第四十三話 春のご馳走(1)
第四十三話 春のご馳走(1)
スモモと桜、スイレンも咲き誇り、春の訪れは町を美しく彩る。町の彩りは春の日差しと相まって、町行く人々を暖かく包んだ。
そんなある日の昼下がり、ミーネはセイルと共に町のレストランで遅い昼食をとっていた。
「この魚おいしいですね」
「鱈だね。香草が効いてるだろ。このレストランの自慢の料理だよ」
「なるほど」
「ミーネは何でも美味しそうに食べるね」
「まぁ大概の物は美味しく食べますね」
「じゃあ嫌い食べ物は?」
「言いたくありません」
「…………なんか深刻な質問だったのかな。言わなくていいよ」
「前世でご主人様に拾われる前は割とハードな生活してたので、思い出したくない事もあるんです。食事中にデリカシーのない発言やめて下さい」
と言うと、ミーネは暗い顔で俯く。
セイルにはどこら辺がデリカシーに欠けるのかよく分からないが、相手は女の子。まあそういうものだろうと納得する事にする。
「気を付けるね。でもこの時期キノコのパイもおいしいんだよ」
「今日は頼まなかったんですか?」
「売り切れだと言われてね」
そこへこの店のオーナーが現れる。この店のオーナーは女性で、年は二十六、七だろうか。黒髪を後ろで縛っていて、きりっとした美しい女性だ。
「お食事如何ですか?」
「パオラさんの店の料理はいつも最高ですよ。でもさっきウェイターが言ってましたが、キノコのパイはないのですね」
「申し訳ございません」
オーナーのパオラは暗い顔をする。
「どうしました?」
またご主人様の悪い癖が始まったと、ミーネは警戒する。
「実はキノコの入荷が悪くて、あまりお出しできないんです」
「産地はリューズですよね。入ってこないのですか?」
「はい」
「あそこは時々嫌がらせみたいに輸出止めますよね」
「卸しに聞くと、今回は向こうでも不作みたいで、輸出に回せるものが少ないそうなんです」
「それは困りましたね」
「この春の売り上げを期待して店を改装してるので、銀行への支払いが心配で」
「なるほど。近くで採れないんですか?」
「北西の森で採れるそうなんですが、あそこ狼いるでしょ。採りに行ってくれる人いないんです」
「まぁ、そうでしょうね」
「実は今度あそこに行ってみようかと思うんです」
「パオラさん自ら狼の森に?」
「はい。それであの、お客様にこんな事言うのは何ですが、お連れの方が魔女様にご縁があるとお聞きしまして」
「私?」突然話を振られてミーネは驚く。
「狼除けをお分けして頂くことは出来ないでしょうか?」
「狼除け?お守りの事ね」
「はい。市場の薬屋のお婆さんに聞いたら。セイルさんの所の魔女様なら融通出来るかもしれないとお聞きしまして」
「ミーネ作れるの?」
「私は作り方知らないけど、先生に聞いてみましょうか」
「ぜひお願いいたします。本日のお祓いは結構ですので。もちろん狼除けお譲りいただけるなら、代金は別にお支払いさせていただきます」
「いや、今日の代金は払うよ」
「いえいえ結構です。いくらでもお召し上がりください」
結局二人は食事の代金は受け取って貰えずに、思わぬ仕事を請け負ってしまった。
ミーネはその夜ガラス玉で先生に事の次第を話す。
「出来ないことは無いんだけど、狼危ないわよ」
「そうなんですか?」
「あいつら気分屋だから、いざとなったら狼除けも気にしないで襲ってくる可能性もあるし。効果も完璧じゃないのよね」
「以前ポルト公国の泥棒はうまい事やってましたが?」
「狼も面倒な相手と思ったんじゃないかしらね。それにあの国は狼対策真剣に研究してるみたいなのよ」
「はぁ、じゃあ止めときましょうか」
「でも、この季節にキノコのパイが食べられないのは問題ね」
「来年二倍食べたらいいじゃないですか」
「季節物ってそういうもんじゃないのよ。ミーネ」
「はぁ」
「キノコのパイで手を打つわ。うまくいったらパイ持ってくるのよ」
「先生店に食べに行かないんですか?」
「私町に入れないのよ。知らなかった?」
「初耳です」
「領主が結界張っててね。私締め出されてるのよ」
「先生なんかやったんですか?」
「…………ミーネちゃん、何が言いたいの?」
「領主最悪ですね。許せません。今度会ったら石投げときます」
「…………」
「…………」
「まぁいいわ。狼除け出来たら届けさせるから。キノコのパイ、うまい事交渉しとくのよ」
「先生、狼除けが完璧じゃないと言う話はどうなったのでしょうか?」
「何とかなる。がんばれ」
「………………がんばれば何とかなるもんなんですか?」
「なに?」
「何でも御座いません」
そんな感じで、数日後にファンファが狼除けをミーネの元に届けに来た。
「また狼の森なの?」
「そうなの」
「狼の森でキノコ狩り?理由は?先生教えてくれなかったけど」
「リューズのキノコ不作で輸出が抑えられてるらしいの。依頼主のレストランは春の売り上げがキノコ次第なのでキノコ無いと困る。先生はキノコパイ食べたい」
「切迫感無いわね。最近依頼のレベル下がって無い?あんた達なんでも屋なの?」
「先生に言って」
「先生に言える訳ないでしょ。ど~せあんたの所のうすらトンカチの指図でしょうけどね」
「お姉さま〜」
ミーネはファンファの後ろから抱き付く。
「手伝ってくれるんでしょ?」
「先生になんて言われたかわかる?」
「『普段の素行悪いんだから挽回してこい!』」
ミーネが先生の物まねで話すと、ファンファは頭を抱える。
「たすけて…………」
「ファンファ何したのよ?」
「リーフちゃんと時々お茶してたの」
「はい?」
「妖精女王が『リーフちゃんが仕事しないから、少し控えて欲しい』って先生にちくったのよ」
ミーネは笑い出す。
「リーフちゃん可愛いものね、見た目は。でも妖精だから年齢はかなりいってるんじゃないの?」
「いいのよ。姿形さえ良ければ。実際百超えのおじいちゃんでも、あの容姿なら愛でる自信あるわ!」
「言い切ったわね」
「お膝かわいいのよ。なだなでしたい~」
先生にお灸を据えられても懲りることのないファンファでした。




