第四十話 妖精の木(2)
第四十話 妖精の木(2)
妖精リーフに妖精樹の奪還を頼まれたセイルら一行は、木材商のマルコを連れて町に戻る。そしてマルコの持つ伐採許可証を確認する為、城の森林監督所を訪れた。
役人は許可証を一瞥する。
「あんなところに妖精樹あるなんて聞いたことありませんよ。でも伐採禁止地区なんで、この許可証はおかしいですね」
「おかしいだろ」
「伯爵からの特別な行政指示は時たまあるのですが、ちょっと記録調べてみましょうか。少々お待ちください」
そう言って一時間ほど待たされた。
「まだかしら?」
「時間かかりすぎだよね」
「役所仕事なんてこんなもんだ。気長にいこう」
マルコは慣れているのか呑気なものだった。
「お待たせしました。ご案内しますのでこちらにお越しください」
さっきとは異なる役人が一同を案内した。
「こちらです。お入りください」
セイルたちが部屋に入ると、レティシアと貴族らしい風貌の男がテーブルについていた。
「ご機嫌よう皆さま」
レティシアがにこにこと笑いながら挨拶する。
「こちらがジェスパ伯爵よ」
色の白い細面の貴族が不機嫌そうに彼らの顔を順に見回した。
「座り給え」
一同椅子に座る。
「さて、この許可証をどこで手に入れた?」
「え~、わしは木材商のマルコと言います。これは一か月ほど前にロイ共和国のドアルテという商人から渡されました」
「ここに記された森は伐採禁止とされているのは知ってるな?」
「はぁ」
「この地区での無許可伐採は縛り首だ」
「ひっ」
マルコは青い顔で言葉も出ない。
「しかし伯爵の印が付いてる許可書があるでしょ?」
震え上がるマルコに代わってセイルが問いかける。
「偽物だ。森林監督所でこの書類を発行した記録がない」
思わぬ結末に一同言葉も出ない。
「ジェスパ、あまり怖がらせないで」とレティシアが取りなす。
「ふん。私は最近とある理由で印章を変更している。この書類は古い印を使われているな。書類を受け取った時点で直ぐに役所に確認取ればよかったんだ。お前の失態だ」
セイルは段々木材商が気の毒になってきた。
「で、どうすれば良いのですか?」
「伐採を直ぐに中止しろ。町は妖精と争うつもりはない」
そう言って伯爵はリーフの顔を見る。
「木は切ってしまいました」
「それなら木は妖精に引き渡せ。妖精のものだ」
その言葉を聞いて、リーフは安堵の溜息をもらす。
「それから衛兵に、そのドアルテと言う男の情報を全て話せ。可能なら奴を捕まえる手伝いをしろ」
「わしは縛り首ですか?」
「妖精はどう考える?」
「妖精樹を切られたのは残念ですが、切ってしまったものは仕方ありません。切った木をお引き渡し頂けるなら、女王もこれ以上事を荒立てるつもりはないでしょう」
リーフは沈鬱な表情で話す。
「彼、マルコさんについては詐欺の被害者と考えます。処罰は望みません」
「分かった。町としても非常に遺憾な思いだ。この欺瞞を企てた者は我々の法で厳罰に処する。そう女王にお伝え願いたい」
「わかりました」
マルコは目に安堵の涙を浮かべながらリーフを見ている。
伯爵は一同の顔を見回して続けた。
「それからこの件は他言無用だ。書類に手違いがあったので伐採許可を取り消す。それだけ覚えておけ」
「縛り首なしで良いのですね?」
伯爵は溜息をついた。
「妖精の恩情に感謝しろ。余計な詮索をしないなら縛り首の話は忘れていい。そのかわりドアルテ逮捕に協力しろ」
「へい」
「衛兵。彼を連れて行って情報を聞き出してくれ。そしてドアルテとやらを捕まえろ」
部屋の隅に立っていた衛兵はマルコを連れて部屋から出て行った。
「これでよろしいので?レティシア様」と伯爵。
「ありがとう。穏便に処理して頂いて助かります」
「では私はこれで…………君がセイル君だね?」
「はい」
セイルは伯爵が彼の名前を知っていることに驚いた。
伯爵はセイルの顔をじっと見つめる。
「あまり問題を起こさないように」
そう言って部屋を後にした。
「ごめんなさいね、皆さん。彼は悪い人ではないのよ。忙しすぎるの」
「マルコは大丈夫ですよね?」
「大丈夫よ。ジェスパも大事にする気はないの。どうせドアルテも捕まらないでしょう」
「そうなんですか?」
「ドアルテなんてどうせ偽名よ。どこの国の人間かわかったものではないわ」
「偽の許可証なんて作って、目的は何だったんでしょうか?」
「妖精樹は色々な使い道があるわ。強力な武器にもなる。妖精さんには木を切ってしまって、申し訳ないことをしてしまったわ。二度とないように、この教訓を生かさなければいけないわね」
「この町の方々の気持ちは理解しました。今後も妖精樹の保護にご協力ください」
衛兵から解放されたマルコと一同は、再び切り倒された妖精樹の元に向かう。
「マルコさん聞きとり大丈夫でした?」
「おう、一旦はな。でも明日も城に来るように言われたわ」
「大変ですね」
「ああ、しかしお前たちには感謝してるよ。とんだ悪事に加担してしまったが、ドアルテの野郎。いけ好かない奴だと思ってたんだ。妖精さんにも申し訳ない。知らなかっとはいえ、取り返しのつかないことをしてしまった」
マルコはリーフに頭を下げる。
「妖精樹は残念ですが、あの木に住む妖精は古く力も持っています。女王様の力で迷いの森の別の木に移って貰うことになるでしょうね」
「死んだわけじゃないのか?」
「古くなって枯れた妖精樹を切って、そこに住む妖精に宿る木を変えさせるのは稀にある事です。切り倒されていても、妖精樹を回収できたのは本当に良かったです。次からは気を付けて下さいね」」
「わかった。ここいらの木は絶対切らない。誓うよ」
それを聞いたマルコはほっとしたようだ。




