復讐の誓い
【はじめに】
この作品は『知らない方がいいこと』の裏側を描いた作品です。
主人公交代:[ 夏未 ] ⇒ [ 明人 ]
【狂人の明人編】は、本編第7話" 一緒にするな "と同じ時間軸から始まります。
夏未の浮気の告白から十日後。
明人の家に夏未の友人夫婦が、遊びに来ていた。
喫煙所で、妻の美姫が夫に言った一言を、明人は聞いてしまう。
「それにしてもさ、よくこんな時に遊びにいこうとか言えるよね」
夫は、少しだけ口元を緩める。
その後、しばらくして夫妻は帰って行った。
――夏未に浮気の話をするなと言ったはず。こんな約束すら守れないのか。
明人は表情こそ変えないが、腹の中は怒りに満ちていた。
「なんで、あの二人が浮気のことを知ってるの?」
明人が問い詰めると、夏未は困ったように黙り込んだ。
「美姫に相談しただけなの」
「相談?」
明人は拳をテーブルへ叩きつけた。
「もう、この話はするなって言っただろ!」
大きな音に、夏未が身体を震わせる。
「でも、私だって誰かに話さないと――」
「ふざけんなよ!」
明人は足元にあった陽介のおもちゃを蹴り飛ばした。
夏未は慌てて陽介を抱き上げる。
「お願いだから、落ち着いて」
「どんだけ……」
明人の声が震えた。
「どんだけ人を馬鹿にすれば、気が済むんだよ!」
もう、自分を抑えられなかった。
このまま家にいれば、何をしてしまうか分からない。
明人は何も持たず、家を飛び出した。
◇
明人は、湖畔の道路をひたすら歩いた。
それでも怒りが収まることは一向に無かった。
ふいに湖を照らす白い月を見上げる。
もう、無理だ。
何もかも耐えられない。
全てを忘れて、このまま湖の底へ沈んでしまいたい。
明人は湖へ向かって、一歩踏み出した。
さらに、もう一歩。
そのとき、ふいに自分の両手を見た。
これが、俺の人生の終わりか。
夏未。
それに、夏未の浮気相手。
二人は、俺がここまで苦しんでいることを知っているのだろうか。
俺が死んでも、自分たちの恋愛を正当化するのだろうか。
明人の目から、悲しみが消えていく。
代わりに、強い怒りが込み上げた。
――殺してやりたい。
心の底から、そう思った。
明人はもう一度、白い月を見上げた。
もう、感情はいらない。
怒りも、悲しみも、すべて邪魔なだけ。
『復讐』
そのためだけに生きる。
俺だけが壊れて終わるなんて、許さない。
お前たちにも、同等以上の苦しみを味わわせる。
俺が死ぬのは、そのあとでいい。
明人は、はっきりとそう決めた。
◇
一時間後。
明人は自宅へ戻った。
夏未が駆け寄ってくる。
そして、またその場しのぎだけの説明を始めた。
もう、うんざりだった。
まともに相手をする必要などない。
明人からの夏未に向けていた優しさは、もう残っていなかった。
何を言われても、全て聞き流す。
しかし、ただ一言。
「明人が浮気したって、私はついていくから」
その言葉だけは、どうしても許せなかった。




