表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/42

【第2話】俺の涙と両親の温もり


 (ほほ)(つた)(なみだ)が、(あたた)かいカボチャのスープに()ちて波紋(はもん)(つく)った。

 

 あの()教会(きょうかい)鑑定儀式(かんていぎしき)で「(はず)れスキル」の烙印(らくいん)()された(おれ)()っていたのは、()()ではなく、(いた)いほどの(やさ)しさだった。

 

 「レイ、無理(むり)して(わら)わなくていいんだよ」

 

 (かあ)さんの(やわ)らかな()が、(おれ)(あたま)()でる。

 

 「(かあ)さんたちはね、あなたがどんなにすごい魔法(まほう)使(つか)えるようになっても、(けん)天才(てんさい)になっても、(いま)のレイのままでも、(おな)じくらい(あい)しているわ。神様(かみさま)からの(おく)(もの)が『記録(きろく)』だったとしても、それはあなたが(えら)ばれた証拠(しょうこ)なんだから」

 

 「……うん、()かってる。ありがとう、(かあ)さん」

 

 (おれ)五歳(ごさい)子供(こども)らしい仕草(しぐさ)(こた)えた。だが、その中身(なかみ)四十五歳(よんじゅうごさい)のおっさんだ。

 

 (なさ)けなくて(なみだ)()たのではない。


 前世(ぜんせ)深夜(しんや)編集室(へんしゅうしつ)でカップ(めん)(すす)りながら、(だれ)にも(かえり)みられずに()んでいった(おれ)にとって、この「無償(むしょう)(あい)」がどれほど(すく)いか、(かれ)らには想像(そうぞう)もつかないだろう。

 

 (とう)さんも、ごつごつした(おお)きな()(おれ)(かた)(たた)く。

 

 「いいかレイ、(おれ)たちの運送屋(うんそうや)()てみろ。荷物(にもつ)間違(まちが)えずに、時間(じかん)(どお)りに(とど)ける。地味(じみ)だが、それが(まち)()んなの生活(せいかつ)(ささ)えてるんだ。『記録(きろく)』ができるなら、お前(まえ)最高(さいこう)運送屋(うんそうや)になれる。(おれ)跡継(あとつ)ぎにぴったりだぞ!」

 

 (とう)さんの豪快(ごうかい)(わら)(ごえ)食卓(しょくたく)(ひび)く。

 

 その(よる)(おれ)自分(じぶん)部屋(へや)で、自分(じぶん)だけにしか()えない青白(あおじろ)いウィンドウを凝視(ぎょうし)していた。

 

 【Name(ネーム): レイ・クロノス】


 【Skill(スキル)記録(きろく)LV(レベル)1】


 (対象(たいしょう)情報(じょうほう)正確(せいかく)保存(ほぞん)する能力(のうりょく)

 

 「……記録(きろく)、か」

 

 テレビマン時代(じだい)(おれ)(もっと)(にく)み、そして(もっと)(たよ)りにしてきた言葉(ことば)

 

 映像(えいぞう)は、記録(きろく)された瞬間(しゅんかん)過去(かこ)になる。


 だが、記録(きろく)されなければ、その瞬間(しゅんかん)存在(そんざい)しなかったのと(おな)じだ。

 

 神様(かみさま)(おれ)に「世界(せかい)(すく)え」と()った。


 だが、この世界(せかい)にはカメラもなければモニターもない。

 

 (おれ)(つちか)ってきた「カット()り」や「テロップ()れ」や「MA(エムエー)音入(おとい)れ)」の技術(ぎじゅつ)は、この中世(ちゅうせい)ファンタジー(ふう)世界(せかい)では、(ぶた)真珠(しんじゅ)、あるいは砂漠(さばく)()いた一滴(いってき)(みず)のようなものだった。

 

 (せめて、()()したり(そら)()んだりできれば()かりやすかったんだけどな……)

 

 それから、(おれ)二重生活(にじゅうせいかつ)(はじ)まった。


 昼間(ひるま)は、(とう)さんの仕事(しごと)手伝(てつだ)う「神童(しんどう)」としての(かお)だ。

 

 (おれ)の『記録(きろく)』スキルは、実務(じつむ)において異常(いじょう)なまでの効率(こうりつ)発揮(はっき)した。

 一度(いちど)()顧客(こきゃく)(かお)住所(じゅうしょ)荷物(にもつ)重量(じゅうりょう)、さらには配送(はいそう)ルートの最短距離(さいたんきょり)


 それらすべてを脳内(のうない)の「フォルダ」に整理(せいり)し、瞬時(しゅんじ)()()すことができる。

 

 「クロノスの()(せがれ)は、(ある)台帳(だいちょう)だ」

 

 (まち)人々(ひとびと)はそう(うわさ)し、(おれ)重宝(ちょうほう)した。(とう)さんの仕事(しごと)はみるみるうちに拡大(かくだい)し、家計(かけい)以前(いぜん)より(うるお)った。

 

 だが、(よる)

 

 家族(かぞく)寝静(ねしず)まった(あと)(おれ)一人(ひとり)(にわ)()た。

 

 愛犬(あいけん)ルクスの背中(せなか)()でながら、(おれ)木刀(ぼくとう)()るい、(はし)()みを(つづ)けた。

 

 (神様(かみさま)()った。『お前(まえ)知識(ちしき)(むす)びついた(とき)唯一無二(ゆいいつむに)(ちから)となる』と)

 

 その言葉(ことば)(しん)じるしかなかった。


 『記録(きろく)』が戦闘(せんとう)使(つか)えないのなら、(おれ)という「ハードウェア」を(きた)()げるしかない。

 

 腕立(うでた)()せ、腹筋(ふっきん)、スクワット。前世(ぜんせ)不摂生(ふせっせい)身体(からだ)とは(ちが)う、(わか)く、可能性(かのうせい)()ちたこの肉体(にくたい)に、(おれ)()物狂(ものぐる)いで筋肉(きんにく)(きざ)()んだ。

 

 テレビ(きょく)での徹夜(てつや)(くら)べれば、筋肉(きんにく)(いた)みなど心地(ここち)よい刺激(しげき)()ぎない。

 

 十歳(じゅっさい)十二歳(じゅうにさい)十五歳(じゅうごさい)――。

 

 (おれ)身体(からだ)は、同年代(どうねんだい)(だれ)よりも()()まり、しなやかなバネを()つようになっていた。

 

 そして、運命(うんめい)十六歳(じゅうろくさい)

 

 成人(せいじん)(むか)えた(おれ)は、両親(りょうしん)自分(じぶん)(おも)いを()げた。

 

 「(とう)さん、(かあ)さん。(ぼく)王都(おうと)()って冒険者(ぼうけんしゃ)になりたい」

 

 二人(ふたり)(おどろ)いていたが、最後(さいご)には笑顔(えがお)(おく)()してくれた。


 (おれ)背中(せなか)(かく)された、十一年間(じゅういちねんかん)()(にじ)むような鍛錬(たんれん)()づいていたのかもしれない。

 

 ◇

 

 王都(おうと)アストリア。

 

 その(もん)をくぐった瞬間(しゅんかん)(おれ)圧倒(あっとう)された。

 

 (そら)()くような白亜(はくあ)(とう)()()豪華(ごうか)馬車(ばしゃ)、そして背中(せなか)()(たけ)ほどもある大剣(たいけん)背負(せお)った冒険者(ぼうけんしゃ)たち。

 

 「すげえ……映画(えいが)のセットどころじゃないな」

 

 つい前世(ぜんせ)口癖(くちぐせ)()る。

 

 (おれ)目的地(もくてきち)は、その中心部(ちゅうしんぶ)にある「冒険者(ぼうけんしゃ)ギルド」の総本部(そうほんぶ)だ。

 

 重厚(じゅうこう)石造(いしづく)りの(とびら)()()けると、(なか)熱気(ねっき)(さけ)(てつ)(にお)いで充満(じゅうまん)していた。


 掲示板(けいじばん)(むら)がる(おとこ)たち。酒場(さかば)気勢(きせい)()げるパーティー。

 

 その喧騒(けんそう)一歩(いっぽ)(あし)()()れた途端(とたん)(おれ)足元(あしもと)()いてあった(たる)()づかず、派手(はで)(つまず)いた。

 

 「うわっと!?」

 

 (しり)もちをついた(おれ)(まえ)に、(おお)きな(かげ)()ちる。

 

 「……おいおい、()かけねえツラだな。迷子(まいご)か、お坊(ぼっ)ちゃん?」

 

 見上(みあ)げると、いかにも「()ませ(いぬ)」といった風貌(ふうぼう)の、(がら)(わる)(おとこ)たちが(おれ)()(かこ)んでいた。

 

 「ひゃはは! 王都(おうと)見学(けんがく)ならよそでやりな、ボウズ。ここは()にたい(やつ)()るところだぜ!」

 

 周囲(しゅうい)冒険者(ぼうけんしゃ)たちからも(わら)ごえ()れる。

 

 前世(ぜんせ)(おれ)なら、ここで平謝(ひらあやま)りして()()していただろう。


 だが、(いま)(おれ)四十五年(よんじゅうごねん)処世術(しょせいじゅつ)と、十一年(じゅういちねん)肉体(にくたい)鍛錬(たんれん)()()げている。

 

 (おれ)無言(むごん)()()がり、(ふく)についた(ほこり)(はら)った。

 

 「……すみません。(まえ)()ていませんでした」

 

 (みじか)謝罪(しゃざい)し、(おとこ)(わき)(とお)()けようとする。

 

 「()ちやがれ! 無視(むし)すんじゃねえぞ!」

 

 (おとこ)(おれ)(かた)(つか)もうとした、その(とき)

 

 (おれ)最小限(さいしょうげん)(うご)きでその()をかわし、カウンターの受付(うけつけ)へと()かった。

 

 「……あら、災難(さいなん)だったわね」

 

 受付(うけつけ)には、黄金色(こがねいろ)(なが)(かみ)()らした(うつく)しい女性(じょせい)(すわ)っていた。

 

 「こんにちは。冒険者(ぼうけんしゃ)登録(とうろく)お願(ねが)いします」

 

 (おれ)(つと)めて冷静(れいせい)(こえ)をかけ、(まち)発行(はっこう)された身分証明書(みぶんしょうめいしょ)()()した。

 

 「はい、お預(あず)かりしますね……ええと、名前(なまえ)は、レイ・クロノス(くん)ね」

 

 彼女(かのじょ)書類(しょるい)()()とし、それから(おれ)(かお)()て、ふわりと微笑(ほほえ)んだ。

 

 「(わたし)はミレーヌ。冒険者(ぼうけんしゃ)登録(とうろく)受付(うけつけ)担当(たんとう)しているわ。よろしくね、レイ(くん)

 

 「あ、はい。よろしくお願(ねが)いします、ミレーヌさん」

 

 ミレーヌさんは、(かたち)()(むね)(つくえ)(うえ)()せて、いたずらっぽく(わら)った。

 

 「そんなに()つめられると()れちゃうわ。……さては、(わたし)のことエッチな()()てたでしょう?」

 

 「み、()てませんよ! セクハラはまずいです……」

 

 つい前世(ぜんせ)用語(ようご)()てしまった。

 

 「セク……ハラ? ()わった言葉(ことば)ね。でも、(おとこ)()らしくていいわ」

 

 どうやらコンプライアンスという概念(がいねん)はないらしい。

 

 彼女(かのじょ)はクスクスと(わら)いながら、一枚(いちまい)水晶板(すいしょうばん)()()した。

 

 「さて、冗談(じょうだん)はここまで。レイ(くん)冒険者(ぼうけんしゃ)登録(とうろく)には『スキルの適正(てきせい)』が必要(ひつよう)なの。(きみ)()っている(ちから)(おし)えてくれるかしら?」

 

 (おれ)は……、ゴクリと(つば)()()み、正直(しょうじき)()げた。

 

 「……『記録(きろく)』です」

 

 その瞬間(しゅんかん)、ミレーヌさんの(うご)きが()まった。

 

 背後(はいご)酒場(さかば)では、さっきの(おとこ)たちが(はら)(かか)えて(わら)()した。

 

 「『記録(きろく)』だってよ! 事務員(じむいん)にでもなるつもりか!」

 

 「ハズレもいいところだな! そんなんで魔物(まもの)(たたか)えると(おも)ってんのか!」

 

 ミレーヌさんは(こま)ったように(まゆ)()げた。

 

 「……レイ(くん)、ごめんなさい。このギルドの規則(きそく)で、戦闘(せんとう)寄与(きよ)しないスキルの(ひと)は、原則(げんそく)として登録(とうろく)できないの。あなたの身体能力(しんたいのうりょく)はまあまあそうだけど、スキルの(かべ)は……」

 

 その(とき)

 

 「――おい。お前(まえ)(なに)(さわ)いでやがる!」

 

 背後(はいご)から、地鳴(じな)りのような(ひく)(こえ)が、ギルドの喧騒(けんそう)()()いた。

 

 (おく)から(あらわ)れたのは、(かお)(おお)きな(きず)()つ、(いわ)のような大男(おおおとこ)


 その()にいた全員(ぜんいん)背筋(せすじ)()びる。

 

 「ギ、ギルド(ちょう)! いえね、この小僧(こぞう)分不相応(ぶんふそうおう)なことを()うもんで、教育(きょういく)してやってただけで……っ」

 

 さっきの(おとこ)が、()()えて狼狽(ろうばい)しながら()(わけ)(なら)べる。

 

 ギルド(ちょう)(おれ)()(まえ)まで(ある)いてくると、その(するど)眼光(がんこう)(おれ)全身(ぜんしん)()めるように()た。

 

 「……名前(なまえ)は」

 

 「レイ・クロノスです」

 

 「クロノス……。おい、お前(まえ)。《リュミナス》の『クロノス運送(うんそう)』の(せがれ)か? 親父(おやじ)さんは元気(げんき)か?」

 

 「えっ……? (とう)さんを()ってるんですか?」

 

 ギルド(ちょう)は、それまでの(けわ)しい表情(ひょうじょう)をふっと(ゆる)め、(おれ)(かた)(たた)いた。

 

 「()ってるも(なに)も、(おれ)(いのち)恩人(おんじん)だ。(むかし)(おれ)野垂(のた)()にそうだった(とき)、あいつは自分(じぶん)(いのち)(かえ)りみず。(おれ)(たす)け、再起(さいき)のチャンスをくれた。……あの(おん)一日(いちにち)たりとも(わす)れたことはねえ!」

 

 (かれ)はニヤリと(わら)い、周囲(しゅうい)冒険者(ぼうけんしゃ)たちを見渡(みわた)した。

 

 「お前(まえ)ら、よく()け! このガキが()つ『記録(きろく)』のスキル。それがただのハズレかどうか、(おれ)見極(みきわ)めてやる。文句(もんく)がある(やつ)は、(おれ)(こぶし)(くら)ってから()え!」

 

 圧倒的(あっとうてき)迫力(はくりょく)

 

 (おれ)は、(とう)さんが()っていた「地道(じみち)努力(どりょく)(ひと)(つな)ぐ」という言葉(ことば)(おも)みを、この王都(おうと)()()めていた。

 

 「レイ。お前(まえ)には、特例(とくれい)仕事(しごと)をやる。ただし、地獄(じごく)()るぞ。……いいな?」

 

 ギルド(ちょう)(ひとみ)(おく)に、(ため)すような(ひかり)宿(やど)る。

 

 (おれ)()()ぐにその()()つめ(かえ)し、力強(ちからづよ)(うなず)いた。




(だい)3()(つづ)く)






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ