浮気相手の正体②
ベッドに入った。
キスをして、夏未のバスタオルを脱がせる。
ついこの前まで、当たり前のようにしていたことだった。
――考えるな。
――考えるな。
明人は目を閉じ、頭の中でそればかり繰り返した。
数分後。
他の男に抱かれている夏未の姿が、脳裏に浮かんだ。
吐き気がした。
これ以上は無理だった。
明人は動きを止める。
「……ごめん、夏未」
「どうしたの?」
明人は平静を装い、目を逸らした。
「なんか……無理かもしれない」
「身体が、反応してくれなくて」
それだけ告げると、逃げるように浴室へ向かった。
シャワーを強く出し、頭から浴びる。
「さすがに……無理だろ」
明人は、シャワーの音に消えるような声で呟いた。
◇
シャワーを出て時計を見る。
まだ九時だった。
寝室から、夏未が出てくる気配はなかった。
明人は自分のスマートフォンを手に取り、先ほど記憶した番号へ電話をかけた。
コール音が数回鳴る。
――さっさと出ろ。
――お前のせいで、ベッドで吐きそうになったんだぞ。
そんなことを考えていると、電話がつながった。
『はい、もしもし』
中年の男の声だった。
明人の目つきが変わる。
「夜分遅くに失礼いたします。クレジットカード会社の加藤と申します」
『カード会社?』
男の声に警戒が混じった。
「お客様の登録情報に確認が必要な項目がありまして、ご連絡いたしました」
『そうなんですか?』
「お手数ですが、ご本人様確認をお願いしてもよろしいでしょうか」
以前、自分にかかってきた電話を真似した。
『あ、はいはい。佐野和宏。生年月日は――』
明人は黙って聞いた。
「ありがとうございます。確認が取れましたら、改めてご連絡いたします」
『はい、よろしくお願いします』
電話を切る。
明人はすぐに、紙へ名前を書いた。
佐野和宏。
「どこかで聞いた名前だな……」
しばらく、その文字を見つめる。
「あっ」
明人は顔を上げた。
視線の先には、リビングの本棚があった。
「これだ」
手に取ったのは、三年前の結婚式の箱だった。
重厚な箱の蓋を開ける。
中には、アルバムや招待状、結婚式を撮影したDVDが入っていた。
明人はDVDをプレイヤーへ入れた。
暗いリビングのテレビに、結婚式の映像が映し出される。
ウェディングドレスを着た夏未。
その隣で、照れくさそうに笑う明人。
リモコンを操作し、映像を早送りする。
披露宴の場面で止めた。
白いネクタイを締めた男が、笑顔でスピーチをしていた。
「お前が……佐野和宏」
明人は氷のような目でテレビを見つめた。
和宏を招待したのは夏未だった。
スピーチを頼んだのも、夏未だった。
夏未の話が本当なら、このときにはすでに二人は関係を持っていた。
それなのに、和宏は何食わぬ顔で二人の結婚を祝っている。
何も知らず、拍手を送るテレビの中の自分。
リモコンを握る手に力が入った。
「決めた……」
明人は冷たい目で、テレビの中で笑う和宏を見つめた。
「ただでは殺さない」
そして、ゆっくりと口元を歪めた。
「不倫したことを…」
「…死ぬほど後悔させてやる」




