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浮気相手の正体②

ベッドに入った。


キスをして、夏未のバスタオルを脱がせる。


ついこの前まで、当たり前のようにしていたことだった。


――考えるな。


――考えるな。


明人は目を閉じ、頭の中でそればかり繰り返した。


数分後。


他の男に抱かれている夏未の姿が、脳裏に浮かんだ。


吐き気がした。


これ以上は無理だった。


明人は動きを止める。


「……ごめん、夏未」


「どうしたの?」


明人は平静を装い、目を逸らした。


「なんか……無理かもしれない」


「身体が、反応してくれなくて」


それだけ告げると、逃げるように浴室へ向かった。


シャワーを強く出し、頭から浴びる。


「さすがに……無理だろ」


明人は、シャワーの音に消えるような声で呟いた。



シャワーを出て時計を見る。


まだ九時だった。


寝室から、夏未が出てくる気配はなかった。


明人は自分のスマートフォンを手に取り、先ほど記憶した番号へ電話をかけた。


コール音が数回鳴る。


――さっさと出ろ。


――お前のせいで、ベッドで吐きそうになったんだぞ。


そんなことを考えていると、電話がつながった。


『はい、もしもし』


中年の男の声だった。


明人の目つきが変わる。


「夜分遅くに失礼いたします。クレジットカード会社の加藤と申します」


『カード会社?』


男の声に警戒が混じった。


「お客様の登録情報に確認が必要な項目がありまして、ご連絡いたしました」


『そうなんですか?』


「お手数ですが、ご本人様確認をお願いしてもよろしいでしょうか」


以前、自分にかかってきた電話を真似した。


『あ、はいはい。佐野和宏。生年月日は――』


明人は黙って聞いた。


「ありがとうございます。確認が取れましたら、改めてご連絡いたします」


『はい、よろしくお願いします』


電話を切る。


明人はすぐに、紙へ名前を書いた。


佐野和宏。


「どこかで聞いた名前だな……」


しばらく、その文字を見つめる。


「あっ」


明人は顔を上げた。


視線の先には、リビングの本棚があった。


「これだ」


手に取ったのは、三年前の結婚式の箱だった。


重厚な箱の蓋を開ける。


中には、アルバムや招待状、結婚式を撮影したDVDが入っていた。


明人はDVDをプレイヤーへ入れた。


暗いリビングのテレビに、結婚式の映像が映し出される。


ウェディングドレスを着た夏未。


その隣で、照れくさそうに笑う明人。


リモコンを操作し、映像を早送りする。


披露宴の場面で止めた。


白いネクタイを締めた男が、笑顔でスピーチをしていた。


「お前が……佐野和宏」


明人は氷のような目でテレビを見つめた。


和宏を招待したのは夏未だった。


スピーチを頼んだのも、夏未だった。


夏未の話が本当なら、このときにはすでに二人は関係を持っていた。


それなのに、和宏は何食わぬ顔で二人の結婚を祝っている。


何も知らず、拍手を送るテレビの中の自分。


リモコンを握る手に力が入った。


「決めた……」


明人は冷たい目で、テレビの中で笑う和宏を見つめた。


「ただでは殺さない」


そして、ゆっくりと口元を歪めた。


「不倫したことを…」


「…死ぬほど後悔させてやる」


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