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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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解任

ガゼルの事件から3ヶ月、基地の修理は急ピッチに進んでいた。


ジャッカルが調査をしていた地区も本格的移住に向けてジャングルが切り開かれて更地になっており、例の『杭打機』が鎮座していた。今度こそは正規の役割を果たすためだ。


火星と月をつなぐ『ゲート』も、ついに『b号機』が据え付けられた。これによって『年4回』という火星との補給ルートも、かなり改善されたと言って良かった。


鉱物資源類の行き来もかなり盛んになっている。火星の宇宙船発着場は大幅に拡張され、活況を呈していた。今や、あらゆる惑星や衛星の調査が進み、鉄を始めとする資源の全太陽系的ネットワークが出来つつあったのだ。


この日、クラウドは地球に帰るシバの見送りのために、シャトルの発着場に来ていた。


やはり、シバの怪我は重傷だった。クーロン先生曰く、頚椎に損傷があって身体に麻痺が残ったのだとか。手に掴んだ物を落したりもするが、特に左足は「半分も自由が利かない」と、シバは嘆いていた。

そのため『これ以上の任務は困難』という診断書が出て、フェニックスそのものを離れる事になったのだ。


「あれは・・・おうっ『SB12』じゃねぇか!懐かしいなぁ・・・地球で見たっきりだぜ。火星まで運んで来たのか、あんな『骨董品』をよ」


シャトルの向こうで荷降ろしをしている『巨大なカタツムリ』を、シバが懐かしそうに眺めている。


「ええ、整備と近代化改修が終わったのでこちらに持ってきたそうです。『比較的に気候が安定している火星での運用に向いてる』って言ってました。もっとも、地球での運用と違って操艦はAIによる全自動(フルオートマチック)ですけれど」


「そうか・・・これから、火星も忙しくなるなぁ」

シバは、遠い眼をしている。


「・・・残念です、シバさん。折角、ここで一緒に働けると思ってましたから」


心細そうなクラウドの肩に、シバが手を掛ける。

「心配すんな、お前なら俺ナシでも充分やれるさ。お前はそれを、ずっと実証し続けてきたじゃねぇか?胸を張っていいぞ」


そう語るシバの表情は、とても晴れやかに見えた。今までクラウドが見たことのない位に屈託の無い温かい笑顔である。


「ああ・・・それとな。俺は今日付けでフェニックス解任なんでね。『シバ』はもう終わりだ。今日からは元の『片桐藤吾』に戻るからよ・・・」


シバ、改め『藤吾』の口ぶりには寂しさが隠しきれていなかった。決して『気に入った』バース・ネームでは無かったろうが、それでも愛着が無かったわけではないだろう。


「後のこたぁ、頼んだぜ?ベル班長によろしく言っといてくれ」


クラウドが『抜ける』となった後、後任については議論もあったが「経験が長いベルが相当だろう」と決着したのだ。


「・・・分かりました。叔父さんも、お気をつけて」

クラウドが頭を下げようとした時だった。


「おーい!待たせたなぁっ!」

背後から大声がした。


「姉さんっ!」


手を振りながら走って来たのは、シーガルだった。

だが、その背中や手には大きな荷物を抱えている。


「えっ?どうしたの、そんな荷物を抱えてさ?」

クラウドはシーガルの荷物を指差した。


「どうしたって・・・え・・知らないのか?アタシも地球に帰るんだよ。『カイニン』というヤツだな!」


突然の事に、クラウドは面食らっている。「聞いてないよ!」というヤツだ。


「いやいやいや!今、初めて聞いたよっ!えっ・・・地球に帰るって・・・どういう事?」


「いや・・・実はな」

藤吾が割って入る。


「俺の兄貴が隠居する事になったんだ。何しろトシだからよ」


藤吾の家は五縄流柔術の家元をしている。現在は兄が当主を務めているが、藤吾は後添いの子という事もあり、兄弟は親子ほどトシが離れているのだ。


「で、俺が家督を継ぐとなってな・・・けど『こんな身体』だからよ。弟子達に満足な稽古もつけてやれるか分かんねぇし。それで『だったら一緒に』って・・・その・・話でよ」


何だか、藤吾が口ごもっている。


「え・・・ど、どういう事ですか・・・?」


視線をシーガルに転じると、シーガルも何となく顔が赤い。

「いやっ!・・・べ、べべべ別におかしくは無いだろ?その・・・アレだ」


ついに堪らなくなったか、藤吾が告白する。

「すまん、クラウド!黙ってたがな・・・俺達は夫婦なんだ・・・いやその、『式』もしてねーし、書類上は、だがな!」


シーガルは、顔を真っ赤にして下を向いている。


「えええっ!」

クラウドが大声を上げる。


「ちょっ・・・いつの間に!」


「・・・お前が火星に来る、少し前の話だ。実は、元々俺とサクラは親同士が決めた『許婚』だったんだよ。だから、その、不自然な事じゃぁないぞ?」


呆気にとられて立ち尽くすクラウドに対し、シーガルが顔を上げて今まで見た事がないほど幸せそうな笑顔を見せる。

「へへ・・・まぁ、そういう事だ!」


なるほど、今にして思えば色々と思い当たるフシはあった。


シバが『シーガルと話の合うゴリラ班長と仲が悪い』のも、頷けるというものだ。新婚?の嫁が他の男と仲良く話をしていたら、それは確かに旦那として面白くないだろう。


それに、シバが破壊した壁の修理をしていた時にも、シーガルはシバに食って掛かっていた。スジから言えば上司を怒鳴りつけるなぞ、あり得た話では無いのだが、シーガルには『すでに身内』という意識があったのだろう。

『妻』としての遠慮のなさ、というか。無線でシバを呼ぶ時も『シーガル』と名乗らず『アタシ』で済ませていたし。また、人目をはばからずにシバの怪我を気遣っていたのも・・・


「いや・・・事情は分かったけど・・・しかし『良い』の?それ。確か、フェニックスは個人的事情による退職を認めてなかったんじゃ?」


「いや・・・!それはその・・・アタシも業務に支障がある、というか・・・」


再び、シーガルの顔が真っ赤になった。

そして、何処となく『お腹』を擦る仕草をする。


「え・・・ま、まさか・・・」


毎日見ていてると変化に気づき難いものではあるが、良くよく見ると『お腹』が微かに膨らんでいるように見える」


「・・・!」

絶句するクラウドを、シーガルが笑い飛ばす。


「はははっ!だから、さっき言ったろ?『懐妊(カイニン)』だってよ!」




その頃、サテライトにも動きが出ていた。


「どうしました?本部長」


地球からの通信をヘッドセットで聞きながら、アルタイルの顔が見る見る強張っていく。


「・・・私に『地球に帰還しろ』と命令が出たよ。ここの処『事故』が続いたからな。『地球でじっくり事情を聞きたい』とさ。まあ・・・事実上の更迭だろうな、この分では」


アルタイルは、被っていた帽子を脱いだ。


「暫くの間、此処はデスク君、君ひとりに任せる事になる。地上のドラム部隊長と上手く連携してくれたまえ」


「・・・分かりました。心配はいりませんよ、火星もかなり落ち着きましたし。これもすべて、アルタイル本部長のご尽力あっての賜物だと、我々は認識しております」


サテライト部隊長のデスクは、そう言ってアルタイルに敬礼した。








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