第二十七話 砂漠からの客人(2)
第二十七話 砂漠からの客人(2)
レイラと出会ってから数日、ミーネとセイル、ジョアンは交代で彼女に付き合って、町のあちこちを回ってみた。だがそれらしき男を見つけることは出来ない。夜中ミーネとレイラが生活する屋根裏部屋にファンファが現れる。
「この子がレイラね」
レイラは屋根の出窓から部屋に入ってきたファンファに驚くが、ミーネから予め話を聞いていたので、すぐに立ち直った。
「初めまして、魔女様。妹弟子様にはお世話になっております」
「あら、いいのよ。気にしないで。それよりまだ見つからないの?」
「はい」
「あまり焦らないでじっくり探すしかないかもね」
「ご迷惑お掛けします」
レイラは申し訳なさそうだ。
「いいのよ~、慣れてるから。それより、良い男見つけてそちらに乗り換えるのはダメなの?」
「死別でないかぎり、私は次の婚姻はできません」
「あなたが次の相手と結婚できなければどうなるの?」
「砂漠の家に居場所はありませんね。家族や兄は優しいのですが、子供を持てないなら一族のお荷物となります。このままどこか他所で暮らす方がよいのかもしれません。砂漠の暮らしは楽ではありません。一族や兄たちに迷惑かけたくないのです」
レイラはそう言って寂しそうに微笑んだ。
「大丈夫よ。絶対そいつ見つけましょう」
「うん。もしその男見つけて連れて帰ったら、その人どうなるの?」
「私の一族に助けられたのに、家名に泥を塗ったわけですから、一応言い訳は聞きますが、まず縛り首ですね」
「なかなかハードなのね」
「砂漠の生活は厳しいのです」
ミーネとファンファは目を見合わせる。
「ファンファ、なんか役に立つ魔法知らない?」
「レイラの頭の中のそいつの顔を、水に映し出す魔法なら知ってるわよ。桶に水汲んで持ってきてよ」
「さすが姉さん。ちょっと待ってて」
レイラとミーネは手桶に水を汲んで部屋に上がった。
「じゃあ、レイラは桶の前に座って。そいつの顔を思い浮かべて」
レイラが水桶の前に座り、手を組んで一心に集中する。ファンファは人差し指で、水面をくるくるとかき混ぜた。すると水面に、一人の男の顔が浮かび上がる。眼鏡をかけていないが、ミーネの知っている人間によく似ている。
「城の衛兵によく似ている男がいるわ」
「本当ですか?」
「ええ、ヴァイターという男よ。なんというか、腹の底が見えない人間ね」
「明日会えますか?」
「一度話したことがある程度なのよ。でもなんとかしてあなたと会う機会を作るわ」
翌日ミーネは一人で城の衛兵の詰め所に向かった。ヴァイターの名前を出すと、すんなりと城内に招かれ、飾り気のない部屋で彼と面会する運びとなった。
冷えた紅茶を前にして小一時間も待っていると当人が現れた。
「よく来てくれたね。また会えて嬉しいよ」
「はぁ」
「先日はありがとう。無事に舞踏会も終わって、御令嬢は心から君たちに感謝しているよ」
「それは良かったです」
「で、今日はどんな用向きで?セイル君はいないんだね」
「はい」
ミーネはここに来るまでに、どんな風にこの男をレイラの前に連れていくか考えていたのだが、結局結論が出なかった。適当な嘘を並べてこの男をレイラの元まで連れていくことは出来るだろう。しかしレイラはかなり物騒なことを言っていたので、血を見る羽目になると、騙したミーネの寝覚めが悪い。
逆に本当の事を言って、この男がのこのことレイラに会いに行くとも思えない。理由はわからないが、婚姻まで結んだ女から逃げたのだ。この男にもそれなりの言い分があるのかもしれない。
3番目は、魔法かなんかでこの男を攫って無理やりレイラの元に連れていく方法だ。しかしヴァイターには直接に危害を加えられた覚えもないし、この方法もなんとも寝覚めの悪いことになりそうだ。
元はと言えばこいつの女癖の悪さが原因であって、ミーネは段々と腹が立ってきた。よく考えたら、ミーネの周りの男性はジョアン以外品行方正とは言い難い。こいつも何が楽しくて東の果ての砂漠くんだりまで出掛けて行って、女を誑し込んできたのか。ミーネは自然と険しい目になって、ヴァイターを睨みつけていた。
「ミーネ君、黙って睨まれると怖いんだが。何か言ってくれないかな?」
「砂漠で悪いことしましたね」
面倒になったミーネは正直に話すことにした。あとは、この男自身が自分で蒔いた種の後始末の方法を考えればいいのだ。
「何のことかな?」
「砂漠のレイラと言う女性があなたに会いたいそうです」
ヴァイターは深く息をつく。
「そうか。ここまで来たのか」
これでレイラに不義理を働いた男がヴァイターであると確定した。
「なにか言いたいことありますか?」
「特にないね」
「何で砂漠になんか行ったのですか?」
「仕事だよ。さすがに細かくは聞かないでくれ」
ミーネはこの男が衛兵であることを思い出して、これ以上踏み込むのを躊躇する。
「彼女は傷ついています。言い訳聞かしてください」
「ないよ。彼女とは直接話そう」
「では、本日夕刻、北門を出た先にある丘の上で待っています」
「わかった。必ず行くとレイラに伝えて欲しい」




