第二十一話 幕間:健康診断
第二十一話 幕間:健康診断
セイルが目を覚ますと目隠しされて椅子に座らされていた。そして身動きも取れない。手は後ろ手に縛られており、足首にもロープが巻かれているようだ。何も見えない中で周囲を伺うが、人の気配はない。
「あの~、誰かいませんか?」
セイルが問いかけてしばらくすると、ぎしりと扉が開く音がした。そしてゆっくりと足音が近づいてくる。
「お目覚めのようね」
「ここはどこでしょう」
「おまえに質問する権利はないわ」
「…………はい」
「ここはお前が今までに犯した罪をとり調べる場所です」
何か棒状のものを手にぺちぺちと打ち付けているような音がする。
「犯罪行為をしたことはありませんが」
何か固い棒でセイルの額をゴリゴリと押された。
「正直に言った方が身のためですよ」
「先日買い物でおつりが多かったのですが、黙って貰ってしまいました」
「他には?」
「市場で銅貨を拾いました」
「女性を傷つけたことはありませんか?」
「ありません」
『バシッ!!』
後ろで何かを叩きつけたような大きな音がして、セイルはびくりと震える。
「北の市場の裏通りにある、綺麗な女性がいる飲み屋に行きました」
「詳しく」
「市場の男衆と飲んでたら誘われて、半分無理やりなのですが、酒も入っていたのでついつい行ってしまいました」
「飲み屋で何をしたのですか?」
「そこでも沢山飲まされて、皆は女性と奥の部屋に行ったのですが、僕は行ってません」
『バシッ!!』
「行きたくなかったのですが、相手の女性が金銭に困っていると聞かされて、少しだけ奥の部屋に行きましたが、誓って何もしていません」
「偽証罪で死刑にします」
首に縄が巻かれてセイルは震え上がる。
「嘘です。すいません。酔ってたんです」
「ファンファ何がしたいのよ。まだ時間かかるの?」
別の女性の声がした。
「しっ、私は裏世界の拷問吏です。『F』と呼んでください。『黒の裁判長様』」
「面倒な子ね」
「こいつを洗脳……じゃなくて更生させる良い機会です」
「違うでしょ、私は普通にお話ししたかっただけなのよ」
目隠しが外されると、目の前には黒髪で青い目の美しい女性がいた。エプロンをして長い黒髪は、農家の女性風にスカーフでまとめられている。
「黒の裁判長!!」
「いいのよ、ややこしいことしないで。しばらく部屋から出ていて」
頭から足まで黒い頭巾をまとった人間が、黒い警棒をぶんぶん振り回しながら、部屋から出て行った。
「これでゆっくりと話せるわ」
「お美しい方、ありがとうございます」
「あら、いい子ね。続けて」
「黒髪はカラスの濡れ羽色、夜の海を映したような輝き。肌は真珠の白さで気高い心が内側から透けて見えるようです。そしてあなたの青い瞳は澄み切った空の青さ。虹色の星の輝きを埋め込んだ神秘です」
「ちょっとありきたりかしらね。で、私の後ろには何が見えるの?」
セイルの目が険しくかわる。
「何も…………見えませんよ」
「正直に言って。じゃないとしばらくファン…………裏のなんとかと遊んでもらうわよ?」
セイルはしばらく裁判長を見ていたが、あきらめたように告げる。
「白い靄が見えます」
「他の人にはどんな物が何か見えるの?」
「…………言いたくありません」
「例えば、その人の未来とか?」
「…………」
「死に顔とか?」
『ギシッ』
セイルが歯を噛み締める音が部屋に響く。そして裁判長を睨みつけた。
「怒った?」
「縄を解いて下さい」
「そしたらあなた私を殴りつけるでしょ。目に書いてある。それはお互の為にならないわ」
「説教でもしたいのですか?ミーネに頼まれたのですか?」
「違うわ。あなたに興味があるだけ。それ魔眼の一種ね、あなたの目よ。何か契機があった筈だけど、教えて貰えそうにないわね」
「余計なお世話ですよ」
裁判長は静かにセイルを見つめる。
「世界にはバランスがあるの。魔術、精霊、妖精、悪魔と天使。これらは全て世界の理から外れた存在なの。あなたのその魔眼もね。あなたがその目で見えたものに応じて何かをすると、世界のバランス…………天秤が傾くのよ。世界はどうにかそれを修正しようとするわ」
「何が言いたいかわかりません」
「反動があるの」
「僕が誰かを助けたら、誰かが不幸になるとでも言いたいのですか?」
「かもしれない、ならないかもしれない。だから私たち魔法使いは気楽に魔法を使わない。どんな結果になるか分からないから」
「お弟子さんたちは気楽に魔法ぶっ放しているように見えますが?」
「あんなのは問題にならないくらい小さなことよ」
魔女はくすくすと笑う。
「その程度が分からないまま、悪戯にこの力を使うのは危険なことなの。あなたの魔眼は人の運命に干渉するから。杖から炎ぶっ放すのとは危険の種類が違うのよ」
「わかりません」
「そうね、もう少し時間があればいいのだけど。今はあなたも混乱しているようだから、これでおしまいにするわ。暇なとき遊びに来なさい。お話ししましょう」
セイルの心の中には釈然としない気持ちが残ったが、先ほどの怒りは忘れられていた。
「最後に言っておくけど、ミーネはこの件知らないわ。ファン…………『F』も許してあげて。みんな良い子だから。さぁお休みなさい。目覚めたらベットの中よ」
魔女の手がセイルの目を覆うと、黒い闇が広がり、セイルは眠りの中に落ちて行った。




