街が壊れていたんですよ
夢の中で誰かが俺に言ったんだ。
「おめでとう。貴方は不死者になりました。もう死ぬことはありません」
いまいち判然としない頭で、それだけは覚えていた。他に何か言っていたのか、何も言っていなかったのか。それはわからない。
それでも、何故かそれだけが印象的で覚えていた。普段夢は見ても忘れるのに、そこだけは忘れなかった。
そして目を開けると、そこは知らない世界だった。いや、知らないとは語弊があるのかもしれない。俺はこの景色をさっきも見ていた気がするのだ。
だから、確認するために周りを見回した。崩れて陥没したり隆起したりしているコンクリートに、破れた水道管から噴き出る水が飛び散っていた。そして、元がなんだったのかわからないような瓦礫や残骸が散らばっている。
辺りは炎が上がっていて、その煙のせいで空は暗かった。暗かったのは煙のせいだけではないのかもしれない。時間は夕方を少し過ぎた辺りになっていた。俺がトラックに轢かれてから幾ばくも経っていない。
道路にはトラックやら乗用車やらが軒並み倒れたり破損していたりして、その周りには残骸に混じって赤いものがこびりついていたり、流れていたりしていた。それはきっと人の肉や血なのだろう。
何が起こったのだろうか。さっきまで見ていたはずの街が崩れていた。文字通りの崩壊だった。無事なところが見つけられない。
生きている人というか、動くものが見当たらないことに気付いて、それからはたと思い出したのは、自分が死んだのだということだった。
俺は確かにトラックに轢かれていた。それは間違いないだろう。しかし、何故か生きている。トラックに轢かれた俺が生きていて、轢いたであろうトラックが向こうで横転していた。なんなら、運転手の死体らしきものも見え隠れしている。
服も、破れていた。携帯も無残な姿になっている。やっぱり轢かれたのだろう。辺りには俺の血だと思われる赤い液体が流れている。
でも、俺はなんともなかった。怪我もしていないし、どこも痛くない。なんなら、普段よりも体調が良いぐらいだった。
倒れていた体を起こして立ち上がる。瓦礫や埃を払って、改めて周りを見渡した。
見渡す限り、地平線……は見えないが、見える限りの範囲において、街は壊滅していた。文字通りの壊滅。街が街ではなく、街だったものの残骸が転がる平野になっていた。
何が起こったのか、俺にはわからない。でも、何かが起こったのは確実だった。
だから俺は何が起こったのかを確認するために歩き出した。それで何がわかるというのか。俺にはわからない。それでも、その場にじっとしているよりはマシだと思ったのだ。
行動を起こし始めた時にふと思った。俺はこの状況に何も感じていない。街が崩れているということ。人が死んでいるということ。俺が生きているということ。
その全てにおいて俺にはなんら思うことが無かった。
全ての出来事が驚愕に値すべき事実であるだろう。だけど俺にはどうでもいいことだった。
そして、街のことよりも、俺自身のそんな感情に驚いた。流石にもう少しは感動的な人間であったはずだ。だけど、そんなことを考えていたところで不毛な行動だというのは分かりきっていることだった。
一歩を踏み出して瓦礫を踏みしめる。思い出して、すぐに流したのは、「貴方は不死者になりました」という夢の言葉だった。




