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第24話 不安な夜


 レミが村に戻ってくると、何か騒がしかった。ディランやクリスの姿を探す。背の高さで目立つアルヴェントも見当たらない。

 ひとまず、シャルティスがいる礼拝堂に入った。


「ディランが……!」


 レミの姿を見たクリスが泣きそうな顔で駆け寄る。レミはクリスの後ろに目を向けた。ディランが静かに横たわっている。サングラスの奥で黒い瞳が見開かれた。


 動かないユリアスの姿がレミの記憶から蘇る。寒くないのに、身体の中が凍えるように寒い。動けないでいるレミに、アルヴェントが声をかけた。


「傷は浅いけど、何か矢尻に塗られていたのかもしれない。熱がある」

「シャルティスがあの状態じゃ、魔法は使えないよ」


 レミはテーブルで眠っているシャルティスを見やる。スヤスヤと落ち着いた呼吸で眠っていた。これ以上、彼女に無理をさせるわけにはいかない。


「傷は僕の魔法で治しておいた。熱は、下がるのを待つしかない」


 アルヴェントが悔しそうに言った。ディランの額にはアルヴェントが魔法で出した氷が入った氷嚢ひょうのうが置かれている。


 レミの右手が銀のブレスレットに伸びた。無力感が彼女の心に去来する。また、何もできないのか。

 クリスも不安そうに胸の前で両手を握っている。


「ディランは体力もある。大丈夫だよ」


 アルヴェントは彼女たちを安心させるように頷いた。レミとクリスも顔を見合わせ、互いを落ち着かせるようにコクンと頷く。

 彼らは礼拝堂の一角を借り、休ませてもらうことになった。


 その夜、アルヴェントはずっとディランのかたわらにいた。熱のせいで呼吸が荒いディランを心配そうに見下ろす。後ろから声がかかった。


「アルヴェント。休みなよ。あたしが看てるから」


 レミがアルヴェントの隣に胡坐あぐらをかいた。腰から外した剣を前に置く。

 しかし、アルヴェントは動きそうにない。レミは黙って隣にいた。


「……ディランはいつもこうなんだ」


 ぽつりとアルヴェントがこぼした。


「誰かがピンチの時は、後先を考えずに飛び出す」


 レミがアルヴェントに顔を向けると、彼は穏やかに微笑んでいた。まるで、昔を懐かしんでいるようだ。レミは視線をディランに落とした。


「今回のことは、あたしのミスだよ。相手に気付かなかった、あたしが悪い」


 レミの眉間にしわが寄る。魔物に集中しすぎていた。そのせいで、反応が遅れた。刺客なんてもう来ないと油断していた。全ては彼女の慢心だ。


「相手はギルガント側からだった」

「どっちも、考えることが同じ人はいるもんだ」


 アルヴェントは「やれやれ」とため息をつく。


「同じ人間だからね。考えることは、みんな同じなんでしょ。互いに足引っ張ってりゃ世話ないよ」


 レミも彼の意見に反対はしない。左膝に頬杖をついてため息をつく。丸まった背中に疲れが見えた。

 アルヴェントはぽりぽりと頭をかく。 


「そんなに僕らが調査するのが気に食わないのかね」

「あたしの場合は、無条件で『魔力なし』だからってのがつくわな」


 レミが「ふん」と鼻で息をする。何をするにも『魔力なし』のくせに、と文句がつけられる。


「そんなもの、レミを陥れる要因にはならないよ。僕とディランが証明する」


 アルヴェントの言葉は力強かった。レミは軽く笑う。


「それはありがたいね。公爵家の長男と魔法研究所の研究員のお墨付きだ」

「僕たちは本気だよ? レミのおかげで『魔力なし』のデータもしっかり取れた。それが長年の偏見を覆すものだってことは、研究所のみんなが知っている」


 真に受けていないレミにアルヴェントは彼女に顔を向けた。その顔は真剣だ。


 だが、レミは浮かない表情をしている。彼らがそれを証明してくれたとして、民衆の意識まで変わるとは思っていない。


「アルヴェントやディラン、研究所の人がわかってくれれば、あたしは十分だよ」


 投げやりとも聞こえる言葉に、アルヴェントは首を横に振った。


「いいや、これは大々的に発表すべきことだ。常識が覆るんだよ? これ以上に楽しいことはないじゃないか!」


 アルヴェントの目が輝きだす。レミはこれを知っている。研究者の目だ。自然とレミの上体がアルヴェントから遠ざかる。


「ちょっと、引かないで。傷つくから。僕でも傷つく心は持ち合わせてるから」


 アルヴェントの眉が下がった。ちょっと傷ついたらしい。レミの口元がひくりと動く。


「だったら人を実験対象みたいな目で見ないでくれる?」

「……努力する」


 アルヴェントの答えは何とも心もとないものだった。レミは唸りながらも上体を戻す。


「とにかく、寝なよ。寝不足は思考を鈍らせるでしょ」


 アルヴェントは頷いて、近くに作っておいた寝床に潜った。しばらくして、規則正しい寝息が聞こえてきた。


 レミは静かにディランを見下ろす。苦しげな息遣いが彼女の胸を締め付ける。レミはそっと、左手の銀のブレスレットに触れた。


お読みいただきありがとうございます。

アルヴェントはまだレミのことを(微妙に)実験体扱いしています。

だって、初めて見る『魔力なし』ですから。

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