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第13話 ブラーガ公爵邸


 数日後、レミたちはイルマーダ王国の王都に着いた。


 街の雰囲気はギルガント帝国の帝都よりも青を基調とした建物が多く、整然と区画整理がされている印象を受ける。人々は当たり前のように生活の中で魔法を使い、子供たちですら水を魔法で出して遊んでいた。


「へー、みんな何でも魔法でするんだ」


 馬車の窓から街を見ていたレミが呟いた。魔法も魔道具も使わずに生活してきた彼女にとっては新鮮な光景だ。サングラスをしたまま、物珍しそうに街の景色を眺めた。


 国王の馬車は王城へ、レミたちが乗った馬車は別の方へ分かれる。着いたのはディランの家。ブラーガ公爵邸だ。

 背の高い塀に囲まれた屋敷は広く、庭の芝は綺麗に整備されている。花壇には季節の花が咲き乱れていた。


 その中に佇む公爵邸は豪邸などという言葉では言い表せない大きさだ。


 ディランに案内され、レミとクリスは恐る恐る屋敷に踏み入った。アリックたちは慣れた足取りである。


 廊下には一目で高価だとわかる壺や美術品が飾られていた。

 壊してはいけないと、レミはそっとそれらから距離を取る。クリスも同じだったようで、二人は身を寄せ合うような形になった。


 すれ違う使用人たちは口々に「おかえりなさいませ」とディランを出迎えた。


 通された部屋にはディランの父ブラーガ公爵と母のブラーガ公爵夫人、そして顔に幼さが残る青年が待っていた。使用人も数人控えている。


「父上、母上。ただいま戻りました」


 ディランが会釈をする。アリックたちも頭を下げた。レミとクリスもそれに倣う。


 ディランと同じく深い赤の髪を携えたブラーガ公爵は息子の姿を見て安堵した様子だ。公爵夫人も優しく微笑んでいる。


「よく帰った。務めを果たせたようだな」

「はい。ただ、引き続き異常気象や魔物の狂暴化について調査せよ、と伯父上から申し付けられまして。しばらく留守になるかと」


 それを聞いた公爵は顔をしかめながらため息をつく。


「兄上はまたディランにそのようなことを……」


 人の息子を何だと思っているのか、と言いたげだ。ただでさえ、良好な関係とは言えないギルガント帝国へ送り出すことに不安を抱えていた。それが今度は国の一大事ともいえる事項の調査とは。


 公爵夫人もわずかだが眉間にしわが寄っている。


「大丈夫です。俺も、『知りたい』ので」


 両親の不安を払拭ふっしょくするように、ディランは言った。息子が何かを心のうちに秘めているような重みをブラーガ公爵は感じ取った。


「お前がそう言うのなら、行ってくるといい」

「ところで、そちらのお嬢さん方は?」


 公爵夫人が後ろに控えていた、レミとクリスに目を向けた。ディランの友人として記憶にない二人を不思議そうに見やる。

 ディランは半身を開いて彼女たちを紹介する。


「彼女たちはギルガント側から調査の任に就いたレミとクリスです」

「クリスと申します」

「レミです」


 丁寧なクリスに対して、レミはやや素っ気ない。サングラスをしたままのレミに、側近の男が睨みを利かせた。


「おい、そんなものをしたまま挨拶とは、公爵閣下に対して失礼だと思わないのか」


 苦言を呈されたが、レミは簡単にサングラスを取ることは出来ない。許可を求めるようにディランを見た。ディランは外していいと頷く。

 レミがサングラスを取ると、部屋の空気がざわついた。


「『魔力なし』だと!? どういうことですかディラン様!?」


 側近は声を荒げる。使用人たちは口々に「不吉だ」「本当にいたのか」と言葉を漏らした。公爵たちも驚いた表情になった。


 バーナードは何とか場を治める言葉はないかと慌てる。アリックもダリルもこの空気はまずいと顔をこわばらせた。クリスも不安そうだ。

 レミだけは慣れているのか動じる素振りを見せない。


 声を張り上げたのはディランだった。 


「落ち着てくれ! 彼女は不吉の象徴でも何でもない。父上、彼女がいなければ俺たちはハワード陛下に書状を渡すことすらできませんでした。『魔力なし』だからこそ、俺たちには見えないものが見える。ハワード陛下はそう言ってレミに調査を託したのです」


 公爵は息子の言葉を聞いてレミをじっと見つめた。それに気付いたレミは視線を逸らさない。ピンと空気が張り詰めた。

 まだ幼さが残るディランの弟ガロンが口を開く。


「ですが兄上。『魔力なし』では魔法が使えず、調査に支障があるのでは?」

「レミは『魔力なし』だが魔法を使える。俺たちは何度も助けられた」


 ディランの後ろでバーナードとダリルが頷いた。『魔力なし』が魔法を使えると聞いて、使用人たちは再びざわつく。

 ブラーガ公爵は使用人たちを落ち着かせた。


「皇帝が送り出したのだ。相応の実力者なのだろう。これからどうするつもりなんだ?」


 ディランは少しホッとした。ブラーガ公爵はレミをないがしろにする様子がない。


「明日、魔法研究所に行って、アルヴェントと合流します。まずはそこで詳しい現状の確認をしたいと考えております」

「アルヴェントも一緒か。なら調査には問題がないだろう。気を付けていくんだぞ」


 公爵から父の顔となったブラーガ公爵が頷いた。



 ディランには自室が、アリックたちも近衛兵としての宿舎がある。レミとクリスは公爵邸の客室を借りることとなった。


 しかし、ディランの言葉があったとはいえ『魔力なし』への当たりは強い。

 すれ違う使用人たちは嫌悪の目をレミに向けてきた。イルマーダでは『魔力なし』への差別がギルガント以上に根強い。


 それでも夕飯はブラーガ公爵たちと共にすることになり、テーブルマナーを知らない彼女たちは緊張しながら食事をした。美味しかったが、味はほとんど覚えていない。


 どことなく、屋敷に居ずらかったレミは日が暮れた庭に出ていた。


 花壇の陰に座り込み、咲いている花を眺めた。花は国など関係なく綺麗に咲く。ぼんやりと明るい庭で白い花は幻想的に浮かび上がる。


「死ね! 汚らわしい『魔力なし』め!」


お読みいただきありがとうございます!

イルマーダ王国に到着早々に事件が発生です。

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