第8話 個性あふれるデスク
今回の騒動で『無事』と言えるのはジャスティンとレミだけだった。
死亡は一名、ユリアスのみ。コルダスをはじめ、他は一命を取り留めた。だが重傷を負い、騎士団は続けられない身体となった。
拠点の町に帰ってきてから、レミはずっと部屋に閉じこもっていた。ベッドの上で膝を抱えてうずくまっている。心配そうにクロウスが寄り添うが、反応はない。
ジャスティンは彼女を怒ることができなかった。故郷を破壊され、目の前でユリアスも失った。無理もない反応だ。
欠員の多さからコルダス隊は解隊される運びとなった。それに伴いジャスティンは別の隊への異動となる。
ジャスティンは重症の仲間たちに代わり、書類の整理や部屋の後片付けをしている中で、あるものを見つけた。
見つけたのはユリアスの部屋の引き出しだ。他は荒れているのに、その周りだけ妙に綺麗にされている。
白い箱に黄色のリボンがかけられていた。正直、彼が持つには似つかわしくない箱だ。ふと、日付と思われる数字が書かれた紙がリボンと箱の間に入れられていることに気付く。
日付はまだ先のものだ。ジャスティンは何の日付だろうと記憶をたどる。プレゼントのように見えるが、彼に恋人がいるとは聞いたことがない。
彼がこんなに可愛いプレゼントを渡す相手。
ジャスティンの頭に一人だけ浮かんだ。思えば日付は彼女の誕生日である。
白い箱を手に、ジャスティンはレミの部屋に向かった。出てきてくれるか不安だったが、ドアを叩くとゆっくり開いた。顔を出した彼女の目には生気がなく、背中も丸まって元気がないのは一目瞭然だった。
「ジャスティンさん。ごめんなさい。何もできなくて……」
レミは申し訳なさそうな面持ちになる。
「雑事は俺がやっておく。少し、落ち着いたか?」
ジャスティンはできるだけ優しく言った。レミはぎこちなく頷く。食事もまともに摂っていないせいか、痩せたようにも見える。ジャスティンは手にしていた箱をレミに差し出した。レミは不思議そうにその箱に目を落とした。
「ユリアスの引き出しに入っていた。お前の誕生日が書かれていたよ」
その言葉にレミは目を見開く。ジャスティンはレミの手を取ると、ポンとそこに箱を乗せた。
「受け取ってやれ」
ジャスティンはそれだけ言うと、部屋を後にした。
レミは箱を手にドアを閉める。ベッドに座ると、そっとリボンを解いて箱を開けた。
そこには銀色のブレスレットが入っていた。小さなプレートの裏に何か文字が彫られている。レミはブレスレットを箱から取り出し、窓の光で文字がはっきりわかるように傾ける。
『レミスオーネ』
ユリアスにしか教えていない彼女の本当の名前。
ポタリとレミの目から涙がこぼれた。ブレスレットを抱きしめ、静かに涙を流す。クロウスは、もにっと彼女に寄り添った。
ジャスティンは一人で事務室を片付けていた。コルダスの部屋はまだいい。引継ぎに必要なものが多いからだ。そもそも整頓もされている。
問題はその他の机だった。それぞれの性格が如実に表れている。
ケビンは報告書の控えの類はきちんと整えられている。だが、なぜかトランプが四種類ほど引き出しにしまわれていた。
デビットも比較的几帳面なので、整えられておくべきものは整えられている。が、引き出しの一つがお菓子の引き出しだった。
アドルフは趣味の木工作品がずらりと並べられており、大きめのそれは書類が飛ばないよう文鎮代わりにされている。
チャーリーは弓の手入れをかかさない。手入れ道具と思われるものたちが一番の面積を占めていた。
ユリアスに至っては性格通りの悲惨な有様だった。本人もどこに置いたか忘れるくらいだ。他人にわかるわけがない。
レミも教育係の影響されたのか、乱雑なほうに入る。せめてもの救いがクリップ止めをして散らからないようにしている点か。
ジャスティンは個性溢れる机にため息が漏れる。
「ジャスティンさん、手伝います」
控えめな声でレミが現れた。
「もう大丈夫なのか?」
「ジャスティンさんにばっかり、任せてられませんから」
心配そうなジャスティンに、レミは力のない笑みを浮かべる。
「そうか。なら、最初にこいつをやっつけてくれ」
ジャスティンが指したのはユリアスの机だった。嵐の後のような机に、レミの顔から表情が消える。それから無言で机に手を伸ばした。わしゃっと机の上にある書類を丸める。その行動にジャスティンは思わず声を上げる。
「お、おい! 確認しなくていいのか?」
「大丈夫です。机の上にあるのはほぼ捨てていいのに捨ててないものばかりですから」
レミはきっぱりと言い切ってどんどん紙を捨てていく。ユリアスの行動はこの一年でほぼ把握している。問答無用で紙をかき集めた。それから引き出しをガラッと開ける。途中で引っかかった紙が、ぐしゃりと折れ曲がった。
「……だから捨てろって何回も言ってんのにあの人は。人の言うこと聞きゃしねぇ」
レミは思わず悪態をついた。いらないものは捨てろと何度も言ったはずだ。積み重ねられた紙を軽くめくる。
三年前の日付が出てきた。
ガバッとそれらを取り出してゴミ認定する。何年分の書類が眠っているのかわかったものではない。
クロウスはゴミ袋を持って行ったり来たりと忙しなく動き回る。
ジャスティンも他の机のいらなさそうな書類とどんどん捨てていく。そしてデビットのお菓子の引き出しに手がかかった。
「レミ、クロウス、休憩しよう。食べるぞ」
お菓子を綺麗になった机に並べる。レミはじーっとそれを見た。デビットが好きな甘いお菓子ばかりだ。
「怒られません?」
「俺たちに部屋の整頓任せたあいつらが悪い。このくらい貰わないと割りに合わないだろ」
ジャスティンはフンと鼻を鳴らして一つのお菓子を手に取った。
「ですよね」
レミも同意してお菓子を拝借する。その内の一つをクロウスに手渡した。クロウスは手のような触手を伸ばし、お菓子を受け取る。身体に取入れ、ジュワッと溶かして食べた。
ポリポリとお菓子を食べるレミを見てジャスティンは内心ホッとした。お菓子だろうと何も食べないよりはマシだ。
時折お菓子休憩を挟みながら部屋の整理をしていく。すべてが終わったのは、ちょうどお菓子が尽きた頃だった。
「レミ、お前はこの後どうする?」
ジャスティンが最後のお菓子を食べながら尋ねた。レミは口に入れようとしたお菓子を止める。
「……あたしは、騎士団辞めます」
「そうか」
ジャスティンは驚くことなく頷いた。そんな気はしていた。
「あたしが守りたいもの、全部なくなっちゃいましたから」
レミは寂しそうに笑った。
そして数日後、レミは誰にも見送られることなく騎士団を去った。
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次回から現在に時間軸が戻ります。
引き出しの一つをお菓子の引き出しにしていたのは私です。大事です。お菓子。
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