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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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退避

「緊急事態っ!緊急事態っ!こちら、第三変電所だ!」

悲痛な叫び声とともに、第一報が無線に入る。


「やられたっ!・・・電牧を・・・恐竜たちに突破されたっ!」


資源の乏しい火星基地の電源は原子力発電に頼っている。その電力は高圧送電になるため、各所に変電施設があるのだ。


「クラウド君、聞こえた?!・・・た・・・大変だ・・・」

無線からガゼルの声が入る。


「今の無線は第三変電所からだった!あそこは・・・全ての電牧に電気を供給している『要』なんだ!」

電牧の電源が遮断されれば・・・その後にどうなるかは、考えるまでもない。


なおも、第三変電所からの無線が続く。


「くそぉ・・・恐竜たちが建物に押し寄せてきやがるぜ・・・おい、皆んな気をつけろ!トリケラトプス種だ・・・トリケラトプス種が電牧を突き破ったんだ!

くそ・・・何かヘンだ・・・あのトリケラトプス種、頭に何か塗ってやがるぜ・・・(ラッカー)みたいな光沢がある・・・もしかして『アレ』が電気を絶縁とかするのかよ・・・あぁっ・・・!シャッターを破られ・・・」


無線は、それだけ聞こえてから途絶した。


地上本部でも、この意外な一報に大騒ぎをしていた。


「アカツキ!今のは第三変電所かっ?!」

ドラムの大声が司令室に響く


"確認しました。間違いありません"


「くそっ・・・盲点だったな・・・ヤツらの統率具合から見て『最初は発電所狙いだろう』と、シバの130tを配置させていたが・・・まさか変電所とはな・・・」


如何にアカツキが優秀な人工頭脳でも、勘や推理の類は苦手と言っていい。それゆえ、各配置については人間が考えるしかないのだ。


「シバ?!聞こえたかっ!」

ドラムが無線で呼びかける。


「・・・聞こえたよ。今、施設班ゴリラと一緒にそっちに向かってるぜ・・・それにしても・・・(ラッカー)絶縁だと?いちいち頭が良いヤツらだな・・・」

シバはトリケラトプス種のラッカーが気がかりなようだった。


そこに、同行していた施設班長のゴリラから無線が入った。

「そいつぁ、アレだな。もしかすっとヤツら『試して』いたのかもな」


「試す?何だ、そりゃ?何か思い当たるフシでもあンのかよ?ゴリラ!」

シバが問い返す。


「ああ・・・今思えば、だがな。昔から『たまに電牧に引っかかる恐竜』が居てな。どうしてわざわざ『電牧を試すのか』って不思議だったんだ。もしかして、ヤツら『どうすれば電牧を突破できるのか』を試してたんじゃねぇのかって気がするんだよ」


「ああ?で、どうしてヤツらが『(ラッカー)なら大丈夫』って分かったんだよ?」

苛ついた声でシバが応える。


「・・・1年前、グリーンが基地を襲撃したときによ・・・電牧に小型恐竜が絡まって、ワシらが修理に行ったろ?その時、死んだ小型恐竜の肉が『ベッタリと張り付いてた』んだ。

『何で今回に限って、こんなに付着が酷いんだ?』としか、その時は思わなかったが・・・今思えば『アレ』は死んだ恐竜に『漆』を塗りたくってあったに違いねぇ・・・それで、ヤツらは『漆ならイケる』と踏んだんじゃ・・・」


「ふん・・・!想像に過ぎんな。それより今は・・・」


「ああ、分かっとる。急いで基地建物に向かわんとな・・・正直、電牧が『死んだ』のであれば、もうワシらの手には負えん!」




ドドドドド・・・・ドドド・・・


地響きが辺りに轟く。


まるで大型の地震でも発生したかのようだ。

クラウドは戦慄を覚えた。


今となっては『唯の鉄柵』と化した『電牧』の外に、種々の恐竜たちが津波のように群がっている。

アレが一斉に飛び込んでくれば『応戦』どころの騒ぎではない。


ガン・・・ガガン・・・!

恐竜たちが電牧に体当たりを繰り返し始めた。


もはや、これまでか・・・

流石のクラウドも覚悟を決めかけた、その時。本部から無線が入った。


「総員っ、・・・緊急退避だっ・・・!」

ドラム部隊長の声だった。


「本部前にも恐竜が集結しつつあるっ!残念だが、此処は緊急退避だっ!建物に居るクルー達は、より頑丈なエリアに移動しろ!シャッターが弱い整備庫付近は特にダメだっ!急げっ!それと、外に居るクルーは・・・霊廟に急げっ・・・!ひとりでも多く・・・だ!幸運を祈る・・・!」


確かに。

こと、この後に及んで『戦う』という選択肢は意味を持たない。三十六計逃げるに如かずというが、それ以外の手段はあり得なかった。


「くっ・・・仕方ねぇっ!行くぞ、クラウド。おいっ、頼むぞガゼル!」


ベルがキャリアを運転するガゼルに無線を入れる。

「分かりました・・・」


二人を乗せたまま、ガゼルがキャリアを霊廟の方に向ける。そう、以前にグリーン襲撃の前に見たコンクリート製の建物だ。


「しかし・・・霊廟って、避難出来るようなところなんですか?」

クラウドが不安そうな顔をする。


「ああ・・・というか、元々『霊廟』というのは単なる呼び方であって、本来の用途は本部がダメになった時を想定した緊急避難用のシェルターなんだ・・・。用途が用途だけに、しっかり閉めれば扉も壁も頑丈だから恐竜の猛攻にも耐えられるだろうが・・・」


問題は、だ。

『それが何時まで耐えられるか』である事は明白だった。


恐竜たちが外を占拠すれば、数に劣る人類はどうする事も出来ない。まして、地球から応援を得ようにも、ゲートは『行った』ばかりだ。あと3ヶ月近くは、応援は期待出来ない。まさしく『孤立』状態なのだ。

しかも、それは首尾よく霊廟に入る事が出来ればの話だ。

恐竜の大群に飲み込まれでもしたら、そのクルーを助ける術は無い。


「こちら、A12地区っ!電牧、全て突破されたっ!くそ・・・恐竜が雪崩込んで来やがる・・ダメだ!間に合わんっ・・・」

無線からも悲痛な声が入ってくる。


「くっ・・・いったい、何が起きてるんだ・・・」


クラウド達の目の前に、霊廟が見えて来た。どうやら、自分たちが一番早く着いたようだった。

ベルが指示を出す。


「よしっ!ガゼルはキャリアごと中に入って、皆んなを受け入れる準備をしてくれっ!クラウド!オレ達は後続のクルー達の援護だっ!」


霊廟の入り口に立ち、クラウドが今まさに走って来た道を振り返る。


その向こうに、退避に急ぐシーガルのVF-Xが見えた。





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