その中で。
啓助の運転する車が路地を曲がるまで見送ると、香は美樹を部屋に誘った。
「ちょっとだけいい」
美樹は部屋に入るなり、ベッドの上に女の子座りをして香を手招いた。
「話しあるんやろ?」
「うん」
香は向かい合い同じように座ると話し出した。
「あんな美樹、前に話した母さんの夢の事なんやけど」
「なんかあったん?」
「昨日、夢を見たんよ…」
昨夜の夢の内容を美樹に伝えた。
香が産まれた時の夢で、母が泣いていた理由は双子で生まれてきた姉が亡くなってしまった事を自分に謝っている。
それを父が慰めていた。
話ながら本来であれば、その姉がもう一人の巫女という事だったのか、そう理解した。
だから母は、動揺していたんだ。
隠す必要なんてないのに。
「ということは、おばちゃんの夢は昔の事やったんかぁ……」
美樹は口を開けたまま唖然としている。
「そう、お姉ちゃんが亡くなったのは悲しいし、残念やけど、母さんに良くないことが起こるんじゃないかって事は無くなったから……複雑……」
「そうやなぁ……てことはもう一人の巫女は亡くなったお姉さんの事なんやろか? そしたら探しようがないやん」
香は頷きながらペンダントを首から外すと、二人の間に置いた。
「そうなんやけど、家に伝わっていたのは白い勾玉やん。啓助さんから貰った朱い勾玉は誰かが持ってた訳やんか……」
しばらくの沈黙を美樹が破った。
「そうや、その啓助さんにあげた人が……」
「もう一人の巫女」
二人が揃って互いを指で差すと、肩を揺すって笑い出した。
「しかし、きれいやなぁ」
美樹は勾玉に顔を近づけて見つめている。
「誰が持ってたんだろ」
香は勾玉を人差し指で撫でた。
美樹はまじまじと勾玉を見ていたが、目をパチパチと瞬きをして背筋を伸ばすと口を開いた。
「でもな、香凄かったんで、舞さんを助け出した時、香がお祈りしている間に、お地蔵さんと勾玉がなパーッと光って、そしたら舞さんが立っててん」
「そうだったんだ……」
香も姿勢を正して答えた。
「香は、調子は悪くないん?」
「うん、全然平気」
「凄いな……本物の巫女さんやなんやね香は。明日、啓助さんに聞いてみよ、もしその人がもう一人の巫女さんやったらあとは結界を探せばいいだけやろ」
「そうやね……」
そう言いながら香は夢の中の少女が双子であることが気になっていた。
「私を探すんや……」
目の前の美樹がもう一人の巫女やったら心強いのにな……
「どしたん?」
「ん?」
「もう、考えすぎるのは香の数少ない良くない所やから」
美樹は香のおでこを指で軽く突いた。
「もう、美樹」
笑顔で見つめあうと、美樹はハッとした顔をしてスマホを取り出した。
「香、ごめんバイト行くわ」
香が玄関先まで見送ると、
「また明日~」
美樹は夕陽を浴びながら顔を赤くして手を振っていた。
電線に止まっていたカラスが「カアカア」と鳴き飛び去った。
◇
家の前の道路に車が止まったようだ。
バタンっ、ドアを閉める音と美樹の声が微かに聞こえた。
真一郎は椅子から立ち上がり窓から外を覗くと、香と美樹の二人が道路の奥の方へ向かって手を振っている。
ふむふむ、お帰りですね。
二人が何か話して香の家に入るのを見届けると真一郎は椅子に座り、イヤホンをしてパソコンのマウスを操作した。
モニターには神舞の動画が映し出されている。
昨日見ていた続きを見ようと思っていた。
どこからだっけ……
カーソルを操作して調整する。
「神舞が始まるくらいかな……」
境内の雰囲気を撮っているから再生した。
こう見ると結構お客さんが来ていたんだな。
巫女が通る参道の両側に群がる観客の中。
一人の男がピョンピョン飛び跳ねて手を振っている。
真一郎は停止して、その個所をズームしてみた。
「ハハハ、万葉か……」
面白い発見。
じゃあ他にも誰か映っているかもな。
そう思いモニターに食いつくように動画を見た。
マウスをクリックし再生する。
カメラは楼門にズームして始まるのを待っている。
太鼓の音と共に楼門から巫女装束に身を包んだ香と美樹の二人が姿を現す。
それと同時に歓声が起き、眩いフラッシュが点滅している。
太鼓の音に合わせゆっくりと一歩ずつ近づいてくる。
やがてお堂に上がり、扇子を広げて二人は向かい合う。
そして、和楽器の音と共に舞始めた。
真一郎はモニターの中で踊る二人に魅入られたように、夢中になって見ていた。
やがて音楽が転調しテンポが速くなっても、寸分の狂いなく、狂おしく踊る。
それは、心を揺さぶり、魂を揺さぶられた。
天に扇を掲げて、一瞬の静寂があって時が止まっているようだ。
すぐに歓声と拍手に包まれお辞儀をする二人が映し出されている。
真一郎は動画を巻き戻すと、耳に意識を集中させて神舞が始まるところから再生した。
微かに子供の歌声が聞こえたから。
「おいおい……」
ただ違和感はこれだけではなく。
神舞の終わり掛けに微かに男の声が入っていた。
「何で……二つ……」
「確認の……」
分かりにくいが、男同士の会話が入っている。
カメラの近くにいた人のものか……
後で編集するとき確認しよう。
動画の出来栄えは中々良い、とりあえず続きを見よう。
宮司たちが飴が入った段ボール箱を持って来て、香と美樹が配り始めた。
ん?
この辺りでも男の声が微かに入っている。
動画は境内の雰囲気を撮って香と美樹の後姿にそれぞれアップし。
引きの画で二人が社務所に入って行く所まで。
最後におこぼれの飴を自分が食べて感想を言っているパートで終わる。
「あの飴美味しかったから、普段から売ったらいいのに」
そう呟いて、動画編集アプリを起動した。
イヤホンを外して首を回した。
外からカラスの鳴き声が聞こえる。
「よし、無駄な音だけ省くか……」
ペットボトルの麦茶を流し込んでイヤホンをした。
最初は子供の歌声。
確か最初の方だったな。
このへんか……
その音声だけを抽出する。
歌声は二人の女の子のようだ。
『まある………さま、おつきさ……さん……やま、なみ…………み、ひ………そらに、むつほし………、し……ひめさん、あかいひ………、あ…………さん、ご………いかが、……まことたま、めで………よ、さち………』
途切れ途切れだが、聞いたことのない歌だった。
童謡か何かかな。
でもテンポが神舞と合っている気がした。
あとは、男の会話。
終わりの方だったな……
『何で……二つあるんだ……』
『確認の必要が……』
少しの間を置いて、
『あの二人は会っているので……』
『くれぐれも……』
三人の男の声だ。
よしよし。
神舞の部分だけ、もう一度見てみよう。
ん?
二人の神舞に集中していて気が付かなかったのか。
いや、まさかね……
楼門の真下辺りで二人の女の子が神舞を踊っている。
真一郎はそこをズームした。
浴衣か着物を着た、白い服のおかっぱ頭と赤い服の長い髪をした。
そっくりな顔立ちの二人の女の子が笑いながら神舞を踊っている。
しかも香と美樹のように乱れのない動きで。
この子達凄いな。
ここの部分だけ動画を作ってあの二人に見せてあげよう。
真一郎は作業に没頭した。
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