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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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虚空

ドーベルは、決意を固めた。

これ以上、この老人達の暴走を許してはならない・・・と。


現に今、こうして火星は彼らの勝手な正義観によって翻弄されようしているではないか。これを、これ以上黙って見逃すことは出来なかった。


それに、彼らがアカツキや他のAIを『止めている』のだとしたら、その解除方法は『彼らそのものを止める』しかないのだ。


「うぉぉぉ・・・りゃぁぁっ!」

自分を鼓舞するような雄叫びを上げながら、ドーベルが立ち上がる。


「テメーらっ・・・!黙って聞いてりゃぁっ!フザけやがってよぉ・・・・『気に入らないから恐竜(グリーン)を焚き付けた』だと?・・・そんなテメーらの勝手のせいでっ!いったい、どれだけの犠牲が出たのか知ってんのかぁぁ!」


突然の勢いに、オームが面食らって押される。

「な・・・何を突然・・・」


ドーベルは一気にオームへと詰め寄った。


そして、一瞬の隙をついて操縦席の横にある大きな『レバー』を引いた。そう、かつてザッカーがこの輸送艦を乗っ取った時に使用した『緊急遮断器』だ。


キュィィィィ・・・・ン・・・ン・・・

全艦の電源が一斉にダウンする。バッテリー照明の橙色が部屋を照らす。


「なっ!このガキっ!何をしたぁぁぁ!」

オームがドーベルを突き飛ばす。


「へっ・・・!『何も出来ない』って?『あった』よ・・・オレに出来る事がさ・・・ざまぁみやがれ・・・」


「このガキが・・・下らんわ!こんなものは、すぐに・・・うん?」

オームはダウンした遮断器のレバーを持ち上げようとするが、ガッチリと固定されて復帰出来ない。


「これは・・・上がらん・・・!」


「下手に力づくでやるとよぉ・・・壊れて2度と復帰しないぜ・・・」

オームに倒されたまま、ドーベルがニヤニヤと笑う。


「・・・忘れたのかい?『あんたら』が決めたルールだろ?『緊急時にはAIやブレインよりも人間の判断が優先される』って。これも、そのひとつさ。一度遮断されたら再復帰には『ライセンス認証』が必要なんだよ。・・・あんたら『機械の身体』なんだろ?『人間』じゃなけりゃぁ、パスが通らねぇのさ・・・」


「おのれっ!このくそガキがっ!」

ヘルツがドーベルの胸ぐらを掴んで引き上げる。


「なら、お前がやれっ!さっさとレバーを戻すんだっ!」


「ああ・・・『戻す』よ・・・『戻す』けどな・・・その前に・・・!」

ドーベルが大きく息を吸う。


「聞こえてるかぁぁぁ!ストーォォォル!」


すると、コクピットのスピーカーから機関士・ストールの声が聞こえて来た。

「聞こえてるぜ!・・・ずっと聞こえてたよ。はっ!お前とは長いからな・・・『何を考えてるか』なんて、とっくにお見通しだぜ!」


「な・・何?!誰か他に居るのか?この艦に!」


「『ザッカー』事件の時にな・・・オレ達は反省したんだ、色々とね。そのひとつとして『一箇所に集まらない』ってのがあってな・・・。チェアは機関室に居るが・・・ストールはエンジンルームに構えてるのさ。・・・そこには『誰か』行ってるのかい?アンタらの『お仲間』がよ・・・」


勝ち誇ったかのように、ドーベルがヘルツを見下す。

「・・・電源は死んでいるのではないのか?何故、音声が通じる?」


「それも『反省点』さ。イザという時に連絡が取れないのは困るんでな・・・。バッテリーを使って『有線』で会話出来るようにしてあンだよ」


ちっ・・!とオームが舌を鳴らす。

「そんな改造・・・本部に申請されておらんぞ・・・!」


「ふふ・・・『現場』をナめんなよ?そういう『細かい改造』ってのは、個々の船が使い勝手を考えて独自にしてる事だ。いちいち図面変更の申請なんざ、面倒くさてやんねーんだよ!」

かつて、ザッカーは『図面と現物が違う』と困惑していた。それはそうした長年の『変更』によるものなのだ。


「機関室っ!誰かエンジンルームに向かえるか?!」

オームが怒鳴る。


だが、機関室からの返答は期待に反するものだった。

「ダメだ!扉が開かん!ロックされてるんじゃ!」


そう、全電源喪失になれば扉は全てロックされ、内側からは安易に開かないのだ。


「下らん真似をしおって・・・!だが、お前の腕を引っ掴んでレバーを握らせれば済むことよ!『腕力』でワシらに勝てると思うなよ?」

ガシッ・・・と、オームの手がドーベルの腕を掴む。


「うぐっ・・・!させる・・・かよ・・・」

必死の抵抗を試みるも、絶対的腕力の違いは如何ともし難い。ドーベルはズルズルと操縦席まで引っ張られる。


と、その時。


「いいぞっ!ドーベル!こっちは『完了』だ!」

ストールの声だ。


「何だっ!?」

一瞬、ストールの声に気を取られたオームの腕を振り払い、ドーベルは緊急遮断機のレバーを握った。

そして間髪をいれずにレバーを戻す。


ヴィィィィィ・・・ン!


全電源が復帰し、再起動シークエンスが立ち上がる。


「な・・・何をしておるんじゃ?」

オームには事の次第が理解出来ていない。


「知りたいかよ・・・『それ』を見な?」


ドーベルがコクピットのパネルを指差す。そこには陽電子ビームが『出力過剰』に陥っている事を示す数値が示されている。


「こっ!これは!」


「へへ・・・『暴走』ってヤツさ。さて、ここで『問題』だ・・・余剰に放出された陽電子は・・・『どうなる』・・・かな?」


ザッカーは不慣れで、安全装置の解除に手間取っていた。

だが、ストールは長年の担当によって、そのエンジンの隅々までをも把握している。同じ事をするにしても、あっと言うに間に『出来る』のだ。


「馬鹿なっ!やめろ!貴様・・・狂ったか!艦が大爆発するぞ!」

コクピットが騒然とする。


陽電子の出力ゲージは、すでに最高値を振り切っている。もう、引き返す事は出来ない。いつ何時、対消滅が起きても不思議はなかった。


「で・・・電源を切れんのか?!」

「ダメだ!今ここで電源を遮断すれば、その逆起電力でビームの暴走が更に加速する!」


もはや、ドーベルの事など誰も見ていない。


「は・・・?『狂ったか』だって?おかしな事を言うヤツらだな。あんたら火星のクルーを『皆殺しにするつもり』なんだろ?なのに、『自分の命は惜しい』ってか?そりゃ、ダメだろうが

・・・かつて、ザッカーは言ってたらしいぜ?『殺される覚悟が無ければ殺す資格はない』ってな。・・・オレは決めたぜ・・・『覚悟』ってヤツをな・・・」


次の瞬間だった。

その『反応』は瞬く間だった。


対消滅によるエネルギーは咆哮をあげて吹き上がり、瞬く間にドーベル達を乗せた輸送艦を爆炎の中へ飲み込んだ。


そして。爆発に巻き込まれたゲートb号機もまた、蒸散して『トラピスト』の側へと消え去って行った。


火星軌道上に轟音と微かな塵だけを残し、『歴史』は虚空へと消え去ってしまった。







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