第四十二話 幕間:ミーネと令嬢
第四十二話 幕間:ミーネと令嬢
ミーネが市場を冷やかしながらぶらぶらと歩いていると、豪華な馬車がすぐ横に停まった。馬車の扉が開くと、領主の孫娘レティシアが座って手招きをしている。
「いらっしゃい」
「あの、何でしょうか?」
「折り入って話があるのよ、まぁ乗りなさいな」
「はぁ」
強引なご令嬢の誘いに何事かと緊張しながら、ミーネは馬車に乗り込んだ。
「あの、何でしょうか」
「帰ってから話すわ。屋敷すぐだからちょっと待ってね」
「はぁ」
そんな事を言っている間に狭い町のこと、馬車はレティシアの屋敷に着く。城の脇にある大きな敷地、門構えにミーネは緊張する。
「着替えてくるからちょっと待っててね」
「はい」
ミーネが客間でしばらくの間待っていると、メイドが迎えにくる。
「お嬢様の準備ができましたので、こちらにお越しください」
ミーネが案内された部屋に入ると、レティシアは既にテーブルについていた。僅かに花の香りがするが、それ以外に不快ではないのだが、得体の知れない匂いがする。ミーネは立ち止まって鼻で嗅いでみるのだか、どうにも覚えがある様で、無い様な。
「何かしら、こちらにお座りなさいな」
ミーネはレティシアに誘われて席に着く。
「あの………………」
「紅茶で良かったかしら?」
「はい、いただきます」
ミーネはレティシアに注がれた紅茶を口にする。雪の様に白いカップは、ガラスのみたいに薄い。
「西方で作られたカップよ。見事よね」
「はい、絵柄も鮮やかで美しいです」
「そう言えば港近くに住んでいる陶芸家さんも、最近良い物を出す様になったみたいね。青の発色が素晴らしいとか。今話題になっているのよ」
「ルチアさんとアリスさんの事でしょうか」
「そうよ。あなたとセイルさんもお手伝いしたとか」
「よくご存知ですね」
「狭い町だから噂話は早いのよ。他にどんな活躍をされたのかお聞きしたいわ」
ミーネは少し悩むが、どうもご令嬢は色々と調べ上げた上で、質問を投げているような気がする。ヤバい所は外して、卒のない話をする事にした。
「楽しいわ、本当にあなたが羨ましいわ。毎日が新鮮な冒険なんでしょうね」
(良い事ばかりじゃないんですよ)とは思うミーネだったが、素直に頷いておいた。
「ミーネちゃんそちらに行っていい?」
「え?」
返事する間もなく、レティシアはミーネの隣に座る。
「綺麗な髪。触っても良いかしら」
「は、はい?」
(???)
レティシアに髪を撫でられながら、ミーネは状況がよく分からない。レティシアと言えば、くすくす笑いながらミーネの髪を弄んでいる。
(しかし、上手い)
ミーネの髪に触れるか触れないかのレティシアの冷たい指先は、時折ミーネの耳たぶに触れる。ミーネは首筋がぞくぞくするのを必死で耐える。
「そうだ、お友達紹介するわね」
と言うと突然レティシアは部屋から出で行ってしまった。
そしてしばらくすると、三匹の猫を腕に抱えて、部屋に帰ってきた。
「ふっー!!」
ミーネの毛が逆立つ。ソファーの上に登るが、猫達は構わずミーネにまとわり付く。
「あら、猫苦手?想定外ね」
「いぇ、そんな事ないのですが」
(初見の猫にはどうしても警戒してしまいます)
とは言えない。猫達はミーネを人間と思ってるので、人懐こいのか構わずしがみついてくる。
(ひ〜)
「あらあら、こんなに懐いて」
レティシアは猫達を引き剥がすと、ミーネを座らせた。しかし猫達は物珍しいのかミーネの膝の上、肩の上とまとわり付いた。
「かわいいでしょ、この子達」
次にレティシアは紐が付いた棒を取り出す。長い紐の先に布製のネズミのおもちゃが付いた、猫の遊び道具だ。
レティシアが操るネズミの動きに、猫達は走り回る。ミーネはと言えばネズミから目が離せない。
「ミーネちゃんも、ほら、ほら」
レティシアがミーネの前でネズミを揺らすと、思わず手が出るミーネ。
「にゃ!にゃ!」
いつの間にやらミーネは猫達と一緒になって夢中でネズミを追っていた。熟練したレティシアのネズミ捌きに、ミーネの野生が目覚める。
「あははは、楽しいわ。こっちよ猫ちゃん達、ミーネちゃんも頑張って。うふふふ…………」
レティシアの高笑いが部屋に響く中、ミーネと猫達は必死におもちゃのネズミを追い続けるのでした。
そして時は流れる………………。
ミーネがふと気が付くと、床に座り込んだレティシアの膝の上でクタクタになって丸くなっていた。他の猫はミーネの体の上で寛いでいる。
「あら、起きた?」
レティシアの指がミーネの髪を梳き、喉の下をくすぐる。
「気持ちいい?」
「にゃ〜ん」
「ミーネちゃん猫っぽいと思ってたけど、予想以上ね」
そう言ってレティシアはくすくすと笑う。
「うちの子にならない?」
「それはダメですにゃ」
「セイルさんがいるから?」
「……………」
「ふふっ。あなた想像以上に良い子で安心したわ。おかしな虫ついてたらどうしようかと思ってたのよ」
「セイルにですか?」
「そうね」
ミーネはレティシアの膝の上から見上げるが、彼女はいつもの笑みを浮かべるだけだった。
「色々とあるのよ。あの子のことよろしくね」
「はぁ」
どこか釈然としない気持ちでミーネは答えたのだが、それ以上レティシアが説明することはなかった。
帰り際にレティシアは、
「また遊びに来てね、絶対ね」
と繰り返し言ってきた。
(散々弄びやがって、ニ度と来るか)
とミーネは内心思うのだが、呼ばれたらまた来てしまいそうな自分が怖い。
今日は持って生まれた本能にはなかなか逆らえないんだと、思い知らされたミーネの一日でした。




