第34話 成敗!
イルマーダ王国の王城の謁見の間は青に彩られていた。
窓には薄い青のカーテン。床には濃い青の絨毯。涼やかな印象を受ける。
その中に、ディランとレミ、クリスの三人は立っていた。ディランはイルマーダ国王を前に調査の報告をする。
国王と、国政の重鎮たちはその報告を黙って聞いていた。
異常気象と魔物の狂暴化の原因は魔粒子の流れの滞りであること。
その流れを司る存在がいること。
魔粒子は精霊界と行き来して循環していること。
『魔力なし』とは、人間と精霊の親を持つ者のことであること。
わかったことは様々あるが、ディランは適当にかいつまんで説明した。
「詳細は後日、アルヴェントの報告書をご覧ください」
ディランは最後にそう締めくくって一礼をする。
「うむ、三人とも、ご苦労であった」
国王は頷いて彼らを労った。
話が一区切りついたところで、レミが国王を見つめた。目が合った国王は、何かあったのかと彼女の言葉を待つ。
「国王陛下、一つだけご報告があります」
レミの進言に、謁見の間がざわつく。国王はそれを手で制してレミに続きを促した。
「道中、ディランの命が狙われました。それを指示した人が、この場にいます」
「なんだと?」
国王の表情が険しくなった。ディランは国王にとって大事な甥。その命を狙うとは許しがたい。
ブラーガ公爵の目つきも鋭くなった。
謁見の間が再びざわめく。
「あの人です」
レミはピシッと一人の人物を指した。
体格の良い、白髪交じりの茶髪の男。ブラックベル伯爵である。
周囲の視線がブラックベル伯爵に注がれた。
「何を根拠にそのようなことを。初対面の人間にする発言ではない。なんと礼儀知らずな」
ブラックベル伯爵は鼻で笑う。周囲の視線などものともしない。
レミは不敵に笑った。
「確かにアンタとは今日がはじめましてだ。なのに、なんであたしの魔法がかかっているの?」
ブラックベル伯爵の眉がピクリと動く。
『魔力なし』の魔法と聞いて、ひそひそと小声で会話が交わされた。
「『魔力なし』の魔法だと?」
「何の力があるというんだ」
「そもそも、魔法を使えるのか?」
ブラックベル伯爵だけが、硬い表情になった。ジオーラ子爵と会った時に身体の中に入った、黒い魔力。
「心当たりがあるようだね」
レミはパンッと手を打ち鳴らした。
途端に、ブラックベル伯爵の背後に黒い魔力が溢れ出た。
靄のように揺らめく黒に、隣にいた男は腰を抜かす。反対側に立っていた者たちも我先にとブラックベル伯爵から離れた。
ディランとクリスもその光景にギョッとしている。
背後の靄に気付かないブラックベル伯爵は何事だと周囲を見回す。彼らの視線が自分の後ろに向けられていると気付き、振り返った。
ブラックベル伯爵が驚きの声を上げる前に、黒い手となった靄は彼を締め上げた。
「は、放せ!」
ブラックベル伯爵は手を振りほどこうともがく。黒い手は拘束を緩めることはしなかった。
レミはフンと鼻を鳴らした。
「ジオーラ子爵には指示した人に会いに行くよう仕向けた。直接会った人じゃないと印が移らないからね」
「じゃあ、子爵にかけてた魔法はこれのことか?」
ディランはおぞましさすら感じる魔法を凝視する。
レミはイルマーダ国王を振り返った。
「どう裁くかは、国王陛下にお任せします。私は事実をお伝えするだけです」
レミの言葉を聞いた国王は目を閉じて思案する。ゆっくりと目を開け、控えていた兵士に告げた。
「ブラックベル伯爵を拘束しろ。詳しい話を聞かせてもらおう」
国王は鋭い視線をブラックベル伯爵に向けた。
「ち、違います陛下! 『魔力なし』の妄言に惑わされてはいけません!」
「ならば、その黒い手はなんだというのだ?」
弁明に走るブラックベル伯爵を、国王は冷たい視線で問う。
兵士がブラックベル伯爵に近づくと、黒い手が拘束を解いた。その瞬間、ブラックベル伯爵は炎の塊をレミに放った。
涼やかな空気が熱気にあおられる。
ディランは素早くレミの前に立ちふさがり、水の魔法で相殺させた。白い蒸気が高い天井へ立ち昇る。レミの目の前で赤い髪が揺れた。
ディランはふうと息をついて振り返る。
「大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう」
国王の前で反撃されるとは思っていなかったレミは反応が遅れてしまった。ディランが水の魔法を放たねば、火傷を負っていたことだろう。
ブラックベル伯爵は兵士に取り押さえられていた。引きずられるようにして謁見の間から連れ出される。
「ディラン、何故そのことを報告しなかった?」
国王はひと息ついて尋ねた。ディランは視線を彷徨わせて答えを探す。
「調査とは関係のないことでしたから……」
「だから、命狙われたのはそういう問題じゃないってば」
「そうよ。もっと怒りなさいよ」
レミとクリスが後ろからチクチクと口撃する。ディランは肩身が狭くなった。言うと面倒くさくなるから、とは言えない。
彼女たちの言う通りだ、と言いたげに国王は大きく頷く。ブラーガ公爵はため息をついて肩を落とした。
「お前は昔から自分のことには無頓着というか、何というか……」
国王は唸った。深く息をつき、ポンと膝を打つ。
「ギルガントへの報告はどうするのだ?」
「アルヴェントの報告書が完成次第、それを持って帰国しようかと思います」
クリスが丁寧な口調で答えた。国王は「そうか」と了解する。
「その際は、ハワード陛下へよろしく伝えてくれ。これからは良好な関係を築いていこうと」
「かしこまりました」
レミとクリスは頭を下げた。
アルヴェントの報告書があまりにも分厚く重いことに、彼女たちが頭を悩ませるのは、それから一週間後のことであった。
お読みいただきありがとうございます。
これでディランを狙う輩はいなくなりました。怖いお友達がいますので。
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