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浮気相手の正体①

数日後


どうにかして、夏未に気づかれずに浮気相手を調べられないか。


工房の地下倉庫を片づけながら、明人は考えていた。


これまで明人は、夏未の友人や職場の人間に、ほとんど興味を示してこなかった。


浮気相手に心当たりなどあるはずもなかった。


私立探偵に依頼することも考えた。


だが、夏未はすでに相手との関係を終わらせている。


もう会っていないのなら、あとをつけても意味がない。


「仕方ない」


明人は、地下倉庫に積まれていた箱を壁際へ移した。


「駄目で元々だ。夏未のスマホを見てみるか」


他人に興味を持たずに生きてきたことを、今になって少しだけ後悔した。



翌日


明人は、夏未の手元にあるスマートフォンを見つめていた。


「どうしたの?」


視線に気づいた夏未が尋ねる。


「いや、別に」


明人は目を逸らした。


スマートフォンの中を見れば、また後悔するかもしれない。


ほんの一瞬だけ、迷った。


しかし、昨夜、湖に浮かんでいた白い月を思い出した。


もう、引き返すつもりはなかった。


数秒後。


明人は立ち上がり、ソファに座る夏未の後ろへ回った。


そして、何気ない口調で声をかけた。


「ねえ、前に撮ったハロウィンの写真、見せてよ」


終わりの始まりとなる言葉だった。



その夜。


明人は、キッチンで食器を洗っていた。


浴室から、シャワーの音が聞こえている。


テーブルの上には、夏未の白いスマートフォンが置かれていた。


ピロロン。


短い通知音が鳴る。


明人は蛇口を止めた。


タオルで両手を拭き、静かにテーブルへ近づく。


スマートフォンを手に取った。


指が震えていた。


昼間、写真を見せてもらうふりをして、盗み見た暗証番号を入力する。


ロックが解除された。


明人は小さく息を吐いた。


安堵した直後、後ろめたさが込み上げてくる。


妻のスマートフォンを見るだけなのに、こんなに緊張するとは思わなかった。


まずは、LINEを開いた。


画面には、多くの名前が並んでいる。


男性と思われる名前を、上から順番に確認していく。


見落とさないようにトークを追ったが、浮気相手を特定できるようなものは見つからなかった。


自分に見られるのを警戒して消したのか?


通話履歴なら、何か残っているかもしれない。


夏未が浮気を告白した日の履歴を開く。


会社の番号。


明人の番号。


その下に、登録されていない電話番号があった。


十九時三分。


090-3434-XXXX。


明人は、その番号をじっと見つめた。


夏未が男と二人で飲みに行くと言っていた時刻だった。


「……これか」


連絡先からは、わざと消したのだろうか。


明人は番号を記憶しようと、何度も目で追った。


そのときだった。


「明人?」


身体が固まった。


顔を上げる。


いつの間にか、夏未が浴室から出てきていた。


濡れた髪をタオルで拭きながら、リビングの入口に立っている。


誤魔化さなければ。


「ごめん」


明人はスマートフォンをテーブルへ置いた。


「たまたま通知が来たのが見えて……どうしても我慢できなくなって、手に取ってしまった」


口から勝手に嘘が出た。


夏未が近づき、スマートフォンを手に取る。


画面を確認していた。


明人の心臓が激しく鳴る。


指先が震えているのが、自分でも分かった。


履歴を見られたことに気づいたのか。


怪しんでいるのか。


夏未がさらに近づいてきた。


明人は身構えた。


しかし、夏未の口から出たのは、まったく予想していなかった言葉だった。


「ねえ、明人」


「なに?」


夏未は少しためらったあと、小さな声で言った。


「ベッド、行かない?」


「!!」


冗談じゃない。


まだ、触れるのだって抵抗があるのに。


明人は心の中でそう思った。


だが、ここで拒めば不自然に思われるかもしれない。


この場を誤魔化すには、応じるしかなかった。


明人は、静かに頷いた。




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