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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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先生

「先生、こんにちわ」

クラウドが、クーロン先生の医務室を尋ねる。


「おう、クラウド君か。お入りなさい。・・・シバ君は今、寝ておるがの」

クーロン先生が手招きをする。


「あ・・・寝てましたか。さっき、姉さんが『目を覚ましたから、部屋に戻って休む』って言ってたものですから」


残念そうな顔をするクラウドに、クーロン先生が笑い掛ける。


「おうおう、それは一足違いじゃったな。何、眼が覚めたと言っても、それほど長い時間はまだ無理じゃて。まぁ・・・」

何かを言い掛けて、クーロン先生が突然に言葉を濁した。


クラウドの視線を外すようなクーロン先生の仕草に、クラウドはシバの怪我具合を察する事が出来た。

これは、良くないんだ。


いくら火星で重力が弱いとは言え、機重ごと横転したのだ。無事や軽傷で済むはずが無かった。死なずに済んだだけ、ヨシとしなければなるまい。


「そう・・・ですか。分かりました。仕方ありませんね」


帰りかけようとするクラウドを、クーロン先生が「まぁ待て、お茶でも飲んでいけ」と呼び止めた。クラウドも「では」と応えて、椅子に腰掛けた。


「ところで・・・」

クラウドが何気なく、クーロン先生に問いかけた。


「先生は火星(ここ)は長いんですか?誰に聞いても『自分よりはずっと長いはず』って言うんですが」


「ははは!そうじゃなぁ、自分でも忘れるくらいじゃわ」

相変わらず、クーロン先生は闊達に笑う。


「実はこの前、アカツキと『名前』の話をしてて思ったんですが・・・僕達のバース・ネームって基本的に『シリーズ』じゃないですか?だから、『シバ』に対して『ドーベル』とか、似た名前のクルーが居るのが普通だと。

でも先生の『クーロン』っていうのは『電気の単位』ですよね?『それ』のシリーズで付けられた名前を、僕は見た事がありません。だから、よほどに『古い名前』なのかな・・・て」


うんうん、とクーロン先生は頷いている。

「『古い』と言われれば確かに古い名前じゃの」


「それと・・・バース・ネームには『一般的に人の名前として使われる名称は避ける』という『暗黙のルール』があったと思います。スミスとか、イトウとか・・・

確かに『クーロン』は電荷の単位を示すものですが、同時にフランスの物理学者『シャルル・ド・クーロン』に因んだもので『人物名』ですよね?つまり、先生の名前が付いたのはそうした暗黙の了解すら出来る前なんじゃないかと・・・」


「君がそう思うのは自由じゃ。想像に任せるわい」

そう言って、クーロン先生はニコニコしていた。


「もうひとつ、実は気になっている事があります。先生はお忘れかも知れませんが、1年前に僕が『異動』の件でお伺いした時に先生は『アルバトロスのところか』と仰いました」


「はて、それは覚えがないの?」

うーん、と先生が小首を傾げる。


「ええ、仰いました。しかし、その時僕は資源調達本部とは言いましたが、『輸送部隊』とは言いませんでした。というか、正式な配属先を聞いたのはその後からです。フェニックスでは異動のアナウンスは『本人通達後』という決まりだと、地球で聞いています。なので、もしかして先生は僕が知る以前に、何らかの方法で『異動先』をご存知だったのか?と」


クラウドは、クーロン先生の顔色の変化を伺っている。


「ははは、年寄りの勘が『まぐれ当たりした』とは思わなかったかね?」


「思いませんでした」

クラウドが言い切る。


「最初のオリエンテーションで聞いたのですが、資源調達本部に所属するクルーのほとんどが、実は『宇宙船製造班』所属なんだそうですね?しかも今は忙しいみたいで、畑違いのベルさんも応援に駆り出されてたと聞きました。なので、逆に輸送部隊に配属される方が確率は低いんです。ですから何らかの方法で予め『知っていた』のかな?と・・・」


「・・・何が、言いたいのかな?クラウド君は」

クーロン先生の表情は、それでも何処か楽しそうにも見えた。


「いえ、それ以上は。アカツキからは『憶測で物を言うとチームワークに乱れが出る』と釘を刺されていますので」


「はは・・・そうかい。何、ワシはそんな大それたモンじゃないわ。唯の老いぼれ爺ィよ」

心なしか、クーロン先生は嬉しそうにも見える。


『まだ話を聞ける雰囲気』と悟ったか、クラウドが恐る恐る尋ねる。

「すいません、ついでに・・・お聞きしたいのですが」


「ああ、ええよ。ワシに答えられることならな」


「ガゼルさんの件は・・・驚きました。あまりに突然だったので」

さしものクーロン先生も、表情を曇らせる。


「そうさな・・・あれは、残念なことをした。S-Marsと言ってな。聞いた事があるかも知れんが、かつて火星で猛威を奮った感染症じゃて。多分、野生の恐竜が感染していて・・・その血肉にでも触れたんじゃないかな?」


「心当たりはあります。・・・僕が血まみれの通信機を発見して、ガゼルさんに手渡しましたから。僕は制服のグローブをしてましたが、カゼルさんは素手だったので」


「まぁ・・・すべては『推測』に過ぎん。実際はそれと『違う感染源』かも知れんしの。それこそ『憶測』の域を出ん話じゃて」

クーロン先生が頭を掻くような仕草をした。


「・・・そうですね。分かりました。色々と、すいませんでした」

クラウドは大きく頭を下げて、医務室を退出した。


「・・・。」

再び静かになった医務室で、クーロン先生がニヤリと笑う。


「うむ・・・怖い怖い、鋭いのぉ・・・。流石はシバの甥っ子じゃて。あんな小さな『エサ』に食いつきおったか」

そして、更に小声で呟いた。


「・・・『死なせる』には惜しいと見るべきかの・・・彼も」








次回から、いよいよ最終章に入ります。

この物語も、あと少しになりました。

毎度お付き合いを頂き、有難うございます。

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