第18話 月の下の侵入者
月明かりに煌めいたナイフは迷いなくディランの首へ振り下ろされた。
ディランは素早くベッドを転がり、それを避ける。鋭い刃がベッドに突き刺さった。
同時に横からアルヴェントが拘束する魔法を使った。光の輪が侵入者の身体を腕ごと締め上げる。侵入者が暴れるが、簡単に壊れる代物ではない。
「レミは鼻が利くねえ」
アルヴェントは侵入者を睨みながら言った。彼女の言う通りになってしまった。
隣の部屋からもドタンバタンと大きな物音が聞こえてくる。レミたちも誰かに狙われて返り討ちにしているようだ。時折、レミのドスの利いた声が聞こえてくる。
ディランがパチンと部屋の明かりを点けた。全身黒ずくめの侵入者の姿が露わとなる。頭も頭巾のようなものを被っていて、顔はわからない。
「さて、誰の命令で来たのかな?」
ニッコリとアルヴェントが微笑んで侵入者に尋ねた。侵入者はプイッと横を向いて答えない。
「そっちどうなった?」
「ケガはない?」
レミとクリスが部屋に入って来た。レミは片手でズルズルと黒ずくめの侵入者を引きずっている。気絶させてしまったようだ。
「こっちはアルヴェントが拘束した」
ディランはそう言って、光の輪で拘束されている侵入者を示した。レミはその背中をじろっと睨む。
「なんか吐いた?」
「いーや、何も」
レミの問いにアルヴェントが首を横に振る。簡単に話すわけもない。レミはしばし思案する素振りを見せ、掴んでいた侵入者を放した。
それからアルヴェントが拘束している侵入者の後頭部に手を伸ばす。強い力で掴まれた侵入者が小さく呻いた。
昼間の山賊と同じく、黒い魔力がレミの手から溢れる。
侵入者の目が見開かれた。同時に金切り声を上げた。屋敷中に響き渡る音量が部屋に充満する。
その光景にディランとクリスは息を飲んだ。人の悲鳴など聞いていて気持ちの良いものではない。それでも、レミとアルヴェントは表情を変えなかった。
レミの手が離れると、その声が止んだ。侵入者はゼェゼェと肩で息をしている。
ドタドタと誰かが走ってくる足音が近づいてきた。ドアを開け放ったのはジオーラ子爵だった。明るい金髪は乱れている。後ろには使用人が三人ほどついてきていた。
「どうなさいました!?」
そう言ったが、部屋の中の状態を見て、ハッと後ずさる。
「これはどういうことですか? ジオーラ子爵」
硬い声色でディランが尋ねた。ジオーラ子爵は口ごもる。その様子を見ていたレミは子爵の前に歩み寄った。彼女を見たジオーラ子爵の顔が引きつる。
「お、お前は『魔力なし』……!?」
子爵の言葉を遮るように、レミはその顔を鷲掴みにした。使用人たちが声を荒らげるが、レミは視線で黙らせた。彼女の手から黒い魔力が立ち昇る。
子爵の口から甲高い悲鳴が発せられた。主人の悲鳴に使用人たちは身を震わせる。
レミが手を放すと、その悲鳴は治まった。
子爵は恐ろしいものを見たかのように、顔を歪ませている。腰が抜けてその場にへたり込む。使用人たちは慌てて駆け寄った。
「貴様、子爵に何をした!?」
使用人の一人がレミを睨みつけた。レミはにっこり笑う。
「ちゃんと『上にご報告』できるようにしただけですよ」
彼女の言葉の意味が解らず、使用人たちは訝しむ。そんな彼らをよそに、レミはディランとアルヴェントを振り向いた。
「もう出よう。こんなところで寝るなら野宿したほうがマシ」
ディランは黙って頷いた。さすがにこのような事態になっては、彼女に同意するしかない。荷物をまとめ始めると、子爵が慌てて止めた。
「ディラン様! 今晩だけでも……!」
「これ以上、貴殿に迷惑はかけられません。お暇します」
ディランは子爵を責める言葉を口にしなかった。それでも引き留めようとする子爵を無視し、彼らは屋敷を出た。
ちゃっかり子爵家にあった幌馬車を拝借して町を出る。
まだ日が昇るには早すぎる時間だ。星が瞬く暗い海に、月が静かに浮かんでいる。満月に近い月明かりのおかげで町の外に出ても道はわかった。
だが、馬もまだ眠いだろうし、レミたちも眠気がある。
道が広くなった場所を見つけ、そこで仮眠を取ることにした。その間は格別の気配を感じることはなく、ゆっくりできた。
日が昇り始め、仮眠から目覚めたレミが手綱を握る。ゆっくりと馬車を動かした。荷台が揺れてアルヴェントが目を覚ます。ディランとクリスはまだ夢の中だ。
「次の町までどのくらいかかるか、わかる?」
レミが起きたアルヴェントに尋ねた。
「馬車なら半日くらいで着くと思うよ」
「じゃ、今日はそこまでが目標ってことで」
アルヴェントの答えに、レミはそう言って道の向こうを見据えた。緑の山々が、遠くに連なっているのが見えた。
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女子部屋の侵入者はレミがボコボコに殴り倒しました。




