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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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滝の洞窟

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


舞のコーチでミーティングを行った。

これから向かう、銚子渓の滝の傍にある洞窟だ。

全員、動きやすそうな服装で準備は整っている。

「そしたら、行くけど疲れてない?」

「大丈夫」

「もちろん」

二人の元気な声をエンジンに啓助はアクセルを踏んだ。

『松寿庵』から県道に入り北へ向かう。

啓助は直線の道でそれに気が付いた。サイドミラーに一台のステーションワゴン。

車間距離を保って着いてきている。

住職が話していた香のボディーガードだろうか?

顔までは判別できないが運転しているのは男性。

助手席には女性が座っているのが確認できた。

舞は助手席で結界について補足説明している。

「この島には結界が幾つもあるの、これから向かうのその一つなんだ」

「そこで結界が一つ解けるってことなん?」

美樹は運転席のシートに捕まって舞に聞いた。

「んーそれは分からないけど」

「香さんの力が必要かもしれないし」

香は黙って頷いている。

そして舞に聞き返した。

「舞さんはどうやって調べたんですか?」

舞は西龍寺の境内が結界の場所を示す地図になっていること。

それを元に、いくつかの霊場、山や滝、神社を組あせて導き出したことを説明した。

「すごい」

「舞さん賢いんや」

「ううん、それが私の研究というか勉強している事だし、それに例えば本とか、色んな人の視点や考えがあったからこそだから」

勾配がきつくなり峠を蛇行する坂道を越える。

盆地に入っていく県道は左へ続くが、正面に続く細い坂道を上る。

ステーションワゴンは県道を進んでいった。

坂道を上りきった突き当たりに霊場、湯舟山の駐車場がある。

車を降りてそこから境内に入ると、その外側の山の斜面には、棚田が山裾まで続いていた。

ここも湧水があり、棚田の水源としての役割があるようだ。

湯舟山から続く山道を舞を先頭に歩く。

昔の遍路道らしく何とか道の様相を保ってはいる。

ただ、昨日の雨でぬかるんでいて滑りやすい。

香と美樹は手を繋ぎ進んでいる。

しばらく歩くと微かに滝の音が聴こえてきた。

緩い下り道の先に少し開けた空間があり、岩が剥き出しのゴツゴツたした壁が右手に現れた。

滝の音が先程より大きく、傍に行かないと声が聞こえない。

どうやらこの壁の裏に滝があるようだ。

空間の先は崖になっており、左右に道が伸びている。

「少し休もっか」

舞の提案に、各々腰を降ろして飲み物を飲んでいる。

啓助は湧き出る汗をタオルで拭った。陽射しは木々に遮られているが蒸し暑い。

木漏れ日が地面に星を作り出し風が抜ける度に瞬いていた。

気が付くとペットボトル一本を飲み干していた。


        ◇


香はフェイスタオルで汗を拭く。

歩いているからなのか興奮しているのか、ドキドキしている胸に手を当てて美樹に話しかけた。

「何かドキドキする」

「うちもや」

美樹は香の肩に手を掛けて答えた。

ふと足元を見ると葉の群れの中に四つ葉のクローバーが滴を載せて顔を出しているのを見つけた。

「香、見てみ」

「わ、四つ葉のクローバーやん」

葉の上の滴に木漏れ日が当たりキラリと光った。

「ええことあるなぁ」

美樹の笑顔に香も自然と微笑み返した。


啓助がそんな二人のやり取りを目を細めて見ていると、舞はスマホを片手に説明を始めた。

「じゃあ、みんなぼちぼち行くよ、この先、左に行くと滝を守る栂尾山っていう霊場があるんだ、私達は右へ進むけどね、昨日の雨で滑るから慌てずゆっくりね」

そう伝えてペットボトルを飲み干すと、舞はリュックサックを背負い歩き出した。

その後を香、美樹と続いた。

崖沿いの道を右手へ進む、

「少し下るから慎重にね」

舞が声をかける、

人一人分の幅の道を岩壁に身を寄せて進む。

やがて目前に落差のある滝が見えてきた。

道はその脇にぽっかり空いた穴に繋がっていた。

「頭ぶつけないように気をつけて」

洞窟の入り口で舞は大声で叫ぶ。

高さは2メートル位で所々屈まないと前へ進めなかった。

幅は1メートルほどであろうか、最後尾の啓助は後ろを振り返りながら後に続いた。

「こっちかな」

分かれ道があり、舞は迷うことなく左の道を進む。

5分、10分位歩くと広い空間に出た。

啓助はバッグからLEDライトを取り出して床に置く。

辺りが明るくなると正面の壁の祠が目に入った。

石像らしきものが置いてある。

もしかして同じもの?

そう思いながら、啓助はフラッシュライトをポケットの中で握りしめていた。


舞は祠の前でしゃがみ、香を呼んだ。

「香ちゃん来てくれる」

香は舞の隣に座ると、

「これ、あのお地蔵さんに似てる」

そう言って舞の顔を見ている。

祠の中には色は辛うじて分かるが白と赤の石像が安置されていた。

白の石像は右手を、赤の石像は左手を前に出しているように見える。

石像の足元の回りには小さな石像が五体、囲む様に置いてある。

美樹は啓助の側に寄ってきて黙ってやり取りを見つめていた。

「香ちゃん分かる?」

舞が優しく聞くと、香は頷いて勾玉のペンダントを首から外して、二つの勾玉をペンダントから抜いた。

それを色を合わせてそれぞれの石像の差し出した手の上に置く。

すると。

勾玉が発光した。

一瞬、眩い光で空間が包まれる。

そして、祠の脇の壁に今までなかった筈の階段が現れた。

「え、どういうこと?」

美樹は後退りした。

香も身をのけ反らしている。

舞も驚いてはいるが、辺りを見回して、階段を懐中電灯で照らしていた。

啓助は映画でも観てる様で、心の中で、これ映画だったら面白いかも、下らないことが頭を過った。


舞と香が立ち上がると、舞を先頭に階段を降りていく。

十段ほどのそれは石で作られて整然と段を連ねていて、その先は行き止まりになっていた。

正面の壁は扉のように見えたが取っ手はなく鍵穴も見当たらない。

ただ扉の中央に窪みがあった。

香は勾玉を二つくっつけてその丸い窪みにはめ込んだ。

また勾玉は光だし一瞬の眩い光を放つ。

今度は音を立てて前方の扉が地面に潜り込んだ。

窪みの辺りまでで止まって、香は窪みから勾玉を取ると、さらに扉は地面と同じ高さまで沈んだ。

目の前には幻想的な空間が広がっていた。

そこは鍾乳洞だった。

それぞれが辺りを懐中電灯でてらして、それはそれで美しい光景だった。

鍾乳石が数本、天井まで伸びている。

「すごいな」

啓助は自然と声が出ていた。

「夕凪島にこんなところあるなんて」

「うち、初めて見たわ」

香と美樹は寄り添ってキョロキョロしていた。

地下水が涌き出ているのか水の流れる音が空間に響いている。

「足下気をつけてね」

舞はそう言うと何かを探しているようだった。

濡れた地面は滑りやすく慎重に歩いた。

「みんなこっち来て、階段がある」

舞の声が空間に反響する。

その声に吸い寄せられるように舞の元に集まると、下へと続く石で作られた階段がライトに照らし出されていた。

「ゆっくり行くね」

舞を先頭に階段を降りる。

十数段のそれを下りた先には石で作られた床と壁、二本の柱に見たこともない模様が施されている部屋に出た。

その奥の壁には扉のような物があり、まるで何かを封印しているかのように壁と一体となっていた。

「ここなのか」

啓助が辺りにライトを当てながら、舞に尋ねる。

「うん、たぶんここが目的地ね」

「何やろこの模様」

美樹は香と柱の模様を懐中電灯で照らしている。


啓助がLEDライトを床に置く。

部屋が明るくなり、壁や床に施された模様もはっきり見えるようになった。

奥の壁の扉と思しき場所には、菱形の模様が中央から幾重にも連なって刻まれていた。

ただ先程の鍾乳洞に続く扉にあったような窪みは見当たらない。

舞は扉の上から下まで何回かライトを当てながら見て、天井や床も見回している。

香が手に持っている勾玉は相変わらず淡い光を放っていた。

「どうしたらいいの」

香は扉の前に立ち、勾玉を握りしめて小声で呟いた。

「香、ここ見て」

美樹が柱の一角を指差した。

棘が波を打ったようなギザギザの紋様の中に赤い縁取りの勾玉の形をした窪みがあった。

「美樹ちゃんお手柄だよ」

舞はそう声を掛けると、もう一つの柱を調べ始めた。

緩やかな波線のような紋様の中に白い縁取りの窪みがあった。

それぞれ扉に向かって白い縁取りの柱は左、赤い縁取りの柱は右になっていた。

「香さんあった」

香は二つの柱にそれぞれ同じ色の勾玉を窪みに嵌めると、石像の部屋と同じように一瞬、眩い光で空間は包まれた。

すると奥の壁の扉は無くなっており、奥へと空間が続いている。

「なんか、すごいな」

啓助は何故か興奮している。

香は柱から勾玉を取ると舞に促され先に進み、美樹と啓助が後に続いた。

通路の奥の突き当りの壁に何か突き刺さっている。

その部分を中心に幾重もの円が波紋のように彫られている。

突き出た柄の周りには、それを中心に5本の溝が放射状に伸びていてヒトデや星のようにも見えた。

その脇に同じようにもう一つの柄が突き出ている。

柄の先端は一つが白く、もう一つは朱い。

「香さん抜いてみて」

舞の声に香はコクリと頷いて、先端が朱い柄に手を掛けて引き抜いた。

柄の先には長さ20センチ程の円筒状の棒のようになっている。

中心から5本の溝に沿って放射状に伸び、それが先端に向かって収束している。


「凄く軽いんよ」

香はそれを軽く左右に振ると、隣で見ていた美樹に手渡した。

「へぇ~、傘とか…クリスマスツリーみたいやな」

先端が白い柄の方を引き抜くと、それはさっきのとは逆に柄の方に収束していて先に行くにしたがって広がっている。

「なんやろ、逆クリスマスツリーやん」

「ハハハ、ほんとだ」

香はいろんな角度から見たものの何を意味しているのかさっぱり分からなかった。

金属のようでもあるけど、それにしては軽いし、つなぎ目のような物もなかった。

ふと、それが刺さっていた壁がぼんやりと光ると、文字が宙に浮かび上がった。

「え?」

「なんなん」

香は思わず身を引いて、同時に声を上げた美樹の手を自然と握っていた。

写し出された文字は見たことないような文字で、しばらくすると消えて今度は日本語で文字が浮かび上がった。

『神宝を手にし末裔よ光を求めよ』

香が読み上げると、舞はメモを取っていた。

「なんか、映画の世界だな」

啓助の素直な感想がこぼれると、

「うちもゲームかと、思てん…」

美樹は口を半開きに目をパチクリさせている。

「あ、消えた」

勾玉は今まで発していた光が消え、ひっそりと香の胸にあった。

「なるほど、きっと次は縄文洞窟ね…今日は無事、神宝ゲットだね」

舞の言葉に香と美樹は笑顔を浮かべた。

舞は奇妙な神宝をタオルでくるんでリュックサックに仕舞うと、啓助を先頭に洞窟を後にした。


湯舟山に戻る頃には日が傾き出していて、風は無く蒸し暑さが体に纏わりついた。

蝉と蛙の掛け合いが境内に響いている。

啓助は車に乗り込むとエンジンをかけエアコンが車内に行き渡るまで少しの間休息とした。

汗ばんだ体にエアコンの冷気が染みていく。

3時間ほどの探検は達成感や驚きもあったがさすがに疲労もある。さすがの女性陣も行き程の口数はない、

舞は助手席に乗りリュックサックを膝の上に置き抱えていて、香と美樹は後部座席で飲み物を飲んでいる。

「じゃあ家まで送るね?」

来た道を戻れば香の家までなら20分はかからないだろう。

車をスタートさせると香と美樹はお互いの頭をくっつけて眠ってしまった。

「疲れたんだね」

舞は後ろを振り返り二人の姿を見ている。

啓助はバックミラー越しにステーションワゴンが後方に付いているのを確認した。

「舞は大丈夫か?」

「うん、何かワクワクしてるから」

目を輝かせて肩をすくめている。

「ただ、私ね何かを見落としてるかも…」

「何を見落としてるの?」

「この中にさっきの場所で手に入れた棒があるでしょ?」

視線を落とし膝の上のリュックを見つめた。

「それが?どうしたの?」

「二本あるじゃない?」

「ん?それは、だって双子の神様がもう一人の巫女を探せって言ってたんだから、そのもう一人分って事じゃないのか?」

「うん、それはそうだと思うんだけど……何か引っ掛かるんだ……まぁ、明日、鏡の間に行けば分かると思うんだけど……」

舞は窓の外を眺めていた。

鏡の間?

縄文洞窟じゃないのか?

まあ、舞の事だから自分が分かりやすいように名前を付けたんだろう。


香の家に着くと、後を着いてきた車は手前の路地を曲がって消えた。

「まだ寝てるね、寝顔もかわいいな……写真撮っちゃおう……へー、二人にもホクロあるんだぁ」

舞はいたずらっ子のような顔をしてカメラで二人の寝顔を撮っていた。

「二人とも着いたよ。起きて」

そして、二人の膝を揺らして声をかける。

美樹が目を擦りながら体を起こすと、香も目を覚ました。

「寝てしもうた」

「うん……」

「疲れたんだよ、明日も早いからゆっくり休んでね」

二人は頷いている。

「香さんこれ」

舞がリュックから奇妙な棒を取り出すして香に渡そうとすると、それを受け取ろうとした手を引っ込めて聞いてきた。

「あの、舞さん達に預かって貰えないでしょうか?」

「それは構わないけど」

「お願します」

香が頭を下げる。

「分かった、じゃあ大切にお預かりします」

舞はリュックにそれをしまっている。

「そしたら、美樹さんの家までおくるよ」

「ありがとう、でもうちバイトあんねん」

香と美樹を車から下ろすと啓助はホテルへと向かいアクセルを踏んだ。

前方の黄昏の空に飛行機雲が一筋、彼方へ伸びていた。

お読み頂きありがとうございます。

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