第六話 花売りの少女(1)
第六話 花売りの少女(1)
「セイルいる?」
「いません。仕入れに行ってるのですが、昼前には帰ると思ます」
「あらー、少し待たせてもらっていい?」
「どうぞご自由に」
店に入ってきたのは花屋のカタリナだ。茶色い髪のそばかすが可愛いらしい少女で、二日おきにこの店に花を置きに来る。セイルの店はアクセサリー兼小物屋なので、小銭持ちの女性客が多い。カウンターに花を並べておけば、わりと頻繁に売れてしまう。セイルは殆どただのような手間賃で、カタリナから花の小売りを請け負っていた。
「仕事慣れた?」
「はい。小さい店ですから」
「ほんとびっくりしたわ。急に家政婦さん雇うなんて、セイルそんなこと一言も言ってなかったのに」
「はぁ」
「率直に聞くけど、あなたセイルの恋人?」
「ちっ、違います。遠縁の親戚です」
ミーネはセイルからそう言い含められている。
「ほんとに~?」
カタリナは笑いながらも鋭い目で私を伺う。
「ほんとですよ」
ミーネはどぎまぎと顔が赤くなるのを感じるが、しょせん猫。ご主人様の恋人なんておこがましいとは思う。
「なら、いいけど」
カタリナはくすくすと笑っている。
「ほんとですよ」
「いいのよ。あら、セイルお帰り」
帰ってきたセイルが親し気にカタリナの頬に口づけをする。
「どうしたの?まだ花は元気だよ。いくつか売れたかな。代金回収する?」
「まだいいわ。それより相談があって来たの。時間ある?」
「君の為なら何時間でもあけるよ。昼食でも一緒にどう?」
「嬉しいわ。三人で頂きましょう」
「私は結構ですよ。お店もありますし」
「あら」とカタリナは申し訳なさそうな顔をする。
「何か買って帰るよ」
「大丈夫ですよ。どうぞごゆっくり」
昔から聞き分けの良い猫なので、ご主人様の恋路を邪魔したりしない。
(存分に盛ってきてくださいな)
言葉には出さずに、ミーネはニコリとほほ笑んだ。
「で、盛ってたの?」
「知らないわ」
屋根裏部屋の出窓にはファンファが座って、頬杖をついている。
「それで?」
ミーネは深く息をついて、ハーブ茶を啜った。ラベンダーは気持ち落ち着かせるってきいたけど、今日のミーネには今一つ効果がわからない。
「カタリナみたいな花売りの女の子は、たいてい田舎から出てきてるそうなの。花の卸の元締めと契約して花を売ってるんだけど、休みなしの鬼ノルマで、更に借金吹っ掛けて雁字搦めにされてるそうなのよ」
「で、病気になっても休みもなくて、文句言ったら契約書持ち出して、なにも聞いてくれないんですって」
「ふむふむ。それで?」
「で、カタリナ達みんなで逃げようかって相談してるんだけど、でも契約書出されたらカタリナ達が役人に捕まるでしょ。それでセイルに相談しに来たの」
「なるほど。それとあんたとどう関係するの?」
「セイルに頼まれたの」
「なにを?」
「契約書盗みに行くから、魔法で手伝って欲しいって」
「惚れた弱みに付け込んで、女に犯罪手伝わそうなんて最低の男ね」
「セイルはいい人だから断れないのよ」
ミーネの反論には今一つ切れがない。
「…………それで、あんたどうしたいの?」
「セイルからの初めての願いは聞いてあげたいの。ついでに有能な私をアピールしてこの家での地位を盤石なものにしたい。カタリナはどうでもいいわ」
「女のエゴと本音がストレートに聞けてすがすがしいわ。奴隷奉公の花娘の苦境を一切斟酌していないのが素晴らしい。満点ね」
「しょせん元猫の行動動機なんてそんなもんよ。」
ミーネの目が猫のように細められるのをファンファは黙って見つめる。
「一度先生に相談したほうが良いと思うわ」
「先生なんて言うかな?」
「面白がるんじゃない。あの人も世間の常識とは遠く離れた場所に立ってるから。役に立つ魔法教えてくれるかもよ」
「そうね。明日休みだから、先生の所に顔出してみるわ」
ミーネは思案顔で答えた。
翌日は何事もなく過ぎ、夜更けを迎えた。
黒づくめで覆面を被ったセイルとファンファは、花屋の元締めの事務所のバルコニーに魔法の箒から降り立ち、部屋の中を伺っている。カタリナの情報では、この部屋の金庫に花売りの契約書が納められているらしい。
「開いた」
セイルは薄い金属板で掃き出し窓の蝶番を外し、そっと人気のない部屋にはいる。
「ご主人様手慣れてますね。さすがです」
「さすがじゃないんだよ。それより金庫はやれるよね」
「今日先生に特訓して貰ったので大丈夫です。大船に乗った気でいてください」
「魔女様なんか言ってた?」
「一度ご主人様に会わせるように言われました」
「…………」
「ご主人様、汗が」
「明日上等な菓子を用意するから、魔女様に持って行ってくれ」
「大丈夫ですよ。私が身の安全を保障します」
「大丈夫じゃないんだよ」




