第四十一話 妖精の木(3)
第四十一話 妖精の木(3)
セイル、ミーネ、ファンファ、妖精リーフ、そして木材商のマルコは城から解放されると、そのまま伐採現場に向かった。
伐採現場に着くと、作業は終わっていて、木のほとんどは二台の荷馬車に詰め込まれていた。マルコは木こりたちに事の次第を告げる。
「作業は中止だ。この木は妖精に返すぞ」
最初はぶつぶつ言っていた木こり達も、マルコの説明に納得した。彼らも妖精を敵に回したくはない。
「木はこのまま、妖精女王の所に運ぼう。マルコ運ぶの手伝ってくれるよね」
セイルがマルコに聞くが、彼は困り顔で俯く。
「それがな、馬車は貸すからお前らで行ってもらえないか?」
「なんで?」
「おれら知らなかったとはいえ、妖精樹を切っちまったろ?ぶっちゃけ、妖精国なんぞに行きたくないんだ。わしら歩いて帰るから…………その…………頼むよ。セイル」
周りの木こりたちもうんうんと頷いている。まぁ木を切る職業の彼らにしたら、森の妖精は恐ろしいものなのだろう。
「いいけどね」
「僕もマルコさん達連れて行って、余計な騒ぎは起こしたくありません。一台は僕が乗るので、もう一台はセイルさんにお願いできますか?」とリーフ。
「まぁなんとかなるかな。わかったよ、それで行こう」
「じゃぁ私はリーフちゃんと乗るから、ミーネそっちに乗ってね」
ミーネも特に異論はない。
こうして一同は二台の馬車に分乗して迷いの森に向かった。
先頭はリーフとファンファの乗る馬車。いつもの分岐を超えてガタゴトと森を進む。二台目の馬車では御台でセイルが手綱を操り、ミーネは荷台で木の幹に頬を寄せていた。最初の幻覚は現れないものの、心なしか暖かな温もりが感じられる。しかしその奥には木の恐怖の様な黒いものが揺らめいているように感じられた。
(大丈夫よ、大丈夫。女王様の所に帰りましょう)
心の中でミーネはずっと樹の幹に語り掛けていた。
暗い森を抜けて、荒れ果てた荒野を抜けると、豊かで美しい森が続いていた。木々の合間には小川が流れ、鹿のような動物たちがこちらを不思議そうに見ている。そして開けた場所に出ると、目の前には大きく枝を茂らせた巨木と、その下に白い石造りの宮殿が現れた。
宮殿の前には、リーフによく似た耳の長い人々や、馬の半神を持つ者。またヤギの様の頭を持つ者など、様々な造形の妖精たちがたむろしている。
馬車が宮殿の前に止まると、大きな扉から雪のように白い肌、白い髪の美しい女性が現れた。その耳はリーフの様にピンと尖っている。
「我が女王です」
リーフはそう言って跪く。
セイル、ミーネ、ファンファも馬車から降りて膝を付いた。
「皆様立ち上がって下さい。よく我が同胞を連れ帰ってくれました」
「お目に書かれて光栄です。木の伐採を防げれば良かったのですが」とセイルが挨拶を返す。
「仕方ありません。この子は私たちの手で復活させましょう。人間の手で事が収まったのは、二種族にとって大きな慰みです」
「あなた方は木の処置を」
女王が命じると、周りの妖精たちは荷台の木を下ろし始めた。
「過去人間と妖精の間には起きた悲しい軋轢はなかなか消えるものではありません。しかし若いあなた方とは新しい関係を作っていきたいものです」
「ありがとうございます」
「その為には常日頃の協力関係も重要です。リーフは皆さんに、非常に良くしていただいているとか。ありがたい事です」
見るとリーフの顔が赤くなっている。
「大したものは御座いませんが、これをお持ちください。我々からの気持ちです」
そう言って女王は、セイル、ミーネ、ファンファの三人に小さな緑の石がはまった銀色の指輪を手渡した。
「わずかですがこの指輪には守りの力があります。皆さんの役に立つこともあるでしょう」
「ありがとうございます。ありがたく頂戴します」
その時、荷台の枝が飛び跳ねて女王の足元に転がった。
「…………どうやらこの子もお礼がしたいようですね」
女王が木の枝を拾うと、見る間に形を変えて、一本の杖となった。
「ロザリー。この妖精は、力の一部をあなたにお貸ししたいようです。ミーネさん受け取って頂けますか?」
ミーネは驚くが、断る理由もないので受け取ることにした。
「有難うございます。大切にします」
「きっとあなたのお役にたつでしょう」
ミーネは受け取った杖を大事に腰の袋に仕舞う。
「ではリーフ。ここに人間が長居するものではないので、皆さんをお送りして下さい」
「皆さん、目を閉じてください」
リーフは一同に告げる。
三人は目を閉じた。そして数分して恐る恐る目を開けると、そこは森の入り口だった。馬車は傍に停まっており、馬達はのんびりと周囲の草を食べている。太陽は東から上がっており、どうも夜明けの時間の様だ。
「朝みたいね、そんなに森にいたのかしら?」
ミーネの体感では夕暮れ時のはずだ。
「妖精国は時間の進み方が違うとは聞いたことがある。そんな事なんだろうな」
「お土産まで貰っちゃったわね」
「ありがたく受け取っておこう。さて帰るか。マルコさんに馬も返さないといけないからな」
こうして三人は町への帰路についた。
荷馬車をマルコに返し、ミーネは一人でベットに座っていた。手には新しく貰った妖精の杖と指輪がある。その杖は少し青みがかっていて、不思議と手に馴染む。
先生に話すと、
「妖精の贈り物には気を付けなさい。あなたに幸運を運んでくるとは限らないわ」
と気になる事を言っていた。
疲れているミーネは判断を保留して、その日はゆっくりと休むことにした。




