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第26話 憎悪の瞳


 レミは焦った。『魔力なし』であることに気付かれてしまった。


 ここはイルマーダ国内。田舎であるからこそ、信心深い人は多い。『魔力なし』の迷信を信じている人が多いかもしれない。


 皆に報告しなければ。


 レミは急いで礼拝堂へ向かう。カツンと礼拝堂に靴音が反響した。サングラスを額の上に乗せている彼女を見て、ディランが首を傾げる。


「どうしたんだ?」

「ごめん、サングラス外しているトコ、見られた」


 ディランにレミが申し訳なさそうに答える。

 勢いよく起き上がったクリスの顔が引きつっていた。寝起きで乱れている髪を直そうともせずに立ち上がある。


「大丈夫? 何もされてない?」


 クリスはレミに駆け寄った。レミは彼女を落ち着かせるように肩を叩く。

 すると、礼拝堂の外が騒がしくなった。


 レミはクリスを礼拝堂の中へ押し込む。剣や農具を持った村人たちが礼拝堂へ押し入った。


「お前が魔物を呼んだんだ!」

「お前のせいで兄貴が……!」


 村人たちは口々に魔物の襲撃の恨みをレミにぶつける。憎悪の念がこもった瞳がいくつもレミに向けられた。


 行き場のなかった憎しみと悲しみが、行きつく場所を見つけた。


 クリスはカッとなってレミの前に出た。


「レミがあなたたちに何をしたっていうの!? あなたたちのケガを治したのは誰!?」


 語気を強めて叫ぶクリスに、村人たちは言葉を詰まらせる。


「レミがあなたたちにしたのは、ケガを治したことと、魔物を退治したことだけだ。それ以外のことは何もしていない」


 ディランは足元をふらつかせながらも立ち上がった。アルヴェントが彼を支える。


「やめないか、お前たち」


 静かだが、強い言葉が村人たちの後ろからかけられた。そこには杖を突いた老人が立っていた。老人はゆっくりと村人たちに歩み寄った。


「黒の子は精霊の言葉を聞くことが出来る。そのおかげで助かったのは誰だ?」


 村人たちは顔を見合わせた。ケガで苦しんでいた彼らを助けたのは、他でもないレミだ。

 振り上げられようとしていた農具から力が抜ける。


 老人の言葉に最も反応したのはアルヴェントだった。村人をかき分け、老人へ詰め寄る。


「ご老人、黒の子は精霊の言葉を聞くことが出来る、とはいったいどういうことですか?」


 前のめりに訊いてくるアルヴェントに、老人は少し引き気味になる。


「詳しいことはわからん。わしの爺さんの、そのまた爺さん辺りから伝わってる言葉だ」

「随分と昔のことだな。黒の子が『魔力なし』を示す言葉だとしたら、やっぱりレミは精霊の言葉がわかるってことか」


 アルヴェントが思考にふける。これではなかなか"帰って"こないだろう。彼の考察にレミがつぶやく。


「言いたいことが何となくわかるだけなんだけどなあ」


 はっきりと言葉が理解できているわけではない。ただ、何を伝えたいのかがわかるだけだ。


 しかし、そういう感覚的なことをはっきりさせないと、アルヴェントは納得してくれない。


「お前さんたち、調査と言ってたが、どこまで行く気だ?」


 老人がレミを見上げながら尋ねた。その目には『魔力なし』に対する嫌悪感は見当たらない。白髪が混じる眉は優しく彼女を見つめている。


 レミはその目を素直に受け止めた。嫌悪感を抱かぬものに向ける敵意はない。


「もう少し先まで。この先に魔粒子ダストが噴き出る場所があるらしい」

「それなら神殿の跡があるからわかりやすいだろう。大昔には神殿があり、金色こんじきの竜がいたと伝えられている。今ではただの御伽噺だがな」


 老人の言葉に、レミは驚いてクリスと顔を見合わせる。


「その竜が魔粒子ダストと何か関係しているのかな?」

「さあ? 戦うことにならないといいけど」


 クリスはやや不安そうに首を傾げた。竜と戦うなど、四人だけでは無理だ。


「とにかく行ってみよう。ご老人、ありがとうございます」


 ディランは丁寧に老人に頭を下げた。老人は「気をつけていくんだぞ」と微笑んで去って行った。村人たちも散り散りになっていく。


「何よ、レミに一言も謝らないで」


 何も言わず去って行く村人たちをクリスは睨む。ふんと鼻息荒く息をついた。それからレミを振り向く。


「レミも何か言ってやればよかったのに」


 文句の一つや二つ言ったところで、罰は当たらない。レミは小さく笑いながら肩を落とす。


「私が言う前にクリスとディランが言っちゃったからだよ」


 何より、レミは言葉より先に手が出る。あの剣や農具が振り下ろされていたら、村人たちは再びケガをすることになっていただろう。

 ディランはひとつ頷いた。


「ひとまず、情報が手に入って良かった。神殿の跡を探してみよう」


 彼の言葉に、レミとクリスも同意する。

 三人の視線がぶつぶつ言っているアルヴェントに向けられた。


「あれ、どうするといいの?」


 レミがディランに訊く。彼はしばし、思案して答えた。


「引きずるか」


 その答えは、どこか投げやりだった。


お読みいただきありがとうございます。

レミの出自が徐々に明らかになっていきます。

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