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第20話 お祭り


「なんか、賑やかだね」


 レミはサングラス越しでもわかるカラフルな旗を見上げた。

 色とりどりの三角形の旗が家の間に張り巡らされ、街が華やかになっている。人の数も昨日の町より多く行き交っていた。


「昨日と今日、豊穣の神を祀るお祭りなんだって」


 レミのつぶやきにアルヴェントが答えた。


「異常気象だ何だって時は、神頼み、か」


 レミはフッと鼻で息をした。信心深くない彼女にとっては、無縁なことだ。


「何だっていいじゃない。屋台も出ててご飯に困らないし、食料だって買えるし」


 クリスは満足げだ。昨日の町では買い出しに行く余裕がなかった。今日はゆっくり回れそうだ。美味しそうな屋台もたくさん出ていて、選び放題である。


「俺もあまりこういう所に来たことがないから楽しみだな」


 ディランはワクワクを隠さずに町の様子を見回す。王都も賑やかだが、祭りのそれとは違う。

 レミはトンとアルヴェントに肩をぶつけた。


「坊ちゃんを見張っててよ」


 このままでは目を離した隙に、フラフラとどこかへ行ってしまいそうだ。

 アルヴェントは苦笑いをして頷いた。


 と、前方で悲鳴上がった。ひったくりらしい。人をかき分けて一人の男が走ってくる。

 レミは腰に下げていた剣の柄に手をかけ、傾きを変える。


 飛び出た鞘は走ってきた男の足に引っかかった。男は手にしていたバッグを放り投げ、盛大に地面を滑る。


「あら、ごめんなさい」


 レミの声には悪気がない。宙に飛んだバッグを長身のアルヴェントがキャッチした。男は悪態をついて起き上がると、そのまま走り去った。


 唖然としていた周囲の人からパラパラと拍手が起こる。

 その中を一人の女性が駆けてきた。バッグの持ち主らしい。五十歳に差し掛かろうかという、栗色の髪の女性だ。


「ありがとうございます!」


 女性は何度も頭を下げた。アルヴェントは「いえいえ」と首を横に振る。


「よろしければ、うちの宿においでください。サービスさせていただきます」

「それはありがたいです。宿も探していたところでしたので」


 女性の申し出にアルヴェントは嬉しそうに答えた。本日の宿、確保である。レミとクリスも陰でガッツポーズをする。


 女性はネリーといい、夫と宿を営んでいるそうだ。ネリーの宿は繁華街からは離れていた。住宅街の片隅と言ってもいい場所だ。

 馬車も宿の方へと移動させえてもらい、馬を休ませることが出来た。部屋数もそれほど多くなく、静かに休める宿である。


「この辺りは、魔物の被害はないんですか?」


 ディランがネリーに尋ねた。ネリーは視線を少し落とす。表情は冴えない。


「幸い、町にはないんですが、畑の方がだいぶやられてしまっていて、物価が上がっています」

「魔物も食わないとやっていけないからねえ」


 物価高と聞いてレミが肩を落とす。何とも世知辛い。


 ディランも難しい顔をした。物価高までは、資料に載っていなかった。考えればわかることだが、紙面の情報を頭に入れるだけで精一杯だった自分が情けない。


「でも、そのための豊穣祭みたいなものですから。賑やかにしないと。夜ご飯はぜひ、屋台を回ってみてください。美味しい物がたくさんありますよ」


 ネリーは優しく微笑んだ。


 お言葉に甘えて、と日が落ちてから屋台が立ち並ぶエリアへ向かった。昼の賑わいそのままだ。

 広場に置かれた飲食用のテーブルのほとんどが埋まっている。


 辛うじて空いていた四人掛けのテーブルを見つけ、場所取りとしてレミが椅子に腰掛けた。他の三人が手分けして屋台に並ぶ。


 最初に戻って来たのはディランだった。

 慣れない人ごみに疲れた様子で持ってきたのはジャガイモのガレットのような料理だった。香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。


 レミの顔がパッと輝いた。反対にディランは浮かない顔をしている。それに気づいたレミがディランの顔を覗き込んだ。


「どうしたの? そんな顔して」


 サングラス越しに、黒い瞳がディランを見上げる。


「いや、ガロンなら資料見て物価高まで頭が回ってたんだろうなーって思ってさ。やっぱ俺は向いてないよ」


 ため息をつくディランにレミは顔をしかめた。


「じゃあさ、もし家を継がなかったら、どうするの?」


 レミの問いにディランは天を仰いだ。どうするか、と言われたら、軍に入って国を守ってもいいと思っていた。


「剣しか取り柄がないから、どこか小さな町で魔物を退治しつつ、畑仕事とか手伝いながら過ごすのも悪くないかな」


 レミは目を丸くする。それは彼女の生活そのものだ。


「村でのレミを見て、ちょっと羨ましくなった」


 ディランはニッと笑った。

 その笑みがユリアスと重なる。レミは一瞬だけ目を見開いた。が、すぐに表情を戻した。口元が小さく弧を描く。


「じゃー、その生活の先輩からの一言」


 レミはピッと右手の人差し指を立てた。


「結構しんどいよ」


お読みいただきありがとうございます。

田舎暮らし、舐めちゃいけません。憧れのスローライフ?全然スローじゃないですから!

農家は天気に振り回され、常に野生動物と命がけのバトルをするハードライフですから!

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