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第28話 空の旅


《精霊であり、人間である黒白こくびゃくの子以外、"狭間"に行くことは出来ない。私ですら、再生した時しか"狭間"にはいられないからな》


 ルーナは、はっきりと言った。三人の視線がレミに集まる。レミは思わずたじろぐ。


「いや、行けって言われても、簡単に行けるもんなの?」

《ここからは行けぬが、魔粒子ダストが精霊界へ抜ける場所からなら行ける》


 さらりとルーナが答えた。レミは「行けんのか」と顔をしかめる。独りで行くのは、ちょっと怖い。

 アルヴェントは「ん?」と首を傾げた。


「……と、言うことは人間が精霊界に行くことも?」

《無論、可能だ》


 ルーナの言葉に、アルヴェントが小躍りする。夢の精霊界。正直、行く必要はどこにもないのだが、行く気満々だ。

 ディランが声をかける。


「精霊界まで行く必要ないんじゃ――」

「あるよ! ちゃんとルーナのついが精霊界に現れないと人間界だって無事じゃないんだよ。確認しなきゃ! ついでに、レミのお父さんにも会えるかもしれないし!」


 アルヴェントはワクワクが止まらない。声がいつもより高かった。


「こいつ、人の父親に会うことを、ついでって言い切ったよ」


 レミがクリスに耳打ちする。クリスは苦笑いするしかない。


《ふむ、ならば向こうまで送ろう》


 あっさりとルーナが進言した。どうやって? と一同は首を傾げる。


 ルーナは、ふーっと息を吐いた。森が小さく揺れる。草木のさざめきを感じたレミは反射的に剣に手を伸ばした。


 森の中から現れたのは何本ものつるだった。蔓たちは意思を持っているかのようにシュルシュルと動き、幌馬車と馬を包み込んでいく。

 最後に太い、しめ縄のような紐を作り終えて森へ戻っていった。


《さあ、乗れ》


 ルーナに促され、蔓に包まれた馬車へと乗り込む。太い縄のように編まれた蔓を、ルーナの鋭い爪が掴んだ。

 大きな羽ばたきでゆっくりと上昇する。蔓がギシッと軋む音がしたが、ほどける様子も千切れる気配もない。


 ルーナは雲の高さまで上昇し、北へ進路を取った。


「わあ、高い」


 クリスが眼下の景色を見ながら笑った。反対に、レミは少し疲れた顔をする。


「私たちの苦労は何だったんだろう」


 通って来た町がどんどん過ぎていく。そこを馬車で通って来た時間を考えると、なんだか切なくなる。

 アルヴェントも澄んだ空を見てつぶやく。


「空を飛ぶ乗り物が開発出来たらなあ」

「どれだけ予算使う気だ」


 ディランが思わず指摘する。しかし、あったらいいな、と彼も思った。


 空の旅は上空ということもあり、やや寒い。冷たい空気が馬車の中へ吹き込んでくる。

 クリスとレミはサッと毛布を羽織った。


「ねえ、アルヴェント。ルーナの話を自分なりに解釈してみたんだけど」


 レミはそう切り出した。アルヴェントは小さく頷く。


「人間界と精霊界の間に、"狭間"って空間があるわけでしょ。で、そこには『魔力なし』のあたししかいけない」


 確認するように、レミが一度言葉を止める。クリスとディランも同じ解釈なのか、首を縦に振った。レミは気まずそうに顔をゆがめた。


「精霊界に行く途中でさ、あたしだけ"狭間"に行っちゃうとか、ないよね?」


 レミの言葉に沈黙が走る。その答えは、まだ誰も知らない。

 アルヴェントは考え込んだ。


「それは行ってみないとわからないけど、無きにしも非ずって感じかな。"狭間"に行く条件が黒白の子だけってことしかわかってないし」

「あたしだって精霊界に行ってみたいよ。っていうか、もし"狭間"に行って出口なかったらどうしよう」


 レミは早口になった。遅かれ早かれ、彼女が"狭間"に行くことは間違いない。


 人間界と精霊界には魔粒子ダストの通り道という出入り口がある。それが"狭間"にもあるとは限らない。


「じゃあ、手を繋いで行けばいいんじゃない?」


 軽い口調でクリスが提案する。ディランもそうしようと言うように頷いた。レミは呆れて肩を落とす。


「そんな単純な……」


 呆れるレミにアルヴェントは首を横に振る。


「いや、一つの方法かもしれないよ。何事もトライ&エラーさ」

「エラーが起きたらシャレにならないんだけど」


 レミの口の両端が下がった。エラーが起きたら間違いなく、彼女だけ"狭間"行きとなる。レミはもぞもぞと丸まった。


「ヤダよー。独りで知らないとこ行くの怖いよ。あたし、アルヴェントみたいに頭よくないもん。どうしたらいいかわからない」


 レミが愚痴る。そんな彼女の頭をクリスがよしよしと撫でた。


「あまり気負わずにいましょう」


 クリスが優しく言った。


お読みいただきありがとうございます。

何事もトライ&エラーであります。

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