第四話 ユメガミ様の神罰
【前回のあらすじ】
なんか物騒で変な夢を見たような……?
再び夢の内容を思い出すきっかけになったのは、三時限目の体育の時間にサッカーをしていた時の事であった。
「てめえ、ふざけんなよ!」
たまたまツトムと万倉がぶつかっただけだが、万倉が怒鳴り散らしてツトムに襲いかかってきた。その勢いでひっくり返るツトムの上に馬乗りになって襟を掴んだり顔を殴りつけたりする。
「やめなさい!」
すかさず教師が万倉を強引に引き剥がすが、万倉は「こいつのせいで! こいつがいるから!」と半狂乱でわめき散らしている。
どう見ても殴りかかってきた万倉賀悪いのは明白だが、それを誰かが指摘しようとした途端、彼はとんでもない事を口にした。
「こいつがオレを殺しに来る!」
ツトムの怪我はたいしたことはなく、殴られた顔も少しアザが出来た程度で済んだものの、それよりも双方の保護者への事情説明の方が遙かに大変であった。
というよりも加害者である万倉が錯乱していてまともな会話が出来ず、彼の親も担任もどうする事も出来ず、結局何も解決しないままお開きになってしまった。
ツトムも万倉の親から何度も頭を下げられたが、保護者ってだけで何も悪い事をしていない人に謝られてもこっちが悪いような気がしてきて、なあなあで済ませてしまった。
ただ、「こいつがオレを殺しに来る」という万倉の言葉がツトムの頭の中でぐるぐると回っている感覚が抜けない。
あれは一体どういうことなのだろう。むしろこっちが殺されそうになったというのに。
大体自分が万倉を殺すなんて。現実では絶対あり得ない。
そう、現実では。
じゃあ、現実じゃなかったら。
「思い出した……!」
昨夜に見た夢。状況はさっぱり分からなかったけど、最後に出てきたのは万倉の顔だ。今、鮮明に思い出した。
「まさか……まさか!」
放課後。ツトムは脇目もふらず一直線に突っ走った。
目指すはもちろん、ユメガミのいる祠だ。
当のユメガミは、薄汚い祠の上で尻尾を揺らしながら何やら紙のようなものを眺めていた。何が書かれているのかは分からなかったが、ユメガミは上機嫌な様子であった。
「ふふ……ふはははは……やった、やったぞ我!」
「うわ、びっくりした!」
急にユメガミが高笑いするものだから、ツトムは思わず後ずさる。
「おお、ちょうどいい所に来た、ツトムよ」
「そ、そんな事より大変なんだ! すごくすごく大変な事があって!」
「えー……せっかくいい知らせなのに」
不服そうなユメガミであったが、ツトムが切羽詰まった様子だったので、まず話を聞いてやると譲ってやった。
ツトムは今日学校で起きた出来事を話した。それに加えて数日前から万倉の態度が妙に暴力的だった事も、今日になってそれが大爆発した事も。
「それで思い出したんだけど、夢を見たんだ。ぼくがスイッチを押したら椅子に座ってた人が苦しんで動かなくなって……その人、万倉君だったんだ」
「ほう?」
「それで思ったんだ。最近の夢はぼくが敵と戦ってそれを倒す夢ばっかりだったけど、その「敵」って毎回ずっと万倉君だったんじゃないかな」
ユメガミは何も答えない。ツトムはそのまま続けた。
「だからぼくからして見れば勇敢に敵をやっつける夢でも、万倉君にとってはぼくにやっつけられる夢ばかり見ていた。ううん、見せられたんだと思う」
万倉がおかしくなったのはきっとそれだ。自分がやられる夢を毎晩毎晩見せられていたら普通でいられるはずがない。
「全部、ユメガミ様がやったんでしょ?」
違ったらどうしよう、という気持ちが無いわけではなかった。だけど言わないわけにもいかなかった。はっきりさせなければいけないものだった。
「……ま、そうだな。我がそいつの夢に介入してそなたの夢と繋げたのは確かだ」
ユメガミは何の悪びれもなく、あっさり白状した。
「な、なんで……?」
「なんでも何もそなたが望んだのだろう。自分で強くなりたいと。だから我は力を貸した。」
「け、けどこれじゃあ」
いくら何でも万倉君が可哀想なんじゃないか、とツトムは抗議しようとするが、ユメガミの反論の方が早かった。
「甘いぞ、ツトム」
一刀両断するような厳しい声に、ツトムは迫力にのまれて言葉を失う。
「小童にも分かりやすく言ってやろう。まずそなたは自分が強くなりたいと願った。だから我はせめてそなたに害をもたらす連中に立ち向かう勇気を持てるよう最善を尽した。ここまでは分かるな?」
ツトムが震えながら頷くのを見て、ユメガミは話を続ける。
「だが夢の中で敵と戦えても、そなたはいつまで経っても現実と戦う勇気を持とうとしない。駄目だと分かっていても全然変われなかった」
「う」
痛い所を突かれて、ツトムは悲しげにうつむいた。
「だから我は考えた。敵が強くて戦えないのであれば、敵を弱くすればいい。そうすれば力の差は縮まり、そなたが立ち向かえる機会も増える」
落ち込みたくなるツトムとは対照的に、ユメガミは「やはり我は天才!」と誇らしげに笑う。
笑える話かどうかはさておき、ユメガミの言っている事はツトムにも理解できる。
この神様はツトムのために、ここまでやってくれたのだ。
万倉がああなってしまったのも、自分が不甲斐ないからこんな事になったわけで。
「……やっぱり、ぼくは駄目な人間なのかな」
結局自分は本当に何も出来ていない。変わりたいと言っているのは口先だけで、本気で変わろうとしていなかった。
そう思うと、悔しさで涙が出……る前にユメガミがその金色のモコモコした身体で体当たりしてきた。
「やめーい! 泣くでない、愚か者が!」
「でも、ぼくのせいで万倉君が」
「敵の事など心配するでない! 大体あやつが神の怒りに触れたのが悪い!」
「神の怒りって、ユメガミ様の?」
「我以外におるか!」
ユメガミはぺしっと長い尻尾でツトムの手の甲をはたいた。
「あやつは昼寝中の我をぶん投げた! だから我には奴を罰する権利と義務がある!」
わりと尤もな理由すぎて、ツトムは納得するしかなかった。寝ている時にぶん投げられたら危険だし怒りたくなるのも仕方がない。
「で、で、でもぶん投げられたからって、悪夢を見続けさせるのは可哀想というか……」
「そなた、これが我ではなく生まれたての赤ん坊がぶん投げられても同じ事が言えるか?」
言えなかった。ユメガミはそんなツトムの反応を見て「それみろ」と言い放つ。
「いい加減それで納得しろ。一生続ける気は我にはないし、そなたの願いのために利用できたのだし気に病む必要はない」
「願い、か」
ツトムはぽつりと呟いた。
そして、ある疑問がふと頭の中に浮かんで、それをそのまま口にした。
「ユメガミ様はどうしてそこまでぼくの願いを叶えようとしたの?」




