喪失感と新たな欲望
帰りの新幹線。
夏未は窓際の席に座り、流れていく夜の景色を眺めていた。
窓には、ぼんやりと自分の顔が映っている。
スマホを開く。
和宏とのトーク画面には、さきほどのメッセージが残っていた。
『今日、これから会える?』
もう、次に会う約束もない。
五年間、別れたり戻ったりを繰り返してきた。
けれど、今度こそ終わってしまった。
夏未は少し迷ったあと、トーク履歴を削除した。
続いて連絡先を開き、和宏の名前も消す。
--画面から、カズさんがいなくなった。
「終わっちゃったか……」
そう思った途端、胸の奥に小さな穴が開いたような気がした。
スマホが震える。
明人からのメッセージだった。
『陽介、もう寝たよ。気をつけて帰ってきて』
夏未はしばらく、その文章を見つめた。
何も知らずに、自分の帰りを待っている明人。
もし、今日あった本当のことを知ったら、どんな顔をするのだろう。
怒るだろうか。
泣くだろうか。
それでも最後には、自分を許してくれるのだろうか。
夏未はスマホを伏せた。
窓に映った自分の顔が、少しだけ悲しそうに見えた。
◇
駅に着くと、ロータリーに一台の車がぽつんと止まっていた。
助手席の窓を軽く叩くと、明人が笑顔を見せ、ドアのロックを解除した。
「ごめんね。遅くなって」
「ううん。どうだった?」
「別に……」
明人は車を走らせた。
明人は、少し気になっていたのか、珍しく今日のことを尋ねてくる。
夏未は、以前の会社の人たちの近況を話していたと適当な嘘をつく。
「本当に、それだけだからね」
少し心配そうな顔をしていた明人も、最後には少し笑っていた。
「分かってるよ。気にしてないって」
和宏と別れたせいか、明人の笑顔がいつもより温かく見えた。
私だけを見てくれる男。
何も疑わず、簡単に騙される男。
夏未は、しばらくその横顔を見つめていた。
◇
家に着いた頃は、すでに日付が変わっていた。
夏未はシャワーを浴びながら、目を閉じた。
新幹線の中で感じた虚しさが、まだ胸に残っている。
しかし、明人の笑顔を思い出すと、別の感情が湧いてきた。
もし、すべてを話して、それでも明人が自分を許すのであれば。
私が何をしても、明人は私を捨てられないということだ。
そう考えた瞬間、胸の奥が熱くなった。
怖い。
それなのに、見てみたい。
すべてを知っても、自分を愛す明人を。
夏未は濡れた身体を、両腕で強く抱きしめた。




