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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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反響

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


瀬田港のフェリーターミナルのうどん店。

生憎の空模様にも関わらず盛況であった。

一昨日の神舞の反響が思いのほか大きく感じる。

さらに長い髪を切った事もそれに輪をかけた。

美樹は普段通り厨房でうどんを茹でているが、バイトに入った時間から、客足が途切れることなく常連客が来るたびに言葉が飛んでくる。

「神舞見たで~」

「巫女さんの格好可愛かったなぁ」

「美樹ちゃん踊り上手かったんやな」

「飴もろうたで」

「あれ、美樹ちゃん髪切ったんか?」

「美樹ちゃんうちの息子の嫁になってくれんか?」

「凄かったで、何回か見たがあんたらが一番上手やった」

「美樹ちゃん娘に踊り教えてよ」

「昨日来たけど会えんかったん、でも今日会えたわ」

「どれだけ練習したん?」

「長い髪の方が良かったなあ」

「見て見て、写真撮ったんよ」

作り笑顔を振りまいて何とか対応したが、それは閉店間際まで続いて、さすがに店長も見かねて助け舟を出してくれていた。

そんな店長も店仕舞いの最中に神舞の感想を言ってきた。

「いや、ほんまに感動した」

そしてうどんを茹で始めると、美樹に会いたさに今日は客が多いとも話していた。

「そうなんや……」

美樹は苦笑いをしてカウンターテーブルを拭きながら椅子に腰かけた。


体より神経が疲れた。

「でも、そう言ってもらえると嬉しいわ」

「いや、こっちこそありがとうや、今日は疲れたやろ」

店長はうどんを器によそって、肉と天ぷらを盛り付けて美樹の前のカウンターに置いた。

「はい、美樹スペシャルいっちょ上がり! これ食べて、疲れとおさらばや~」

「ああ、店長、ありがとう」

美樹は両手を胸の前で合わせた。

出汁のいい匂いが湯気と共に上がってくる。

美樹専用の賄うどんだ。

「かまへん」

店長は片手を挙げて宙を払う仕草をすると、厨房から出て暖簾を下げに行った。

美樹は箸を手に取り、うどんを食べ始める。

「店長、今日も美味しいな」

「あったり前田のクラッカー」

口癖のギャグを言っている。

美樹には内容はよく分からないが店長が言うのが面白い。

「ちょっとした有名人になったな」

暖簾を片付けた店長は厨房の冷蔵庫からノンアルコールビールを取り出して飲んでいる。

「そうなんかな?」

「そうやで、今日は初めて見る客が結構いたんや、老若男女問わずな」

店長は壁に凭れながら手にしたノンアルコールビールをあおっている。

「そうやったんや」

美樹は髪を耳にかけうどんをすする。

髪を切ったら切ったで、食事の時に髪が口に掛るのが鬱陶しい。

確かに店長が言うように人は多かったけど、いちいち客の顔までは見ていないし覚える気もない。

「今のうちにサインでも貰っとこうか?」

店長は冗談を言いカウンター越しに笑っている。

「店長なら、今すぐ書いてあげるわ」

「ほんまかいな?」

店長は事務所に引っ込むとペンと色紙を持ってきた。

有名人が来店した時に書いてもらうように買いだめていたやつだ。

「じゃあ、ここに」

美樹はカウンターに置かれたペンと色紙を手に取ると、自分で言うのもなんだけど綺麗な字でサラサラと名前を書いた。

「うちのサイン第一号やな店長は」

それを店長に手渡すと、

「おお~カッコいいな」

店長は一目見て感心している。

色紙の角度を変えながらそれを眺めていた。

美樹は賄を出汁まで残らず食べた。

「店長、ごちそうさま、ありがとさん、美味しかった」

事務所に引っ込んだ店長に向けて大きな声を出す。

「毎度~」

威勢のいい返事が返ってきた。

美樹が後片付けを済ませて事務所に行くと、店長は美樹のサインを自分の机の上に飾っている。

そして美樹に向かってVサインをした。


雷は収まったが、雨はまだ降り続いていて、店長が家の近くまで送ってくれた。

傘をさして車を降りると、

「気いつけてな」

店長はそう言って車を走らせた。

国道から脇に逸れる道を家へと向かい歩く。

傘越しに見上げる空からは街灯に照らし出された滴が止めどなく落ちてくる。

「よう降るなぁ……」

そうや、帰ったらイラスト仕上げよう。

そんな事を考えているとスマホが震えた。

ポケットからそれを取り出して画面を見ると真一郎からであった。

「もしもし」

「あ、美樹、今ちょっといい?」

真一郎にしては珍しく早口でだった。

「どうしたん?」

「あの……さっき、舞さんから兄宛に電話があったんだよね……」

「え? そうなんや! なんて?」

「あぁ、兄が家にいるか? って聞かれて、出かけてますって答えたら、お元気なんですねって」

「ふーん」

「それで、美樹に聞きたいんだけど、舞さんが兄について何か言ってなかったかな、何か思い出したんじゃないかと思って」

「あー、どうやろ、何も聞いてへんけど……」

「そうか……舞さんって何処に泊まってんのか分かる?」

「えーと、ロイヤルビレッジ夕凪島やけど、どうしたん?」

「あ、いや、とりあえず、ありがとう……」

真一郎は慌ただしく電話を切った。

舞さんと真一郎のお兄さんか。

そういえばお兄さん、最近見かけへんなぁ……

まっ、いいか。

美樹は傘をクルクル回しながら家路を急いだ。

お読み頂きありがとうございます。

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