最終話 勇気はまた、今度で
【前回のあらすじ】
ユメガミの作戦って結局上手く言ったんですかね……?
思い返してみると、初対面でかなり絡んできた事も、自らツトムに神様だと明かしたのもまるでツトムに自分の存在をアピールして居るみたいだったし、こっちはそれを信じただけなのにその力で願いを叶えようとしてくれた。
要するに、ツトムはユメガミに大したことはしていないのにどうしてユメガミはそこまでツトムに良くしてくれるのかが今になって疑問になってきたのだ。
これまでずっとユメガミのペースに流されていたが、今にしてみればそのバランスは平等ではないことにツトムは気付いてしまった。
どこかで「ただより高いものはない」という言葉も聞いたことがある。
後でとんでもない見返りを求められたらツトムにはどうすることも出来なくなるので、内心は正直ドキドキしていた。
だが、ユメガミからの返答は意外なものであった。
「何を言っておるのだ。そなたは我を神だと信じてくれただろう」
「え?」
「前に言っただろう。神は信じてくれる人間が居なくなればいる意味がなくなると」
確かにユメガミはで会った時にそう言ってた気がする。
「でも、ぼくは言われるままに信じただけだよ!? それ以外の事は何も」
「それが全てだ。そなたが信じてくれたからこそ、我は神のままでいられた。いわば命の恩人だ」
「命の恩人……?」
言われてもツトムにはピンと来なかった。
ユメガミはその様子を見て、言おうか言うまいか少し悩んだ表情をしながら、決心して話を続けた。
「……これはちょっと内緒だがな、我は本当に神様をクビになりかけていた」
「神様ってクビになる事あるの!?」
さすがに初耳であった。
「ここが元々神社だった事は前にも話したな?」
「うん」
あの後同情したら、神社があった頃に生まれないのにと怒られたっけ。ツトムは思いだしていた。
「昔、特に人々が戦争の後始末に追われていた頃は、心の余裕を失って悪夢を見るものも多くてな」
ユメガミは語る。人々がここで悪夢を打ち払いたいと願っていた事を。
そしてユメガミはそんな人々の願いに応え、夢の神として祭り上げられ、代わりに人々に加護を与えていた事を。
「だが時代の流れと共に人々の生活は豊かになり、前向きになり、だんだん我も必要とされなくなって……あー! 思い出したらなんか腹が立ってきた!」
そこは悲しむ所じゃないんだ、とツトムは思ったが、なんか怒られそうだったので黙る事にした。それでもユメガミの話、いや愚痴は続く。
「それでな、昭和が終わってヘイセイ? になった辺りで神社を取り壊す話になって、なんか頭にきてそのままふて寝していたら、そなたと出会う二日くらい前だったか? 我の所属する八百万ノ神の会という神を管理する組織から「誰にも信仰されず誰にも加護を与えないなら神の座を剥奪する」という警告が来てな。あまりにもムカついたからまたふて寝してた」
「なんでまた寝ちゃったの!?」
さすがにそこはつっこまざるを得なかった。
「いや、ちゃんとふて寝する前に色々対策は考えていたのだぞ? だが信仰のほぼ無い我はこの地から離れる事も出来ず、人が来ない限りどうする事も出来なくてな……それで寝ている間に万倉という小童にぶん投げられて、我は物理的に死ぬかと思ったぞ」
そして今に至る。ツトムは全てを理解した。
「だからぼくが信じるって言ったから、ユメガミ様はぼくを助けようとしたんだ」
事実を知るとあまりにも単純すぎる話だった。
「これで分かっただろう。我にとって信じてくれる人間の重要さが。そして」
ユメガミはどこからか一枚の紙をツトムに見せた。
先ほどユメガミが上機嫌で見ていたもののようだが、書いてある文字はどこの国のものでもないようで、ツトムにはまったく読めない。
「つい先ほど八百万ノ神の会から通知が来てな。そなたに加護を、ついでに万倉には神罰を下したという仕事ぶりが認められて残留決定。そなたのおかげで我はまだ神でいられる!」
ユメガミは嬉しそうに歓声を上げた。いや、実際嬉しいのだろう。
「……でも、ぼくのおかげって言うけど、それはぼくじゃなくても出来ることだよね?」
「そうかもな」
どことなく暗い反応のツトムに、ユメガミはさらっと肯定する。
「だが、それでも出会ったのはそなただった。それは事実だ。きっかけが偶然かどうかなどに対した意味はない」
「そう、なの?」
「神が言うんだから間違いない。信じろ。そなたのおかげで我は神でいられる」
「……そっか」
全てに納得したわけではないが、神がそうだと言うのだったら信じてみようという気にはなってきた。
「そなたはまだ若い。おっちょこちょいを直すとか、立ち向かう勇気を持つ為の時間はまだまだ充分ある。駄目だと諦めるのは早すぎる」
まあさすがに神ほどの時間は無いけどな、とユメガミは楽しそうに言う。
そんなユメガミを見ながら、ツトムはしばらく考えた後にうなずいた。
「ぼく、ユメガミ様を助けられたって思っていいんだよね?」
「そうだぞそうだぞ、誇っていいぞ。我は夢を司る神、ユメガミぞ」
むしろ誇らしげにしているのはユメガミのように見えるけどそれでもいいや、とツトムは改めてユメガミの方に向き直った。
「だったら、ぼく頑張ってみるよ。いつかおっちょこちょいも直して、ちゃんと言いたいことを言う勇気を自分で持つようになる。だから」
そこで一拍置いてから続きを話す。
「だからぼくの事を信じて。ぼくがユメガミ様を神様だと信じたように、ユメガミ様もぼくがちゃんとやれるようになれるって信じてほしいんだ」
「ほう」
ユメガミは満足げに目を細めた。
「そなたが我を信じたように、我もそなたを信じる、か」
「うん。誰かが自分を信じてくれるって思ったら、きっとそれが一番の応援になると思うんだ」
「応援、か」
ユメガミは視線を空の方に向けてから、ツトムの方を見て「悪くないな」と答えた。
「人も神も信じ合うことで生きていく。理想的なあり方かもしれぬな」
そこでふとツトムはある疑問に思い当たった。
「……あれ? もしかしてユメガミ様がいなくなったら夢に関係する神様は居なくなるの?」
「いや、そんな事はないぞ? 同じものを司る神は複数いるのは普通のことだし、神話の書物を読めば分かるが地域や国によってもその辺は違ってくるからな。当然ながら夢を司る神は他にも存在する」
「じゃあ、ユメガミ様がいなくなっても世の中的には問題はないんだ?」
「我に対して失礼すぎやしないか! そなたは勇気より先に一言多い性格を直せ!」
それから万倉は精神的な理由で、当面の間学校を休む事になった。
クラスメイト達はあの体育の時間に起きた事件を不思議がっていたが、それでもツトムの方に同情が集まったため、前よりもツトムに優しく接するようになっていった。
その流れで万倉の仲間である他の二人もツトムに干渉しなくなっていき、ツトムはこれまでよりも平和な日々を送っている。
平和になってきた影響か、ツトムは徐々に言いたい事を言えるようになってきたし、プレッシャーでおかしな失敗をすることも減っていった。
ユメガミの居た薄汚い祠はというと、ツトムが話を広めたのか、時折誰かしらが祠を訪れるようになった。
ユメガミは直接顔出しすることはあまりしなくなったが、訪れた者の願いは聞き入れ、加護を与える。
そのたびにユメガミは全盛期の過去を懐かしみ、未来を繋いでくれている人々の有り難みを噛みしめる。そしてその中間にいたツトムという少年の存在も。
誰からも必要とされなくなった神と、己の価値を全く見いだせない少年がたまたま出会って、お互いがお互いである必要性は全くなくとも結果的には双方が救われた。
「夢で現実を変えられるものだな」
ユメガミは祠の陰から天を見上げて大あくびをするも、誰かがこちらに来る気配を察知してサッと隠れた。
「さて、今日はどんな夢を与えようか」




