第21話 お祭りのご飯
村での生活を結構しんどいと言うレミに、ディランは首を傾げた。
「しんどいのか?」
「そりゃ言ってみれば、皆の良いように使われるようなもんだからね。誰の畑にいつ私を使うか、綿密な計画まで立てられんだよ。悠々自適な生活だとは思わないこと」
ジトッとレミがディランを見やる。その視線には苦労が見て取れた。
「肝に銘じておきます」
ディランは自然と両手を挙げていた。
そこへクリスが両手に皿を乗せてきた。
「お待たせ~」
「おかえり~。美味しそうなのあった?」
レミが出迎えると、クリスはトンと皿をテーブルに乗せた。ホカホカと湯気を上げるオムレツのような料理だ。
「うわ、卵をこんなに使うなんて。贅沢な一品」
驚くレミに、クリスは「そうでしょ」と笑いかける。ふと、レミの表情が少し違うように感じた。
「どうかした? 大丈夫?」
「ん? 平気だよ。お腹すいちゃった。アルヴェントまだかな」
レミは言いながら辺りを見回す。美味しそうなものを目の前にしては、空腹感が増すばかりだ。
人が多く、背の高いアルヴェントですら見つけられない。小柄なレミは出歩かなくて正解だった。人の波に飲まれて上手く歩けなかっただろう。
クリスはレミの隣の席に腰を下ろした。
「あ、そうだ。クリスからも言ってやってよ。ディラン、田舎暮らしに憧れがあるみたい」
レミは先程の会話を思い出してクリスに言った。クリスの目がキランと輝く。
「田舎暮らしはね、大変なのよ!」
辺境の村人の言葉は重い。
「遊ぶ場所なんて何もないし、人より家畜のほうが多いし、虫は家の中まで入ってくるし、夜は暗いし、大変なのよ!」
とにかく大変らしい。
ディランは自分が甘く見ていたと小さくなる。
そこにアルヴェントが帰って来た。手にはお肉の串焼きを乗せた皿があった。レミとクリスは「お肉!」と喜ぶ。
四人で料理を分け合って食べる。
「ここから南に行くと、もっと魔物の被害が深刻そうだね」
レミが喧騒に負けないよう声を張り上げた。このくらいしないとすぐそこにいるクリスにすら声が届かない。アルヴェントが頷く。
「データ上でも南の方が被害は出てる。気を引き締めて行ったほうがいい」
大勢が集まる場所では会話もままならない。アルヴェントの声もようやくクリスとレミの耳に届いた程度だった。
「とりあえず食べて、宿に戻ろう」
ディランが提案した。三人は頷いて料理に手を伸ばす。
レミとクリスは食べたことのないイルマーダ料理を珍しそうにしながら口に運ぶ。口に合ったのか、彼女たちの表情は明るい。
それを見ていたディランは小さく笑った。
食事を食べ終え、一行は宿屋に戻る。町の喧騒からはだいぶ離れて静かだ。
ディランとアルヴェントの部屋に集まり、明日の予定を話し合う。
「明日は買い出ししてから町を出る感じかな。次の町まではどのくらいかかる?」
レミがアルヴェントに尋ねた。
「今日と同じくらいのはずだよ。さっきも言ったけど、魔物の被害が深刻だから慎重に行かないと」
「厄介な魔物に会わないといいけど」
不安げにクリスがつぶやく。
魔粒子濃度が高いと魔物が狂暴化するというのなら、魔粒子が吹き出している南側は危険度が増すはずだ。
ふと、レミは狂暴化した魔物について思い出した。
「そのことなんだけど、あいつら魔法の攻撃には弱いみたいだった」
アルヴェントが目を見開いて彼女を見る。ディランとクリスも驚いた表情になった。
「本当に? 何か実証したことはあるの?」
「うん。普通の剣だとほとんど傷をつけられなかったんだけど、クロウスの魔力を剣に込めたら斬れた」
アルヴェントが前のめりになって訊くと、レミは当時のことを思い出しながら答えた。
興味深そうに頷いたアルヴェントはぶつぶつ言いながら考え込む。
ディランは慣れているのか、気にする様子はない。レミとクリスはキョトンとして見ていたが、答えはまだでそうになかった。
「魔力を剣に込めるって、簡単に言うけど……」
ディランはアルヴェントを放って話を進める。彼にとっては難しいことなのか、表情が曇った。
「私はクロウスの力を借りてるからかな。苦も無くできるよ」
レミはサラッと答えた。これもジャスティンの指導の賜物であることを、彼女は気付いていない。
クリスも、ふむと考える。
「狂暴化した魔物が出たら、魔法主体で戦うようにしたほうがいいかもしれないわね」
「俺たちが足止めをして、アルヴェントとクリスに魔法を撃ってもらうって感じか」
ディランが頷く。アルヴェントの「ぶつぶつ」はまだ続いていた。
レミはその様子を観察していたが、飽きたようだ。
「これ、いつ止まるの?」
ディランは首を横に振った。
「しばらく続くと思うから放っておいていい」
「ちゃんと寝る?」
クリスは心配そうだ。その心配は的中した。
「寝ないかもしれない」
ディランが答えると、レミが拳を握った。
「強制終了させる?」
「あとが面倒だからやめてくれ」
今にも殴り倒しそうなレミをディランが止めた。彼女なら一撃で落としかねない。
アルヴェントはディランに任せて、レミとクリスは部屋へ戻った。
「おーい、アル。ちゃんと寝ないとクリスが心配するぞ」
ディランは思考に没頭しているアルヴェントに声をかける。すると、案外早く思考の輪から抜け出した。
「わかってるよ。レミに殴られたくもないしね」
アルヴェントは、ふぅと息をつく。しっかり鍛えている彼女の拳は痛そうだ。アルヴェントは大きな伸びをする。
「ホント、あの子といると新しい発見ばかりだ」
「そうだな。知らないことばかりだと思い知らされる」
そう答えたディランの顔は優しかった。
お読みいただきありがとうございます。
よろしければ、ブックマーク、リアクション等よろしくお願いします。
頂けるとは励みになります。




