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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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火星

「お・・・おい、今の衝撃音・・・デカかったな・・・!何が起こったんだ・・・?」


無重力搬送船SB12は火星に居た『人員』、その『ほぼ全員』の収容とテイクオフに成功していた。

サンダーはクラウドと共にパイロットを務めるベル班長の横にいて、この不安定な船の操艦の手伝いをしていた。


「さぁ・・・分からないけど・・・」

不安なのはクラウドも同じだ。サテライトに着くまでは安心出来ない。


「もしかすると、プシケが大気圏に突入を開始したのかも知れないね・・・」


え?という顔をサンダーがする。

「突入を開始・・・て?突入したら、すぐに『地面にドカン!』じゃないのか?」


「いや、そうはならないんだ。あれだけ大きいと空気抵抗と空間密度の問題があるからね・・・。必ず地面と平行に近い角度で突入を開始して・・・そのまま大気圏を横断しながら、徐々に地面との距離を詰める形になるんだよ」


ふたりの会話を、ベルも聞いている。

実はその『プシケの突入』こそが、ベルの最も恐れているリスクなのだ。


火星の大気圏を横断しながら飛来する巨大隕石はコースの把握が非常に難しい。少しの加減で大きく抵抗が変わるからだ。


SB12は元々『航行姿勢に不安がある』船体である。

プシケによる直撃を喰らえば無論の事、近傍を掠めただけでも衝撃波で船体が振られる危険がある。そうなれば傾きが復元できず、最悪は『墜落もありうる』とベルは考えていた。

なので出来るだけ『衝突コース』から遠のきたいのだが・・・今の時点では『それを知る術』が何も無いのだ。ただ、上へ上へと進路を取るしかない。


だがその時、焦るベルに救いの手が舞い降りて来た。


"SB12、聞こえますか?こちらアカツキ"

待ちに待った、アカツキの復活である。


「よっ・・・よっしゃぁぁ!アカツキが『戻った』ぁぁぁ!」

コクピットでベルが喝采を上げる。


"SB12、聞こえますか?コミュニケーション・プロセスを再開します。緊急事態です。火星に巨大隕石が突入中です。直ちに危険回避コースへ移動してください。なお、現在は手動航行のようですが、そのまま手動で操艦しますか?それともAI操艦に切り替えますか?"


「切り替えるよっ!AI操艦でやってくれ!」

ベルの返答は懇願に近い叫びだった。


"了解しました。SB12・専属AI『リットウ』、操艦を引き継いで下さい"

"了解、こちらリットウ。ただちに操艦を開始し、危険回避行動を取ります"


その電子音声を合図に、SB12が大きく船体の方向を変える。


「やった・・・これで・・・これで、無事に逃げられる・・・」

ふっー・・・・と大きくため息をついて、ベルは力なく座り直した。


"ハロー、SB12。資源調達本部のアルバトロスから通信です。繋ぎますか?"


アカツキから量子通信の連絡が入る。


「ああ・・・繋いでくれ」

ベルが答えるとスピーカーから、がなり声が聞こえてきた。


「おおっぉぉ!繋がったぁぁぁぁ!そっちはっ!そっちは全員無事なんかぁぁぁ!」


間違いなく、アルバトロス輸送部隊長の声である。


「・・・アルバトロスさん、僕です、クラウドです!」

大声に面食らっているベルに代わってクラウドが応える。


「おおっ!クラウドの坊主か!お前、生きてんのかよ!」


「はい・・・お陰様で。とりあえず火星の『人員』は、ほぼ全員救出しました。今、サテライトに向かってます」


「そうか・・・こちらもやっと、事態の把握が追いついてきたところだ。どうやら火星にプシケが衝突しかかってるようだな?何しろさっきまでコミュニケーション・サーバがダウンしててな・・・やっとさっき、再起動で復活したところだ」


アルバトロスの声に多少、落ち着きが戻る。


「だが、サテライトとの通信がまだイマイチでな・・・それから、ドーベルの輸送艦が近くに居るハズなんだが、こちらはロストしている・・・レーダーに映らねぇんだ・・・無事だと良いんだが・・・」


アルバトロスの不安が量子通信を介して伝わってくる。


「ドーベルさんが・・・。分かりました。こちらで何か捕捉できたら、また連絡します」


「ああ、頼む。こちらで今、記録(ログ)を辿って事態の解明を急いでる。こっちも何か分かったら、連絡するからよ」

それだけ言って、アルバトロスとの連絡は途切れた。




衛星軌道上に居るサテライトは、アカツキの綿密な計算によってプシケ衝突の影響を最も受けない位置に退避していた。

まもなく、クラウド達を乗せたSB12も到着し、ドッキングして停泊に成功した。



そして『その衝撃』は、それから間もなくであった。



ドン・・・!とサテライトにまで響く大きく鈍い音がしたかと思った次の瞬間には、その墜落地点と思しきところから地面が徐々に赤黒く染まり始めたのだ。


噴出した地下のマグマが火星に茂る緑の大地を尽く焼き払い、紅蓮の炎に飲み込んでいく。その『侵略』は留まるところを知らないようであった。


「あ・・・あ・・・オレ達の火星が・・・」

サテライトの窓から、クルー達がその様子を見守る。


「地上基地も・・・飲まれたな・・・『あの辺り』だからよ・・・」

薄い雲の切れ間から、基地近くの地形が見えている。


「何てこった・・・。何百年もかけて作り上げたモンが『一瞬』でパー・・・かよ」

「恐竜達・・・助けてやれなかったなぁ・・・」


ここからでは、もはや地上の詳細を伺い知る事は出来ない。地上を映していたカメラも火砕流に飲まれているからだ。


クルー達はただ、まるで生き物のようにうねる『赤い帯』が、大地に広がっていく様子を『見守る』ことしか出来なかった。だだ、呆然と・・・




デスクとドラムの二人は感傷に浸る暇もなく、地球の参謀本部と対応の協議を続けていた。


「・・・分かりました。では、そのように。ああ・・・アルバトロス部隊長によろしく、お伝えください」


「・・・どうです?決まりましたか、デスク部隊長」

ドラムが不安そうに尋ねる。


「ええ。とりあえず、現時刻を以ってプロジェクト・マーズ及び火星本部は一時凍結になりました。再開の時期については『追って協議』という形になるそうです。

それから我々ですが、残っているゲートa号機を使ってサテライトごと月の周回軌道へと移動します。・・・此処に居ても仕方ありませんからね。月側に出たら、輸送部隊が牽引に来てくれる段取りです」


冷静さを装いながらも、デスクの視線は窓の向こうに燃え盛る火星へと注がれていた。


「そうですか・・・ではSB12は?」


「・・・流石に大きすぎて、SB12までは牽引出来ないと言われました。此処で放棄するしかありません。しかも、そのままにしておくと火星に墜落して被害を拡大させる恐れがあるので、重粒子偏流加速器の出力を残したままで放出せよ・・・と」


「ま・・・当然でしょうな・・・」


仕方が無いのはドラムとて理解はしている。だが、こうして自分たちを助けてくれた『戦友』を見捨てるのは、あまりに偲び無かった。


そして。

最後の役目を終えた老艦は、無人のままサテライトの係留を解かれた。


「すまんな・・・。せめて『いい夢』が見られる事を期待しているよ」

遠ざかっていくSB12を眺めながら、ドラムが呟いた。



「これから・・・どうなるんだろうな・・・オレ達よ・・・」

月軌道に向けてゲートへと向かう途中、サンダーが呟いた。


此処に居るクルーの大半と違い、サンダーは火星に来てまだ日が浅い。だがそれでも、その喪失感は共有出来る物なのだろうと、クラウドは理解した。


サンダーは遠い眼をしている。

「何もかも全部、消えちまったしな・・・」


クラウドがサンダーの胸をポンと叩く。

「全部、じゃないよ・・・ああ、全部じゃない。少なくとも『歴史』と『経験』は残ってるし、クルー達も『ほぼ全員』を救出する事が出来たしね・・・財産は残ったんだ」


「いや・・・けどよ・・」

サンダーはまだ、名残惜しそうだ。


「・・・レインボウも居なくなっちまったしなぁ」


それかよっ!とクラウドは心の中とツッコンだ。

というか、そもそも『その』レインボゥにトドメを刺したのは他ならぬサンダー自身なのだ。それを思えば『居なくなった』も無いものだと、クラウドは呆れた。


今にして思えば、フェニックスがレインボウの『正体』を知らなかったハズは無いだろう

。知っていたからこそサテライト勤務とは言え『特例的に』火星へ行く事になったと見ていい。そこにはフェニックスの意向が働いていたと考えて良いと思う。


地球は今、人口の減少に歯止めが掛かっていない。だが、宇宙開発にはこれから更に多くの人手が必要になるのは間違い無い。

それ故に何時(いつ)か、人間はヒューマノイドと共に活動する事も想定せざるを得ないだろう。だとすれば、レインボゥはその『テストケース』として投入されていた・・・と推察出来る。


アカツキも言っていたが、基本的にAIやブレインには『価値観』は無い。

それは恐らく『ワザと』与えられていないのだと、クラウドは思う。仮に『それ』を与えた場合『悪意の第三者』によって容易に操られてしまい、人類には大きな脅威となってしまう危険があるからだ。

現に、図らずもレインボゥはそのリスクを実証してしまった。その事で、ヒューマノイド計画は大きな見直しが迫られるであろう。


「レインボウか・・・でもねサンダー、『アレ』の中身は『シーガル姉さん』だよ?・・・かなり猫を被ってたけどさ。だから仮にレインボウに悪意が無かったとしても『お近づき』にならなくて正解だったと・・・僕は思うよ」


そんな言葉がサンダーにとって慰めになるのか、クラウドには分からないが。実際、シーガルのパートナーが務まるのは宇宙広と言えどシバぐらいのものだろう。


「そうか・・・シーガルさんかぁ・・・そう言ってたもんなぁ。思えばシーガルさんも『天然』なところがあるけど、AIはどうしても頓珍漢な答えをする事があるから・・・『そういう事をしても不自然じゃない』人選をしたのかもな」


おや?とクラウドはサンダーを見直した。『意外と冷静に見ているのだな』と。


クラウドは、ふと考える。

『オリジン12』は確かに偉大だった。それは間違いない。


だが、それ以降に続くクルー達の奮闘があればこそ、火星の現在があるのだ。例え凡才の集まりであったとしても、各々の叡智と汗と情熱によって築き上げられてきたのだ。そして、これからも『それ』は変わる事はあるまい。きっと、連綿と引き継がれて行くのだろう。


窓の外で小さくなってゆく真っ赤な火星を見送りながら、クラウドは己の決意を固めるかのように言う。


「・・・ここから先は、僕達が作るんだよ。僕達がね。何時の日か灰燼に帰した大地に戻って、イチからやり直すんだ。先人の歴史が終わって・・・僕達の時代が、始まるんだ」


クラウドは想う。


地球と人類に残された時間は悠久であっても、無限ではない。何時かは見切りをつけて外宇宙へと乗り出す大航海の時代が到来するのであろう。


それは決して簡単な旅ではない。

その挑戦は、時として多くの犠牲を必要とするだろう。人は宇宙に咲く『華』と散りながら、それでも次の星を目指すためにその身を捧げて・・・



サテライトから切り離されたSB12・・・ステファン=ボルツマン級12号機は暫くの間、火星の軌道付近を漂っていたが、やがてゆっくりと軌道を離れ、宇宙の深淵へと姿を消した。








疲れました。

正直、ここまでエネルギーを使って書くことになるとは思ってなかったです。

最初はホント、ノンビリ行くつもりだったんですけどねぇ・・・

途中から筆が走り始めて、止まらなくなってしまいました。

70話という長さは、初めての経験です。

ここまで長いと、整合性をとるのが大変なんですよ・・・「あれ?どうだったけ?」みたいな。

最終話は20回以上も加筆・修正を加えましたし。


とりあえず今はカタが着いてホッとしているというのが本音です。

「終われて良かった」というか。

最後まで、ご愛読いただき、有難うございました。

深く、感謝を申し上げます。


潜水艦7号 拝


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