第十二話 囚われのマリアナ(2)
第十二話 囚われのマリアナ(2)
ミーネの家出から二日後、ジョアンがカタリナの家を訪れた。
「ミーネこんなところにいたんだ」
「休暇中よ」
そう言って、カタリナとミーネは二人で笑った。
「セイルに愛想尽きたのかと思ったよ」
「子供の目にもそう映るのね」
ミーネは軽くショックを受ける。
「そりゃーね。ところで最近セイル見かけないんだけど。店も閉まったきりだし。なんか知ってる?」
「知らないわ」
「シスターも心配してるんだ」
「なんで?」
「セイルが行方不明の隊商探しに行くって酒場で話してたそうなんだ」
「なんでそんな事に……」
「三日前奴隷女の話したでしょ。その夜セイルが酒場で飲んでたら、旅の商人が来てね。『仲間が妖精に捕まってる。助けてくれたら金払う』と言ったんだって」
「それで?」
「もちろん町の人間は妖精の怖さ知ってるから相手にしないんだけど、セイルがその話受けたんだって」
「その話誰に聞いたの?」
「気障メガネ……メンダスの事ね」
ミーネはため息をつく。金欲しさ、恐らくは奴隷を買い取る金欲しさに、妖精の森に突撃するなんて正気の沙汰じゃない。更に家出中のミーネを迎えにも来ないで、酒を飲んでいたとは許しがたい。
「わかった」
「ミーネどうするの?」
カタリナも不安そうだ。
「知り合いに相談してみる。ジョアンありがとう。カタリナ、一旦帰るね」
「ええ、力になれることあったら言ってね。私もセイルに借りがあるの」
「ありがとう。その時は声かけるわ」
ミーネは町の門を抜けて、人目の無い当たりで箒に跨った。門の衛兵はこの時間の外出を訝ったが、止めることはなかった。
久しぶりに魔女の家に来ると、先生とファンファがポーチで出迎えてくれた。
「おかえり。ご飯食べた?」
「まだです。でもご飯食べる気分じゃありません」
「駄目よ、食事は採りなさいな。ファンファとテーブルの準備して。話は食事が終ってからよ」
「今度の相手は妖精なのね…………」
食後のお茶を飲みながら一通りの話を聞いた先生は、呆れたように呟いた。
「あなたのご主人様は馬鹿なのかしら?」
「返す言葉も御座いません」
ミーネは恥ずかしさにうつむいてしまう。
「北の森の妖精は強力よ。しかも人間に対して深い恨みを抱えている」
「晒し首の棒の話でしょうか」
「良く知ってるわね。40年前の戦争で人間は北の森を焼いたり、木を切ったりと無茶苦茶したのよ。それまでは人と妖精って時折の争いはあっても、付かず離れずでうまくやれてたのにね」
「仲直り出来ないんですか?」
ファンファが問いかける。
「無理ね。何れにせよ人間と妖精では進む道が別れていくのよ。どうせ馴染むことができないなら、中途半端な接触続けるよりも、別れてしまったほうがお互いの為よ」
そう言って先生はお茶を啜る。
「ミーネ。分かってるだろうけど、隊商もあなたのご主人様も自業自得よ。隊商はどうせ盗賊に渡すみかじめ料惜しさに、妖精の森に入り込んだんでしょう。ご主人様に至っては色恋沙汰なのね。ほっとく訳にはいかないの?」
「無理です。せめてご主人様だけでも連れて帰ります」
ミーネはまっすぐ先生の目を見つめる。ご主人様が陥っているだろう苦境の原因を考えると、隊商以上に弁護の余地が無いのはミーネも承知している。よって理屈での説得ははなから諦めて、勢いだけで押し通す作戦に出た。
「無理なんです」
先生は、ミーネの目を見て溜息をつく。
「つくづく面倒な弟子だこと…………。ちょっと待ってて」
先生は自分の部屋に入ってごそごそしていたが、しばらくして小さな苗木の植えられた植木鉢を持って出てきた。
「昔あの森から採取した、ハシバミの木の苗よ。これをあげる。もしあなたのご主人様が妖精に囚われていたなら、この苗と交換してもらいなさい」
ミーネは手渡された植木鉢をしげしげと観察する。
「ご主人様はこの苗木と同価値なのでしょうか…………」
「この苗木の方が数倍価値あるのよ。40年前この苗木を盗ってくるのにどれほど苦労したことか。要らないなら返しなさい」
ミーネは自らの失言にうろたえる。
「先生、猫の言うことですから。それより40年前とは随分な昔ですね」
先生の目付きが更に険しくなる。
「あの…………ちょっと洗い物してきますね。ミーネ行くわよ」
二人は慌てて部屋の外に出た。後ろから何かが爆発したような音が聞こえたが、二人は洗い物に集中することにした。




