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夏未のプライド

あの忌まわしきベッドの事件から数日後。


明人から、犬を飼いたいと言われた。


――また、勝手なことを。


夏未は内心でそう思った。


正直、陽介の世話だけでも手いっぱいだった。


そこへ犬まで増えれば、結局、自分が面倒を見ることになる。


最初は断った。


しかし、明人は珍しく何度も食い下がった。


根負けし、夏未はとうとう承諾した。


「まあ、自分で世話するって言ってるし……」


夏未は、自分に言い聞かせるように呟いた。


「明人にとっても、いい気分転換になるのかも」


けれど、明人がブリーダーから連れてきた犬は、夏未の想像とはまるで違っていた。


チワワのような小型犬ではない。


大きなシベリアンハスキーだった。


夏未は言葉を失った。


こんな大きな犬を、この家で飼うつもりなのか。


陽介のことも、自分の負担も、明人は少しも考えていない。


あまりにも自分勝手だ。


犬を嬉しそうに撫でる明人を見ながら、夏未の胸に冷たいものが広がっていく。


そのとき、初めて気づいた。


自分も、少しずつ明人から心が離れ始めている。


明人がこれ以上、自分勝手に振る舞うのなら。


いつまでも素直についていくとは限らない。


明人が変わってしまった。


夏未は、ずっとそう思っていた。


しかし、夏未が明人を、変えてしまったとに全く気づいていなかった。


――明人に気づかせなければ


――わたしが、明人に許してもらうために生きていくのではない。


――明人が、わたしを許すために生きるのだ。


――それ以外の未来は認めない。


しかし、夏未の思い描いた物語は、その通りには進まなかった。


そして、あれほど疎ましく思っていたシベリアンハスキーのハッピー。


そのハッピーが、やがて自分の命を救うことになるとは、このときの夏未には知る由もなかった。


【夏未の心境編 完】


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