第三十一話 陶芸家の遭難(3)
第三十一話 陶芸家の遭難(3)
陶芸家のルチアを探す一行は、カルカピッケン山の鉱石が採れると言う洞窟を目指して進んでいた。
小一時間ほど歩いて、人の背丈ほどの高さの洞窟に到着すると、入り口には人と動物の足跡がいくつも残っていた。
「ルチアさんいますか!」
セイルが洞窟に向かって声をかけると、女性が手に棒を持ちながら出てきた。
「私がルチアです」
毛糸の帽子から覗く髪は茶色で、妹のアリスにどこかしら面影が似た女性だった。彼女は一行に女性の姿を見て、少し安心したようだ。
「妹さん、アリスさんに頼まれて探しに来ました」
「有難うございます。迷惑かけて申し訳ありません」
「ルチアさん怪我は無いのですか?」
「私は大丈夫です。ですが冬眠前の熊が周りをうろついてて、逃げることが出来ませんでした。」
「今熊はいないようです。この隙に行きましょう」
「実は奥に怪我をした雪豹がいて、ほっといて帰るわけにはいかないんです」
一行が洞窟の奥に入ると、前足に包帯を巻いた雪豹が火の傍に横たわっていた。その毛皮は白く輝き、一行に牙を剥いて唸りをあげる。しかしルチアが手を差し伸べると、大人しく彼女の手を舐めた。
「さて困ったな。雪豹は歩けないようだ。治るには一、二週間かかりそうだぞ」
メンダスが腕を組んで雪豹を見下ろす。
「ルチアさんだけ連れて帰るというのはだめかな?」とセイル。
「だめでしょ。ルチアさん納得できる?」
「火を焚いていれば熊は中に入ってきません。申し訳ないのですが、食料と水を分けて頂けたら、この子が治るまで私だけ残ろうと思います」
ルチアは優しく雪豹の頭を撫でる。
「熊ぶっとばしましょうよ。雪豹はダメだけど、熊は止められてないわ。そしたらルチアさんいなくても雪豹は安全でしょ」
ミーネはあくまで武闘派だ。
「あいかわらずだな、君は」
「それかルチアさんの代わりにメンダスが残るとか」
メンダスが雪豹を見つめると、雪豹は低く唸り声をあげた。
「無理だな。彼の意見を尊重しよう」
「熊もこの洞窟で冬眠したいから粘着してると思うのよ。なんか気が引けるわね」
「仕方ないな。リーフに任せよう」
セイルが良案を思いつく。
「良い考えに思えるな。雪豹は妖精女王のお気に入りだ。何とかするだろう」とメンダスも同意した。
「ご主人様。ナイスなアイデアです」
ミーネは少しリーフが可哀想な気もするが、背に腹はなんとやらと思い直す。
「じゃぁひとっ走り、リーフ呼んでくるわ」
ファンファは箒を持つと洞窟から飛び立っていった。
そして残りの一行が暖かい飲み物で暖をとっていると、悟ったような顔のリーフが現れた。
「皆さん。雪豹を見つけて下さり有難うございます」
感謝の言葉とは思えない棒読みのセリフだった。
「あとはよろしく頼むよ」とセイル。
「はい。女王様には私の管理不十分を、きつくきつく叱られておりますので、あとはこの私が責任もって対処いたします」
「どうするの?」
「妖精の領域、女王様のところに連れて帰ります。ではこれにて」
リーフが雪豹に手を触れると、リーフと雪豹の姿がすーと薄くなり、消え去ってしまった。雪豹は消える寸前、ルチアを見ると感謝するように彼女の手をペロリと舐めた。
「ふむ、これにて一件落着かな」
「問題はなくなったし、さっさと出発しよう。うまくいけば今日中に町に辿り着くことができるだろう。問題はまだ帰ってこないファンファ君だな」
メンダスは洞窟の入り口から空を見上げる。
「私が連絡するわ。帰る途中で合流できるでしょう」
「ミーネ君、もし外に熊がいたらよろしく頼むよ」
「大丈夫よ、任せて。ルチアさんは体大丈夫?」
「はい、問題ありません」
こうして目的を果たした一行は、幸いなことに熊に会うこともなく帰路についた。
数日後の夕刻、セイル、ミーネ、ファンファはメンダスの招きで夕食を共にしていた。先日セイルとミーネの昼食を潰した詫びのつもりなのだろう。場所はベイエリアの海鮮レストランだった。
「まずは乾杯だな。カルカピッケン遭難救助成功を祝おう」
メンダスの音頭で、各々がグラスを掲げる。
「ルチアさん無事で良かったわ。お二人元気かしら?」
そう言いながらファンファは白ワインを口に含む。
「結局ルチア君は結構な量の鉱石を持ち帰ったみたいでね、あれから二人は工房にこもりきりさ。習作を見せて貰ったが、見事な青の染付ものが出来ていたよ。完成が楽しみだ」
「それを画廊で高く売るのですね」とセイル。
「彼女たちの名も上がる。パトロンとしては喜ばしい限りだ」
メンダスはニヤリと微笑んだ。
きっとかなりの儲けが生まれるのだろうが、ミーネにはさして興味がないことだった。それよりも出発前に、ご主人様との食事の席で生まれたロマンティックな空気を返して貰いたい。ミーネはメンダスを恨めし気に睨んだ。
「ミーネ君、何かね?」
「何でもありませんよ。今日は一番高いものを頼むから覚悟しておいてください」
「任せたまえ。若者に食事を振舞うのは年長者の愉悦だよ。好きな物を頼むといい」
ミーネの内心を知らないメンダスは、そう言って楽し気に笑った。




