第二十五話 幕間:リーフとファンファ
第二十五話 幕間:リーフとファンファ
その日町のカフェで、森の妖精リーフとファンファがのどかにお茶とデザートを楽しんでいた。
「おいしい?」
「はい、栗の甘味と渋みを見事にクリームに仕立てていますね。それに塩漬けのイチジクがアクセントとなって、いくら食べても飽きがきません」
「よかったら私のも食べてね」
「本当ですか?」
「私はいつでも食べられるからいいのよ」
そう言って、目の前のタルトをリーフに差し出す。
「有難うございます。遠慮なく頂きますね」
ファンファはがつがつと栗のタルトを平らげるリーフをにこにこと微笑みながら見つめている。
「女王様にも食べさせてあげたいです」
「帰りに包んで貰いましょう。お土産にすればいいわ」
「ファンファさんって凄くいい人ですよね。以前は誤解していましたよ」
「でしょ?私は気遣いができる女だからね」
「はい。それに比べてミーネさんの方は怖いですよね」
「そうなの?」
「なんか心の中心部分に野獣を飼っているというか、何をしでかすか分からない怖い所があるんですよ」
「あらあら。そうなのかしら?」
「先日迷いの森の蛇の相手をした話知ってますか?」
「ミーネに聞いたわ。リーフ君に随分と助けられたみたいね」
「それはいいのですが、彼女、泉の守護者相手に炎の精霊魔術をぶっ放そうとしたんですよ」
「荒っぽいわね。あの子らしいと言えばらしいけど」
ファンファはくすくすと上品に笑う。
「性格悪い蛇なのですが泉の守護を長く任されている、ほぼ神獣です。間違ってあれが吹っ飛んだら地脈の流れがどう乱れたことか」
「どうなるの?」
「地脈の流れが乱れると、このへん天災やら地震やらでえらいことになりますよ。この町も無事にはすまなかったでしょうね」
「そうなのね」
「そうなんですよ。だから少々気難しい奴なんですが、あの蛇には女王様も、魔女様も手を出さないんです。いずれ森の神の一柱に数えられるようになる予定なんですよ」
「なるほどね。魔女様が手を出さなかった理由分かったわ。ミーネもいい子なんだけど、ちょっと粗忽なところあるからね」
「ミーネさんは剥き身の刃物と言うか、鉈を常に懐に隠しているような怖さがあるんですよ。時々彼女の後ろに牙を剥いた虎のような野獣の姿が見え隠れするんですが、気のせいなんでしょうか?」
「おほほほ、鋭いのね、リーフ君。お茶のお代わりいかが?」
「お願いします」
ファンファはリーフのティーカップにポットのお茶を注いであげる。
「同じ魔女様の弟子でもファンファさんは優しいですよね」
「そうかしら?私は純粋にあなたとお友達になりたいだけだからね。こうやって一緒にお茶できて楽しいわ」
「僕もです」
「そう言えば、ミーネは泉の花刈り取って更地にしたと言ってたけど、蛇さん怒ってなかった」
リーフは暗い顔をして目を伏せる。
「…………大変でした」
「そうなの?」
「蛇の野郎、女王様に苦情言うもんだから、僕が女王様に叱られたんですよ。あの後、荒らされた泉の整地に三日間掛かりました。思い出したくもありません」
「酷いわね。ミーネ達手伝ってくれなかったの?」
「ミーネさんの捨て台詞は『ご主人様に手を出しやがって、三枚におろしたるわ』ですよ。二度と会わせられませんって」
「あの子らしいわ。あの見た目で根っこの部分はファイターなのよね」
「蛇も驚いてましたからね。あそこまで強気で来るとは思ってなかったみたいです。詫びに来させようかと試しに言ったら、二度と連れてくるなと言われました」
「う、うん。苦労かけてごめんね」
「いえいえ、ファンファさんが謝ることなどありませんよ。ああ、もうこんな時間。楽しい時間は早く過ぎてしまいますね。あまり長居すると女王様に怒られるので、そろそろ帰ります」
「ええ、また来週。これ女王様へのお土産よ」
ファンファはタルトの包みをリーフに持たせる。
「有難うございます。女王様も毎回楽しみにしているんですよ」
「うれしいわ。次はブランデーケーキとか如何かしら。いい店探しておくわね」
「はい、楽しみにしています。今日はありがとうございました」
そう言うと、リーフは走り去って行った。街角を曲がる前にこちらを振り向いて手を振るのがまたかわいらしい。
ファンファは手を振りながら、
「くふふふふ」
と笑いが抑えられない。
リーフを遠く迷いの森から町のカフェに誘いだすのに一か月を要した。これから山の麓の彼女の家に誘き寄せるには、あと二か月は必要だろう。
ファンファは血の出る思いで優しいお姉さんを演じている。
今は餌付けのステージ。優しいお姉さんのイメージを十分に刷り込むまではグッと我慢我慢である。
(焦ってはだめよ)
ファンファは自らを強く戒めるのでした。




