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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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誤算の中にも

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


久しぶりの洋服に袖を通したが着心地が悪く落ち着かない。

年中、和装を着ているせいもあってか、少し浮ついた気分になっているようだ。

龍応は私服に帽子を被った出で立ちで、啓助と舞に会うためにロイヤルビレッジ夕凪島へ向かっている。

「よく降る……恵みの雨か」

フロントガラスの滴にテールランプが滲んで光る。

国道からホテルへと続く県道に入ると道は空いていた。

おかげで約束より早く着きそうだった。

「気が逸っているのか……」

一人、苦笑いをした。

ホテルに着いてロビーを見回すと、ラウンジの席にいた二人が立ち上がりこちらを見てお辞儀をしている。

挨拶を済ませると、部屋で話をと申し出た。

二人は快く応じてくれて、そのまま部屋へと案内された。

室内は整理されていて、気になったのは煙草の匂いと山盛りの吸い殻ぐらい。ソファーに腰をかけると舞がお茶を出してくれた。

二人が対面に座り、すぐに本題に入る。

「早速ですが、あなた方を信頼して頼みたい事があります」

「何でしょうか?」

啓助が口を開いた。

「まず、舞さんが結界から無事に戻られた時、結界の中で出会った二人の女の子の導きでと話されておりましたが、それ以外に香さんの力があったのではありませんか?」

二人は顔を見合わせて口ごもっている。

思った通りの反応だった。

「いや、それがあったのは私も知っているんです。あまりピンとこない話をしますと、香さんやお母様の能力、血脈を見守っている一人ですので……あの時、私を警戒してあなたは香さんの能力に関して語らなかった。それが今回あなた方を頼みにした理由でもあります」

二人は目を丸くしている。

龍応は、お茶を一口飲んで話を続けた。

「その香さんにお告げが降りたようです」

「もう一人の巫女を探すこと、結界を解くこと」

舞が呟く。

「ほう、何故ご存じで」

「ああ、香さんから相談を受けました」

「そうですか」

龍応の淡い期待が崩れた。

「ご住職も相談を受けたのですね?」

「はい、仰る通りです。ただ結界を解くことにいささかの不安が無いわけではありません」

「というと」

「結界が解かれる事によって何が起こるかは分からないのです。結界の鍵となる場所は知っておりますが、今回のように神託となっては是非に及ばずということでしょう。ただ、もう一人の巫女というのが……実はあなたではないかと思ったのですが」

「え? 私ですか?」

舞は自身を指さして首を傾げている。

「そう思う理由の一つは、どうして結界に迷い混んでしまったのか、迷い込めたのか? いかがでしょう?」

「そう仰られましても……覚えていないんです。ごめんなさい」

苦笑いをして、舞は俯いた。

「そうでしたね、こちらこそ申し訳ありません。ただ、急を要することも事実です。あえて失礼を承知でお伺いしますが、ご先祖が出来れば女性で母方になりますか、何か特別な力をお持ちのかたはいらっしゃりませんか?」

「いいえ、歴史に興味を持ってから先祖を辿ってみたのですが、夕凪島に関係はないと思いますけど……」

二人とも、顔を見合わせて首を捻っている。

「なるほど……ちなみに分かった範囲で教えて頂けますか?」


舞は頷くと、宙を見つめて話し出した。

「えーと、お婆ちゃんの、お婆ちゃんの時代に東京に出てきたみたいで、その先は山梨だったと思います」

「山梨ですか……当時のお名前なんかは覚えていらっしゃいますか?」

「早川、国江、沢田、田村、ここからが山梨で安西、伊藤までですね。ごめんなさい」

「ありがとうございます」

龍応はお茶を一口飲んで礼を言った。

残念だが島に関わりがありそうな苗字ではなかった。

「ただ、祖母には夕凪島に知り合いが居たかもしれません」

「ほう、それはどなたですか?」

「あぁ、それは分からないんですけど、恐らくその方に頼まれて、結界や巫女の事を調べていたようです。それを『考察オホノデヒメ』という本にまとめていました。私達もさっき知ったばかりで」

想定外の話の内容に驚きを隠せなった。

「その本は今どこにありますか?」

「一冊は夕凪島の図書館で、もう一冊は郷土史家の畑さんが持っていらっしゃいます」

「分かりました。私も興味があるので読んでみましょう。ちなみにお婆様のお名前を教えて頂けますか?」

「国江実日子です」

龍応には、まったく心当たりのない名前であった。

依頼した人物は誰か?

今の鳩やカラスと関連があるのか?

「お婆様は今もご健在で?」

「いえ、12年前に他界しています」

「そうでしたか、失礼いたしました」

龍応は手を合わせて祈りを捧げた。

それ程前であれば、今の輩とは直接的な関係はないか。

結界の事は兎も角、巫女の事を調べていたとなると……

内通者か?

いやこれはここまでにしておこう。


まずは目下の話をしなければ……

「話を戻しますが、香さんが夢の中で聞いた『星の瞬きに導かれ二匹の龍が道を示さんという』一節が気になります。舞さんはお分かりだと思いますが」

「たぶん、龍は巫女の事ですよね?」

舞は真っ直ぐ見つめたまま答える。

「そうその通りです。龍は蛇とも同一視され、水を意味する事も含みます。そして女性をも意味します」

「だから、二人の巫女がいないといけないんですよね」

「はい、本来は口外出来ないのですが、私の口伝の一説でも双神の神が目覚めし時、覚醒が訪れるというものがあります」

「覚醒ですか」

舞は眉間に皺を寄せていた。

「それと、あかときに神の魂は輪廻へ戻り……という一説があります」

「何か怖い気もしますね」

龍応は舞の言葉に頷きつつ話す。

「香さんから聞いたメッセージと口伝を合わせ見ると、星の瞬きと、あかときは暁で、夜という事だと思います、それも深夜」

「確かに、星……あかつき……ということは、その時間帯に何かが起こる? もしくは何かをする……」

舞は宙を見つめている。

「それと、これからお話する内容は密事になります。お心に留め置くことを願います。現在、結界の秘密を探っている連中が二組います。何れも男性で一組は親子のような男二人。もう一組は男性一人。ただこちらにも仲間がいる可能性があります。結界自体の秘密が漏れるのは吝かでは無いのですが、巫女の血統が明らかになるのは避けたい。もしあなた方がご助力頂けるのであれば、この一点だけは厳守して頂きたい」

テーブルに手をつき頭を下げた。

「ご住職、頭を上げて下さい」

龍応は声に釣られ顔を上げると、舞の微笑みが見えた。

そして啓助が口を開いた。

「なるほど、自分達は助けて頂いた恩返しだと考えています、ご住職が心配されていることは良く分かりました。心に留め置きます」

「ありがとう。それと、あなた方にはお伝えしますが、香さんには今日から極秘でボディーガードをつけています」

「ボディーガード……」

また、二人は顔を見合わせている。

「男女二人で二人とも俗に言う古武術の達人です。それから結界の場所ですが……」

「あっ、たぶん私知ってます」

申し訳なさそうに、舞が小さく手を挙げた。

「ほう」

龍応は目を丸くした。

「銚子の滝の洞窟、寒霞渓の縄文洞窟、後は三井津岬の大岩か西龍寺の近くの洞窟、どちらかでしょうか?」

舞は言葉と合わせて指を一本ずつ出して答えた。

「恐れ入りました。伝わるところでは大岩がそれに当たります。何故それを?」

「え? だって西龍寺の境内とご住職が見せてくれた母屋の中庭がヒントですよね?」

舞は、いともあっさりと言ってのけた。

「ハハハ、たった一回の訪問でそこに気づかれましか? いや、恐れ入りました」

龍応は笑いながら軽く頭を下げた。

「それだけじゃなくて、色々読んだり考えたりして分かっただけです」

舞は肩をすくめて、はにかんで遠慮がちに両手を振っている。


「一つ伺って宜しいか? 何故境内が結界のヒントになっているとお考えかな」

膝の上で両手を組んだ舞は小さく息を吐いた。

「理由は、文献等の記録する媒体が紛失や破損したさいの保険として自然の形として残すためだと思いました。そもそも、現代の私達が術を知らないだけで、他に記録をする媒体があったのかもしれませんね」

「例えば今の電気を使用する文明が無くなっとして、後の時代にUSBのメモリとかが見つかったとしても、その時は電気はもちろんパソコンやスマホなんて物はありませんから、記録を引き出しようがないじゃないですか」

「それと同じような事で、自然の物で普遍的にあるもの。例えば、石とか岩や水に記憶していたら面白いなぁなんて考えていました。……そして、麻霧山なのか、西龍寺なのか、恐らくエネルギーが集まるような場所なんだと思います」

「いやはや、参りました……」

最初の回答はある程度の人々は思いつくものだ。

しかし。

水や岩に記録すという事に良く発想が浮かんだものだ。

「岩や水に記憶するというのは、どういうことでしょうか?」

「ああ、自然の形で残せれば、そもそも問題ないでしょうけれど、例えば災害や開発でそれも失う可能性もあります。神社や寺院にして残したとしても、それも時の権力者の都合によって移転させられたり、破壊されたりすることもあります」

「だから、古の叡智を持った人々が後世に何かを伝えたいと考えた時どうするか、私達は自然と古の人々を現代よりも劣っていると考えてしまいます。スマホがあったり、飛行機や車があって便利な世の中です」

「でも、私ある時思ったんです。縄文時代って一万年もの長い間争いがなかったと言われています。それは何故か自然の一部であると認識していた人々は、全ての瞬間瞬間を感謝と共に生きていて、人々が理解しあえていたのではないかと」

「ではどのように理解しあえていたのか? 言葉はもちろん、テレパシーみたいな能力とかあったりしたのかもしれません。人間本来の能力って今使っているツールなんかを遥かに凌駕するのでは? そう思いました」

「例えば、夕凪島で大阪城の築城に使う石を切りだして運んだんですよね? 人海戦術と言ってしまえばそれまでですが、現代の我々に機械を使わずに同じことが出来るでしょうか? それを踏まえて、遥か古の人々は人間の能力を引き出せていたと考えただけでワクワクします」

「裏を返せば私達にだって出来るって事じゃないですか……あ、話が逸れちゃいました。そうですね、磐座とか湧水のような所に記録されているのかもしれません……そこから引き出す術を現代の私達が忘れているだけで……」

舞は堰が切れたように一気にまくし立てた。

それを聞いていて龍応はただただ感心した。

「なるほど……それは大いにあり得ると思いますよ」

龍応の言葉に舞は嬉しそうに啓助を見て笑っている。

舞の口ぶりから察するに、自分なりの考察を述べているに過ぎないのだろう。先人はどうしただろうか?

自分ならどうするか?

舞が先人をいかに尊敬しているかは、今の発言を以てしても理解できる。

ただ、麻霧山のエネルギーに関する事を口に出したのは驚き以外何物でもない。

やはり、何かしらの感覚があるのか、それとも単に物事の本質を捉える目があるだけなのか……

お読み頂きありがとうございます。

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