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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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気になることだらけ

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


降り止まぬ雨の午後、舞はホテルの部屋で兄のノートパソコンを操作していた。

祖母が何で『考察オホノデヒメ』を記したのかも気にはなったが、今回の旅の資料が無くなったので思い出せる限りを書き出している。

それとある事を調べたかった。

昨日、彩也と絵美に連絡した時に二人が自慢げに話していたこと。

それは舞がこの島にいると決定づけたというインスタグラムのコメントについてだ。

兄はベッドで横になり休んでいる。

舞は自身のインスタグラムにログインし、最後の投稿に該当のコメントを見つけた。

☆Ayaka☆という人が書いたもので、

『帰られたのだと思いましたが、昨日お見かけしました、歴史探求は順調ですか?』

コメントの投稿日は5日前。

14日の金曜という事。

この人は誰なんだろう?

☆Ayaka☆のインスタグラムはゲームに関することがほとんど。

数回、風景写真がアップされていた。

それらの中には見覚えのあるフェリーが映ってもいた。

この人は島の人かな。

窓に目を遣ると外は土砂降りの雨だった。


――京一郎を先頭に洞窟を進む、その壁はごつごつとして湿っていた。

ライトを照らして見える足元は、壁に比べると凹凸は少ない。

おかげで歩くのにさほど苦労はしなかった。

ただ、ここに足を踏み入れた時から頭を締め付けるような感覚がある。

「気分悪くないですか? ここが何かある証拠の一つだと思うんだけど、頭が痛くなるんだよね」

京一郎は指でこめかみを押さえている。

「少し気分が悪いかな」

舞が答えると、

「辛いようなら言ってください、我慢は良くないからね。銚子の滝の方がよかったかな……」

銚子の滝?

もう一ヵ所あるという事なのかしら?

緩やかに下った先に地面が石で敷き詰められた空間に出た。

その石の一つ一つに何かの模様が刻まれている。

天井はさほど高くはなく、広さは10メートル四方くらいだろうか。

奥の壁には、穴にはめ込まれたように小さな石造りの本殿らしき建物がある。

大人が二人通れる位の入り口。

その両脇には原型を留めていない狛犬らしき石像が置かれていた。

「この石は夕凪島産の花崗岩ですよ……」

「そうなんですね」

「この奥に言うなれば、ご神体に当たるのかな、鏡があります」

京一郎は眉間を指で押さえながら言って本殿へ入っていった。

舞は後に続くと京一郎はしゃがんで何かを置いている。

本殿の中は10畳ほどの空間であった。

「よし」

その声と共に辺りが明るくなった。

簡易ライトを床に置いたようだ。


照らし出された空間は床、壁、天井と石が隙間なく敷き詰められていて、そこにもさっきの広間の石のように模様が施されていた。

「見て」

京一郎が懐中電灯で示した先。

台座と思しき石の上に置かれた一枚の鏡があった。

舞は近づいてそれを覗き込むと、表面は汚れているものの自分の顔をくっきり映しだしていた。

厚さは2センチ程度だろうか、ただ鏡の近くにいると頭が一層重くなった。

鏡から離れると幾分ましだが、本殿の中は明らかに空気が違った。

「大丈夫? 外に出ようか?」

京一郎が聞いてきたので

「大丈夫です、ただ鏡の近くは……」

「だよね……」

「あの鏡、綺麗すぎません?」

「そうだよね。結構汚れていはいるけど、どれくらいの年月ここにあるのか分からない割には、そうだね反射するものね」

「それに薄い」

「うん、それは思った」

「鏡に懐中電灯の光当ててみてもらえますか?」

舞は鏡に光を当てるよう京一郎に頼んだ。

「やってみよう」

光線は上の方に反射する。

少し上を向いて鏡は置かれているようだ。

京一郎は鏡と同じ高さで正面から光を鏡に当てる。

すると、辺りが一瞬光に包まれた。

「なんだ?」

「きゃっ!」

「もう一度やってみるよ」

京一郎は再び鏡に光を当てた。

反射光は天井に伸びる。

舞は視線で光をたどる。

「あそこ、鏡がある」

舞の声に、京一郎は懐中電灯で天井を照らした。

「本当だ。でもあったかな……天井に鏡なんか」

京一郎は指で顎を挟んで首を傾げていた。

「京一郎さん、あの天井にある鏡に光当てて見ませんか?」

「うんそうだね、やってみよう」

京一郎が天井の鏡に光を当てる。

その反射した光は床を照らす。

床には何かの紋様が浮かび上がり、その中心には鏡があった。

「おいおい、すごいよこれ」

「凄い……これ模様かな?」

舞が足元を見ると『我を崇めよ』と文字も浮かび上がっていた。

そそて、天井を見上げる。

そこにも紋様が映し出されている。

先程からの空気の重さが増してきて頭がボーっとしてきた。

「ちょっと気分が悪い……」

頭を押さえながら京一郎を見ると、彼も同様の様子で膝に手をついていた。

どこからともなく。今まで嗅いだことのない匂いがした。

「誰だ!」

京一郎が叫んだ瞬間。

舞は意識を失った――


深いため息と共に目を開ける。

舞はその日からの記憶がなかった。

正直、どういう経緯で結界に迷い込んだのか分からない。

てっきり意識を失ったあの日から、あの空間に居たものだとばかり思っていた。

先週の木曜日に目撃されているという事は、その日以降に結界の中にいたということになる。

確かに、あの日のインスタグラムの写真の服装と結界に居た時の服装は違う。

それにあの時はポシェットは持っていなかったし、私は何をしていたんだろう?

京一郎は無事だろうか?

ネットの検索では事件、事故のニュースは見当たらなかった。

スマホがあればな……

そう思った時、兄のスマホが鳴った。

兄はベッドから起き上がると電話に出た。

耳をそばだてていると、電話の相手は西龍寺の住職のようだ。

「今からですか?……分かりました。折り返しお電話します」

そう言って電話を切ると、兄はこっちを向いて聞いてきた。

「舞、西龍寺のご住職が今からうちらに会って話がしたいから来て欲しいって、どうする?」

「あーどうしよう」

ご住職の話も気になるけど、今は調べ物と自身の記憶を書き留めたかった。

「今は、作業したいかなぁ思い出せるうちに……」

「そっかあ、そうだよな」

兄は頷くと電話を掛けた。

住職が出ると兄は謝罪をし誘いを断っている。

「え? ちょっと待ってください」

兄は通話口を手で押さえている。

「夜、ホテルで会うのは平気かって」

「それは、構わないけど何だろう?」

「どうしても話がしたいみたいだな、そこまでしての話だから受けよう」

舞が頷くと兄は会話を再開した。

「お待たせしました…大丈夫です。……はい、19時にロビーで……はい……では、失礼します」

電話を切ると頬を膨らましてスマホを眺めている。

「どんな話だろう……」

兄は首を傾げてポケットから煙草を取り出した。

舞も確かに会ってまで話したいその内容は気になった。

結局、気になる事だらけだね。

「いけね、買い忘れた……ちょっと下で買った来る」

兄は部屋のカードキーと財布を持って部屋を出て行った。


その瞬間――

舞の中の悪魔が囁いた。

「お兄ちゃんごめん」

舞はソファーから立ち上がり、ベッドの上に無造作に置いてある兄のスマホを手に取った。

パスワードか。

舞自身の誕生日を入れてみた。

画面が変わる。

罪悪感が募る。

発信履歴を確認する。

西龍寺。

眼鏡。

達磨。

健太郎。

彩也。

川勝龍一郎……

あった。

電話番号をメモする。

アプリを元に戻して画面を消すと元あった場所にスマホを置いて、ソファーに腰掛けた。

心臓の鼓動が早い。

ごめんね、こんな妹で。

メモした紙をポシェットに畳んで閉まった。


深呼吸をして作業を再開しようとしたものの、集中できずにモニターを見つめていると兄が戻ってきた。

「ちょっとコンビニ行ってくる、下になかったんだよ煙草。なんか買ってきて欲しい物ある?」

ベッドのスマホを手に取り操作している。

「うーん、甘い物がいい、品物は任せるね」

「オーケー、頭使うと糖分欲しいよな、じゃあ行ってくる」

兄は部屋を出て行った。

「気を付けてね」

その背中に声をかけた。

ため息をつきソファーに寄りかかり目を閉じる。

記憶は思い出せない。

祖母の事も気になる。

パラパラっと、雨が窓ガラスを叩きつけた。

その音で目を開けた。

風も強くなって来たようだった。

それが窓に吹き付ける度に雨がリズミカルに音を鳴らす。

普段は穏やかな瀬戸内の水面にも刺々しい白波が立っている。


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