告げられて。
舞は香との電話が終わると、頭の中で香の話を整理して兄に説明した。
「え? 結界を解くの? 神のお告げ?」
兄は目を丸くして驚いて、危うく吸っていた煙草を落としそうになっている。
「そうみたい」
そして煙草の煙を吐き出しながら、手に持っていた大きな灰皿でもみ消すと、向かいのソファに腰掛けた。
「でも舞は言ってだろ? 結界は解かない方が良いって。それに、西龍寺のご住職も、そんなニュアンスの事を話していたよ」
「そうなんだ……けど。でも、巫女さんが神様のお告げをうけたのよ。ここは香さんを信じて力になれるなら、なった方が良いかなって思うんだ」
話を聞きながら、兄は大きく頷くとニヤっと笑い、
「で、舞は結界の場所と解き方は分かってるわけか」
ソファに凭れ腕組みをしている。
「ウフフ、それはね場所はだいたい分かるんだけど、流石に解き方は……」
舞は話し終わると首を横に振った。
解き方か……
もしかしたら……
今、頭に思い浮かんだことを話してみた。
「あ、でもね、解き方は香ちゃんがいれば分かるような気がするし、香ちゃんがいないと、そもそもダメかも」
「そうなんだ。香さんの力が必要ってことか。それで、結界の場所は何処なんだい?」
兄は煙草に手を伸ばし火を着ける。
「お兄ちゃんが見つけた大岩のお地蔵さん。あれは且つて、あそこにあった神社の神様の道標なの、畑さんが行っていた道はある意味正解で、かつてあった神社から道を伸ばすと……ちょっと待ってね」
舞はテーブルの上のノートパソコンを操作し、映し出した夕凪島の地図に線を引いた。
かつてあったと言われる神社から西龍寺、銚子渓のオホノデヒメ神社まで。
画面を覗き込む兄に説明をする。
「この線上に来る滝が一つの結界。実際は滝そのものを指していると思う。その近くに洞窟があるはず」
「なるほど」
「そうだなぁ、かつてあった神社の名前を仮に大岩神社と呼ぶことにして。大岩神社から瀬田神社を通って星ヶ城山のユナキ神社につながる線。星ヶ城山の水源を守る石門洞、仏ヶ滝、清滝山の霊場があるでしょ? これらの真ん中辺りに縄文遺跡の洞窟があるんだ。目印は寒霞渓にある二見岩っていう奇岩が見えるの」
「ふーん、であと一つは大岩? それとも『結界の島』に書いてあった西龍寺の近くの洞窟?」
「たぶん、大岩の方だと思うんだ、ヒントはこの三つなんだよね。でも、西龍寺の洞窟は確かに気になるなぁ」
「大岩なら兎も角、西龍寺の方の洞窟は断崖絶壁を通らないと行けなくてさ、俺は怖くてそこまで行けなかったんだ。眼鏡は中まで行って、行き止まりだった写真も見せて貰ったよ」
「へ―、畑さん行動派なんだね」
「うん、凄いと思う。で、どっちなんだい? 舞的には?」
「正直分からない。でも分かっている場所から調べたら、何か分かってくるかも」
「ふーん、で何処から調べるんだい?」
「まずは銚子渓の滝の洞窟かな」
「その心は?」
「強いて言えば……勘かな」
兄は一瞬驚いたようだがニコリと笑って頷いた。
「勘は大事」
そんな兄に一番の難題を投げかける。
「もう一人の巫女を探す方が大変かもね」
「双神の神ということは双子の神って事か……」
兄はそう言うと、遠くを見つめた。
きっと同じことが頭に浮かんだに違いない。
脳裏には当たり前のように、香と美樹の顔。
「やっぱり、美樹ちゃんじゃないの? 俺はそんな気がするけど」
「私も、あの息のピッタリさ加減を見ていたら、双子かもって思ったよ。でも、それだったら、どうして探してなんて神様は言ったんだろう? その時に美樹ちゃんって教えてくれてもいいと思うんだけど」
「ああ、なるほどね……実は、神様も知らないとか?」
「え? まさか……だから巫女探しは手探りでやらないといけないし、こっちこそヒントでもあればね……」
兄は煙草を灰皿で消すと、舞も気になっていた事を聞いてきた。
「そうそう、婆ちゃんが書いた、あの本はヒントにならないのか?」
「そうだね。お婆ちゃん、夕凪島に来たことあったんだよね。聞いたことなかったな……」
祖母からは、何でも聞いていた気になっていた舞にとって、意外でありショックでもあった。
「舞が知らないなら尚更、自分は分からない」
兄は言葉通りにお手上げをしている。
「でも、あの本も家になかったし、畑さんが言うには故郷の事を知りたいって言ってたでしょ? 私、ご先祖様を調べたけど、系図をたどれる範疇では夕凪島に関わることはなかったんだよね」
「んー、いつ頃なんだろうな婆ちゃんが夕凪島に来たのは」
兄は天井に上る煙の行方を追っていた。
舞もそれを見つめる。
天井で四散し空気に馴染んで消えていく。
そして思い出したことを口にした。
「そういえば、本の最初に、友人に捧ぐみたいな事が書いてあったでしょ? もしかしたら、夕凪島に知り合いが居たんじゃないのかな?」
「なるほどね。あなたの探求に捧ぐ、だったかな……と言う事は、その知り合いに頼まれて本を書いたということか」
「うん。もしかしたら、お婆ちゃんは歴史の教師をしていたから、頼まれたのかも。その結果を本に記したとか……」
「例えば、何を頼まれたんだろう? あれに書かれていることは、夕凪島の祖神が双子だったという考察が主だよな。そしてこうも書いてあった。巫女の血筋は連綿と今に受け継がれているって……」
「巫女のに関する事。それを知りたい人?」
舞が身を乗り出すと、兄も同じように身を乗り出して話し出した。
「そうだな……『結界の島』に挟んであった地図も婆ちゃんが書いているのだとしたら……結界……巫女……おいおい、これって……」
「やっぱり、必然なのよ。私達が今ここにいることは。お婆ちゃんが故郷の事を知りたいって、畑さんに話していたのも、巫女の血筋がどうこうって私に話していたのも、お婆ちゃん自身の事ではなくて、頼まれた人の事だとしたら、辻褄が合う……」
「その知り合いって誰なんだ?」
「んー……結界や巫女の秘密を調べている人?」
私たちの知らない関係者がいるのか。
気がつかない誰かなのかなの。
窓の外に眩い閃光が走った。
少しの沈黙を破って雷鳴が轟き窓ガラスがガタガタと震ええていた。
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