまで、あまりに様変わりしてしまった辺りの様子に、自分の高校に向かっているのだということがわからなかった。


 崩れ落ちた家々に、ビル。燃え盛る炎が辺りを照らし出していて、もう夜だというのに昼間のように明るかった。


 避難所になっている体育館に入ったところで、ようやく一息をつくことができた。それと同時に、さっきまで感じていなかった恐怖が一気に押し寄せてきた。


 死ぬ。怖い。瓦礫。炎。熱い。光。家族。友人。死体。不死者――


 不死者?


 なんだろう、それは。


 唐突に湧いた不死者という言葉に戸惑う。死ぬのが怖い。熱いのが嫌だった。隣にいた男の人が死んでいた。怖い。どうにかなりそうだ。


 そんな思考に挟まる、不死者という言葉。


 でも、今はそんなことを気にしている場合ではない。家族が心配だ。友達が心配だ。


「お母さん! お父さん! 圭介! どこ!?」


 私は避難所を駆け回った。家族の名前を呼び、友達の名前を呼んだ。自分のことでいっぱいいっぱいだろう人たちにも聞いて回った。


 けれども、得られた情報は何もなかった。家族の安否も、友達の安否も。今何が起こっているのかも。


 とにかく巨大な地震が起こったのはわかっている。私が車に轢かれる直前に感じたのは、確かに地震の揺れ――車に、轢かれた?


 そこでまたしても私はハッとして、自分の身体を見た。はっきり思い出した。覚えている。私は確かに車に轢かれた。私が意識を失った原因は車に轢かれたことなのだから。


 それなのに、私の身体には傷一つない。思い返せば、よくわからない光にさらされた時も無傷だった。隣の男性は黒焦げになっていたというのに!


 唐突に、私は私自身のことが怖くなった。私のことがわからなくなった。私は確かに普通の人間だったはずだ。幼い頃には骨折だってしたこともある。普通に怪我をして、普通に治そうとする、普通の人間。


 でも、じゃあ、今の私は?


 車に轢かれても、人間が黒焦げになるほどの熱にさらされても傷一つ付かない。


 私は、何?


 そう考えた時、避難所の一角から声が上がった。あそこは、確かテレビが置いてあった所のはず。


 何かニュースでも流れたのか。でも、アンテナが壊れてテレビは映らなかったはずじゃ。


 気になって近付く。人を掻き分けて、なんとかテレビが見える位置に来ることができた。こういう時に女子高校生の小さい身体は便利だった。


 テレビに映っていたのは、人の顔だった。いや、正確には人ではない。人と同じ形をした異形の顔だった。


 全体の造形は人とほぼ同じだ。口も、耳もある。髪の毛も、濃い緑色という自然ではありえない色だが、キチンとある。けれども、目が違った。


 そこに映っていたのは、虫の複眼を持った人の顔だった。


 思わず息を飲む。なに、これ? 合成? でもテレビは映らないんじゃ。


 私が混乱している間に、テレビに映っていた人形が喋り出した。その口から、滑らかな「日本語」が流れ出す。


「我々はこの世界より別の世界からきた者たちである。我々は話がしたい。我々が求めるのは安定と安寧である。我々は、貴方達と話がしたい」


 滔々と語られたのは、そんな言葉だった。テレビを見ていた人たちがしん、と押し黙る。まるで私たちの一帯だけ音がなくなったかのようだった。


 話がしたい。安定と安寧を求める。


 そんなことを言っていた。でも、あの異形の存在が、なんなのかはわからない。異世界から来たとか言っていた気がする。


 みんなが黙って少し経って、唐突に一人の男性が声を上げた。


「ふざけるな!」


 そう叫んで、手に持っていた何かをテレビに投げ付けた。壊れて使い物にならなくなったスマートフォンだった。


 その男性の叫びを皮切りに、次々と叫び声が上がる。皆怨嗟の声を上げていた。怒りの声を上げていた。ふざけるなと怒号が飛び、家族を返せと叫び声が耳を劈く。


 皆、あの異形がこの惨事を引き起こしたと思っているのだろうか。


 証拠は何もない。でも、私もそう思った。このタイミングで、あの異形の姿。関係ないはずがない。異世界から来たとか言っていたし。


 まだ、死んだと決まったわけじゃない。それでも、あいつらがお父さんを、お母さんを、圭介を、友達を――!


「ふざっけんな! 返してよ、私の全部!」


 叫んだ瞬間、目の前で赤い光が炸裂し、テレビが破壊された。


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