第22話 魔物に襲われた町
ネリーの宿屋を発った一行は予定通り半日で、隣の町に着いた。
しかし、その有様は前の町とは真逆だった。町の囲いは壊され、家の壁は崩され、家畜小屋は滅茶苦茶だ。魔物に襲われたことは一目瞭然である。
レミの頭に壊された故郷が蘇る。顔色が悪くなった。それに気づいたクリスとディランが心配そうに声をかける。
「大丈夫?」
「馬車で休んでいていいぞ」
レミはゆっくりと首を横に振った。
「大丈夫。行こう」
力なくレミが微笑んだ。その顔で大丈夫と言われても説得力がない。それでも、彼女は歩みを止めなかった。
街の中を歩くと、家の中から住民と思われる人々が彼らを見ていた。声をかける様子はない。何かに怯えているようだ。
「ひどいな……」
ディランは思わずつぶやいていた。報告には聞いていたが、実際に見てみるとその悲惨さが身に染みる。
「お前ら、何しに来た?」
一人の青年が睨みながら尋ねてきた。警戒が色濃く表れる灰色の瞳でディランたちを観察する。
アルヴェントが前に出た。敵意がないことを示すように両手を広げる。
「僕らは調査隊さ。たまたまこの町に立ち寄らせてもらっただけだよ」
ニコッと笑うが、どうも胡散臭さが抜けない。青年の目がそれを物語っている。
「町は、魔物に襲われたんですか?」
これはいけないと、クリスが割り込んだ。こういう時は若い女性のほうが警戒されにくい。
さらにクリスは実際の年齢より下に見られやすく、親しみやすい顔つきをしている。青年の緊張を解くには適任だろう。
「……ああ、見ての通りだ。ケガ人も多くて手が回らない」
青年は悔しそうに言葉を絞り出した。ケガ人、と聞いてクリスがレミを振り向く。レミは頷いて青年を見やる。
「ケガ人はどこに?」
「あっちの建物だけど……」
青年は背後にある建物を一瞥し、視線をレミに戻した。サングラスをして腰に剣を下げる女。怪しい。
「彼女は治癒魔法が使えます。手当は任せてください」
クリスは青年を説得するように言った。レミが怪しく思われていることは、ひしひしと感じる。
青年は疑念を持ちながらも、彼らを背後の建物に案内した。
建物はレンガ造りの礼拝堂のようで、中は広々としていた。傷ついた人々が横たわっていた。
痛みで呻く者、息をつくのが精一杯の者。
苦しそうな人々の姿に、ディランは息を飲む。
レミの肩にポンッと音を立ててシャルティスが現れた。悲しそうな表情で周囲を見回す。
突然、現れた精霊に青年が驚く。
シャルティスは何かをレミの耳元で囁いた。レミは頷いて両手を前に出す。その手に淡い黄色の光が集まりだした。
輝きを増した光が弾け飛んだ。光の粒がケガ人たちに降り注ぐ。その傷はどんどんなくなっていく。
その光景を見た人々は驚いてレミを振り向いた。
「出血が多かった人はまだ安静にして。傷は治せても血の量は増やせないから」
動き出しそうな元ケガ人たちにレミはぶっきらぼうに釘を刺した。事実、シャルティスの魔法では失われた血液まで回復できない。
シャルティスがフラフラとよろめく。レミは慌てて彼女を受け止めた。力を使い過ぎたのか、顔を真っ赤にしている。
「シャルティス、大丈夫!?」
レミは慌てて声をかける。シャルティスは力なく片手を挙げた。が、すぐにパタンと落ちてしまう。
それを見ていた若い女性がテーブルの上にタオルで簡易のベッドを作ってくれた。
レミはそこにシャルティスを寝かせる。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
女性はレミに頭を下げた。長い金髪が垂れ下がった。レミは首を横に振る。
「お礼ならシャルティス、その精霊に言ってください」
女性は心配そうにシャルティスを振り返る。辛そうに呼吸をしている。
ディランが女性に尋ねた。
「襲ってきた魔物はどんな姿だったんですか?」
女性は口元に手を当て、言葉を探す。その時の恐怖を思い出したのか、小さく震えている。彼女を庇うように、先程の青年が答えた。
「大きくて、虎みたいな手足だった。尻尾も自在に動いていたように思う」
「それでこれだけの被害なら、マシなほうか」
レミのつぶやきに青年はカッとなる。
「十人も死んでるんだぞ! 何がマシなほうだ!」
激怒する青年に対して、レミは冷やかだった。
「うちの町はたった一匹の魔物に全員殺された。執拗に獲物を狙う魔物じゃなくて良かったね」
無感情なレミの言葉に、青年は反論が詰まる。人間を獲物と表現する彼女の淡白さが青年の胸に刺さった。
アルヴェントが記憶の中の図鑑をめくる。
「もしかすると、後からまた来るかもしれない。ここに人間がいることを知ってしまったからね。そういう習性を持つ魔物もいる」
「だからって、この人数を避難させるのは難しいわ。場所も移動手段も限られているし」
どうすれば、とクリスが困った顔をする。
ケガ人はいなくなったが、この町にはまだたくさんの人が残っている。彼らを全員、別の町へ移動させる手段はない。
「迎え撃つしか、ないか」
ディランが唸る。ここから避難できないならば、残る手段は一つだ。魔物を退治するしかない。
そこへ、空気を振るわせる咆哮が響いた。礼拝堂の中で悲鳴が上がる。
「随分とお腹を空かせた奴らしい」
レミは左手を鞘にかけ、礼拝堂の外に出ていく。銀色のブレスレットがチラッと輝いた。
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ここからちょっとバトルに入ります。




