探求心
真一郎はバイトを終え、雨で薄暗い部屋の中で、モニターの明りを頼りに図書館から借りた本の続きを読んでいる。
『考察オホノデヒメ』。
考察という体裁はとっているが、この本の影響で、分かる人には分かってしまうのではないかという疑問だった。
しかも、結びは巫女の血統は、今も続いていると断定的だ。
香が巫女の血筋と知っているから余計にそう思ってしまうからだろうか。
『蟹江空見子』という作者の女性。
よくもまあ、推理だけでよくここまで書けたなと感心した。
しかし、双子の神という考察には驚きと興味をそそられた。
神舞は確かに夕凪島独自の物らしい。
神の化身が舞手となり、人々の為に舞を奉納する。
巫女の衣装も独特。
自然と香と美樹の姿が頭に浮かぶ。
香は巫女の血を引いている。
息の合った二人を見ていると、美樹が巫女の血を引いていたら。
そう考えてしまう。
本にある通り、双神に当てはまるのではないか?
この1年足らずだが、二人を見ていると本当の姉妹以上の繋がりを感じる。
神舞の息の合った舞が、それを如実に表していたと思う。
仲が良すぎるから、二人が付き合っているなんて噂もあったようだし。
大袈裟かもしれにけど、二人の間には犯しがたい雰囲気というか、簡単には割り込めない距離感のようなものがある。
ただ、当の二人は分け隔てなく誰とでも平等に接しているし、真一郎に対しても同様だった。
バラバラバラ……
窓ガラスに雨が打ち付ける。
ゴォー、ゴォー……
風も音を立て激しくなってきた。
真一郎は神舞をビデオで撮影したことを思い出した。
本を閉じると、モニターの脇に置いてあるビデオカメラからに手を伸ばす。
メモリカードを抜き、パソコンに差した。
マウスを操作してモニターに動画を流す。
神舞の雰囲気を撮ろうと参道の露店の立ち並ぶ辺りから始まる。
楼門を潜り、境内を練り歩いて社殿に参拝するまで。
まだそれほど多くない客の中、神舞が始まる1時間以上前に撮影した。
肝心の神舞の撮影場所は、良さそうポイントはすでに場所取りがされており、社殿から撮影した。
そこからだとお堂の背後からにはなる。
ただ、お堂の床と社殿は、ほぼ同じ高さ。
踊る二人を撮りやすそうだと感じた。
撮影は神舞が始まる5分前から。
三脚で固定したビデオカメラを操作して境内の雰囲気を撮って楼門にズームして始まるのを待っている。
太鼓の音と共に、楼門から巫女装束に身を包んだ二人が姿を現すと歓声が起き、眩いフラッシュが点滅している。
太鼓の音に合わせゆっくりと一歩ずつ近づいてくる。
プルルル、プルルル……
唐突に家の電話が鳴った。
「ちょ、ちょ、ちょ」
真一郎は動画を停止すると、慌てて部屋から飛び出し一階にかけ降りる。
「はいはい、切れないでよ…」
息を整えながら受話器を取った。
「はいもしもし、川勝です」
「あの、私、早川と申しますが、川勝京一郎さんはご在宅ですか?」
受話器から聞こえる女性の声は早口だった。
兄の知り合いだろうか?
早川?
どっかで聞いたことあった気がするが……
「兄は昨日から出掛けてます」
「あ、そうですか、お元気にされているのですね?」
女性は安心したのか、少し声が穏やかになった。
「はぁ、元気だと思いますけど……」
「良かったです、ではよろしくお伝え下さい、失礼します」
「あ……」
返事をしようとしたら電話は切れていた。
一階に降りたついでに、冷蔵庫から麦茶のペットボトルを取りだした。
二階の自室に戻り、動画の続きを見ようとマウスを握った瞬間……
え?
あっ!
早川ってあの人じゃないか?
兄に連絡を取ってきたということは?
どういう事なのだろう?
やはり知り合いだったということなのか?
何か思い出したということだろうか?
雨音が静寂の部屋にこだまする。
真一郎はスマホの画面をしばらく見つめた後、電話をかけた。
◇
香は美容院から家に戻ると、リビングのソファーに座り、スマホで島の結界について調べてみた。
検索結果に出てくるのは、古事記の神話の話やお才の局の伝説。
個人の旅行記。
弘法大師関連の記事。
島に関した結界の記事はなく。
あくまで一般的な結界についてのサイトが主で、これといった目新しい発見はなかった。
実際、サイトに目を通してみても、知識の下地がないこともあって、読んでも良く分からない。
神社や寺院そのものが結界だとも書いてあったり。
町や家なども結界が張ってあるというものまである。
香はスマホを脇に置いて膝を抱えてソファにもたれた。
美樹は真一郎に相談したらって言ったけど。
真一郎に全てを話して信じてくれるだろうか。
そういえば、あの夢で会った双子の少女は、私の力が戻ったって言っていた。
それはどういう意味なんやろ?
助けてくれる人がいるとも言ってたんよなぁ。
結局、誰かに聞くという事は秘密を話さないといけない。
それを調べるのも秘密。
どうしたらいいんかな?
ん?
舞さんは結界に迷い混んでいた。
それに、何か知っているような感じの事を話していた。
そうや。
舞さんなら私の秘密を知ってるし何か分かるかもしれない。
香はスマホを取って、逸る気持ちを抑えるように、深呼吸してから啓助に電話を掛けた。
「はい、もしもし香さん? どうしたの?」
啓助は電話に出ると優しい声で聞いてきた。
実際の声より低く感じる。
「こんにちは、あの舞さんはいますか?」
「ああ、舞ねちょっと待って」
電話の向こうで舞さんを呼んでいる。
香ちゃん?
舞の可愛らしい高い声が聞こえる。
「もしもし、香ちゃんどうしたの?」
舞は電話に出ると、さっきより明るいトーンで聞いたきた。
「あの、舞さんに夕凪島の結界について聞きたいことがあるんです?」
「え?」
「私、夢を見たんです……」
昨夜の夢の中の出来事を説明する。
舞に丁寧に相槌を打って話に耳を傾けてくれた。
「なるほど、それで結界の事を聞きたかった訳ね」
「そうなんです」
「私、たぶんその女の子達に結界の中であってるの」
「え?」
舞さんが?
思いもよらぬ返答に言葉が出なかった。
「そうか、結界を解くのが神様のお告げってことね。そして、もう一人の巫女を探す……」
「うん」
舞は呑み込みが早くて、頭の回転が速い。
「香さんの誕生日はいつ?」
「土曜日です」
「あと3日ってことか……明日、会った時に話そ、たぶん私とお兄ちゃん、香ちゃんの力になれるから」
「ほんと? ありがとう舞さん。それとこのことは……」
「秘密だよね。分かってるよ。それと、お礼なんていいんだよ、恩返しだもの」
舞の言葉に香はホッと胸を撫で下ろした。
きっと舞さん達が助けてくれる人なんや。
香は納得して電話を切った。
スマホの画面の時計は、16時を過ぎている。
「あかん」
香は部屋を飛び出して、店を手伝いに一階へ駆け足で降りた。
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