第4話 悪の大魔王みたいに
レミは与えられた城の部屋でゴロゴロしていた。
会合の開催地へいつ出立するのか正確にはまだわからない。
昨日はクリスと町へ出かけたが、『魔力なし』であることに気付かれるとジロジロ不躾な視線を送られた。非常に居心地が悪い。一緒にいるクリスにも好奇の目が向けられるのは申し訳なく、今日は彼女一人で出かけてもらっている。
ベッドで仰向けになり、うとうとしているところでドアがノックされた。レミはハッと目が冴える。返事をしながらドアを開けると、ジャスティンが立っていた。
「レミ、ちょっと付き合ってくれないか。うちの若いのが『魔力なし』でも魔法が使えるって言っても信じてくれないんだ」
「普通は信じないんじゃないですか?」
不満げなジャスティンだが、レミの言うことはもっともである。魔力がないから魔法は使えない。そう思うのが当然だ。ジャスティンも出会った当初はそうだった。
ジャスティンは「いいからいいから」とレミの手を引き、運動場へと連れていく。
「はい! こちらが『魔力なし』の魔法剣士のレミだ」
ジャスティンはそう言って、レミを部下たちの前に突き出した。本物だ、『魔力なし』だ、と彼らはざわめく。
「あたしは見世物じゃないんですが?」
ドスの利いた声でレミがジャスティンを振り返る。その気迫にジャスティンの部下たちは震えあがった。声を向けられた本人は動じない。
「わかってるって。クロウスは一緒か?」
「はい。"中"に居ますけど」
レミは自分の胸の辺りを指した。クロウスはずっとレミの中にいる。いつでも魔法を発動できる態勢だ。
ジャスティンは「ならいい」と頷く。
「お前たち、レミに魔法撃ってみろ。絶対に当たらないから」
ジャスティンは部下たちにそう指示し、レミに適当に離れた位置に立つよう促した。仕方なく、レミは言われた通り離れた場所に立つ。
炎が、水が、雷が、風が、次々にレミを襲った。一斉に魔法を放ったことで、土埃が立ち昇る。レミの姿はその陰に隠れてしまった。魔法を撃つ手が止まる。
「反撃していいぞー」
「はーい」
ジャスティンの声にレミは呑気な声で返事をする。途端に、土埃の中から闇色の刃が三つ飛んだ。横に並んでいたジャスティンの部下たちに襲い掛かる。彼らは悲鳴を上げて吹き飛ばされた。
その悲鳴を聞いて、レミは攻撃を止める。晴れてきた土埃にレミの影が浮かび上がった。
「大丈夫ですか? 加減はしたつもりなんですけど」
レミが近づくと、ジャスティンの部下たちはよろよろと立ち上がった。大きなケガはないようだ。
「いや、心配ない。これで心身ともに人を見た目で判断しちゃいけないと刻まれただろうからな」
言った通りだったろう、とジャスティンは自身の部下を見やる。誰もが信じられないものを見た顔をしていた。
「そんなバケモノを見たような顔しなくても」
レミが顔をしかめる。彼らのような視線には慣れているが、やはり気持ちの良いものではない。
「あの……どうやって魔法を避けたんですか?」
一人の青年がおずおずと質問した。レミは考える素振りを見せ、意地悪くニヤリと笑う。
「教えない」
「それを見破るのも魔法使いの仕事だ」
彼女と同じ顔をして、ジャスティンも笑った。若人は導くが甘やかさない。
ジャスティンの指導は相変わらず厳しいとレミは思った。魔法に関しては彼の指導が大基にある。レミがクロウスと協力して精霊魔法を自在に使いこなせているのはそれがあってこそだ。
ディラン達はその様子を部屋の窓から覗いていた。レミの精霊魔法を使った鮮やかな回避にディランは舌を巻く。
「『魔力なし』だってことを忘れそうになるな」
「容赦ないっスね」
バーナードはブルッと身震いをする。敵にならなくて本当に良かったと心底思った。
「いや、加減はしていただろ。でなきゃ死人が出てる」
アリックは首を横に振った。彼もあの闇色の刃には襲われたくない。魔物の身体を簡単に切り裂く代物だ。人間など紙を裂くに等しいだろう。
大ケガをした人がいなかったのは、レミがきちんと魔法を制御できているからだ。魔法が身近な分、その辺りのことはよくわかる。
「しかし不思議でヤンス。『魔力なし』が精霊魔法だけ使えるなんて」
ダリルが首を傾げた。レミに聞いても、なぜ使えるのか理屈はわからないようだった。使えるから使っているだけ。そんな印象を受けた。
ディランはフムと考え込む。
「あいつに聞けばわかるかもしれないが……」
「ある意味、レミを会わせてはいけない気がします」
ディランの言う「あいつ」とレミを引き合わせることにアリックは否定的だ。バーナードもダリルも賛成はできかねる表情を浮かべていた。ディランも出来れば会わせたくないのか、苦い顔をして頷く。
彼らが話をしているうちに、運動場ではレミがバンバン魔法を放ってジャスティン隊を追い詰めていく。
「あはははは! 遅い遅い!」
高笑いをしながら光の矢を放つレミは、さながら物語に出てくる魔王のようだ。
ジャスティンの部下たちはそれを防ぎながら反撃の機会をうかがう。だが、レミに隙がない。ジャスティン並みに魔法を撃つのが早かった。自分たちとは次元が違うと思い知らされる。
「防いでばかりじゃやられるよー」
レミは両手を天に掲げる。その上で黒い球体が渦を巻いた。
威力が大きい魔法が来る。ジャスティンの部下たちが身構えた瞬間、レミはそれを放った。飛んできた黒い球体は張っていた結界にぶつかると一瞬でそれを破壊する。
同時に上からとんでもない圧力が彼らにかかった。耐える間もなく地面に叩きつけられる。息が詰まり、呼吸がままならない。
数秒後、その圧力が消えた。空気が肺に入っていくのを感じる。呼吸が楽になった。
「これでわかっただろ。『魔力なし』でも魔法は使えるんだぞ」
ジャスティンは地面にへたり込む部下たちに言い聞かせた。彼らは肩で息をしながら元気のない返事をする。
「こんなもんでいいですか?」
「ああ、十分だ。それより光の精霊とも仲良くなったのか?」
戻ってきたレミにジャスティンは聞き返す。レミは頷いてシャルティスに呼び掛けた。ポンッと光が弾け、ガラスのような蝶の翅を持った小さな少女が姿を現す。
「おおー新顔だな。よろしく」
ジャスティンは笑って右手の人差し指をシャルティスに差し出した。シャルティスも両手を彼の指に伸ばして挨拶をする。
「村の近くで土砂崩れに巻き込まれてたところを助けたら仲良くなってそのまま」
「相変わらず精霊に好かれるな」
レミの説明にジャスティンは感心した声を出した。以前からレミは精霊に好かれる傾向にある。
クロウスもレミの胸辺りからポンと飛び出た。レミは両手でそれをキャッチする。クロウスの姿を見たジャスティンは嬉しそうに笑った。茶色の目が細められる。
「クロウス! 久しぶり。元気だったか?」
ジャスティンはクロウスのもにもにボディを両手で撫でて堪能する。クロウスも嫌がる素振りを見せず、もにもにしている。
隊長が謎の物体と戯れている光景に部下たちは驚いて見ていた。ある者はクロウスを気味悪がり、ある者はもにもにボディに魅了されている。
その視線に気づいたレミがジャスティンの陰からひょこっと顔を出す。
「優しく触る分には構わないよ」
ジャスティンも「触れ触れ」と促した。興味のある数人が前に出た。女子がやや多い。精霊自体に興味がる者もいるようだ。
順番にクロウスのもにもにボディに触れていく。キャッキャッと女子たちは楽しそうだ。どのくらい一緒にいるのか、あれ以外にも魔法は使えるのか、など様々な質問をする。
レミもわかる範囲で答えた。たまに専門知識が必要な質問をされて戸惑った。騎士団の魔法使いを志望するだけあって、勉強熱心だ。
すると、ジャスティンが思い出したように声を上げる。
「出発だけど明日だから。よろしく」
「そういう大事なことはもっと早く言ってくれませんか?」
レミは腹立たしげな表情をジャスティンに向けた。
お読みいただきありがとうございます!
クロウスの「もにもにボディ」は女性に人気です。癒されましょう、もにもに。
ブックマーク機能を使っていただくと更新時にお知らせがいきます。ぜひご活用して、レミの冒険を見守ってください。




