胸糞の告白
シャワーが終わり二階の寝室へ上がる。
夏未はベッドに入り、明人の隣に横になった。
テレビでは誰かが笑っている。
けれど、内容は何も頭に入らなかった。
和宏とは終わったんだ。
後は、このまま黙っていればいい。
そうすれば、明日からは何事もなかったように暮らせる。
そう思った。
それでも、胸の奥に芽生えた欲求は消えなかった。
知りたい。
明人は、私を許すほど愛しているのか。
それとも…。
「テレビ、消していい?」
明人が言った。
「うん。見てないから消して」
テレビが消え、部屋が静かになる。
―― 今なら、まだやめられる。
―― 言っちゃダメ。
「ねぇ」
「もし私が、浮気してたらどうする?」
◇
気がついた時には、すべてを話してしまっていた。
今日、嘘をついて浮気相手とホテルへ行ったこと。
何年も前から不倫していたこと。
もう二度と会わないと決めたこと。
言ってしまった。
明人の表情が、絶望へ変わっていく。
明人が私を責める。
当然だった。
そして、和宏のことを何度も尋ねてくる。
誰なんだ。名前は。今どこにいる。
怒り狂う明人。
私を抱いた男が許せないのだ。
それほど、明人は私を愛してくれている。
そう思うと、夏未の胸は締めつけられた。
申し訳ないなんて気持ちは一粒もなかった。
明人が可哀想……。
私のためにこんなに傷ついている。
今すぐ抱きしめてあげたいくらい切ない。
「もう二度としない」
「明人の方が好き」
それでも、明人の表情は変わらなかった。
夏未は、もっと伝えなければと思った。
「私は、明人に抱かれてる方が好き」
どんな言葉を重ねても、明人は喜んでくれなかった。
やがて明人は、低い声で言った。
「一人になりたい」
夏未が名前を呼んでも、明人は振り返らなかった。
寝室の扉が閉まる。
夏未はしばらく、その扉を見つめていた。
静かになった部屋で、ようやく自分の呼吸が荒くなっていることに気づく。
どうしよう…。
夏未は両手で顔を覆った。
何で私は言ってしまったんだ。
そんな後悔が、初めて胸に浮かんだ。
今さら追いかけても、もっと怒らせるだけかもしれない。
今は、一人にしておいた方がいい。
絶体に大丈夫。
明人が私から離れてしまう事なんてありえない。
夏未は、そう自分に言い聞かせた。
◇
数時間後
明人が戻ってきたのは、夜が明ける少し前だった。
寝室のドアを叩く音に、夏未は身体を起こす。
よかった。帰ってきた。
その事実だけで、胸の奥に張りつめていたものが少し緩んだ。
けれど、ドアを開けた明人の顔を見て、何も言えなくなる。
ひどく疲れていた。
目は赤く、いつもの優しさも消えている。
「……話そうか」
夏未は小さく頷く。
二人はテーブルを挟んで座った。
黙ったまま目を伏せている明人を見ていると、本当に自分から離れていくような気がした。
「私は……明人が許してくれるなら、今までどおり一緒にいたい」
違う。今までどおりで済むとは思っていない。
それでも、ほかに何と言えばいいのか分からなかった。
明人の目から涙が落ちた。
それを見て、夏未の胸が痛む。
夏未は席を立ち、明人の腕にしがみつく。
「ごめん。ごめんね」
しばらくして、明人が小さな声で言った。
「許すよ……」
その言葉を聞いた瞬間、身体から力が抜ける。
ーーよかった。
やっぱり明人は、自分を許してくれた。
夏未は強く抱きつく。
「ありがとう……本当にごめんなさい」
安堵のあまり、言葉が口からこぼれる。
「明人なら、そう言ってくれるって信じてた」
しかしそれは、今の明人に言ってはいけない言葉。
夏未にはそれに気づくことはできなかった。




