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喪失感と新たな欲望

帰りの新幹線。


夏未は窓際の席に座り、流れていく夜の景色を眺めていた。


窓には、ぼんやりと自分の顔が映っている。


スマホを開く。


和宏とのトーク画面には、さきほどのメッセージが残っていた。


『今日、これから会える?』


もう、次に会う約束もない。


五年間、別れたり戻ったりを繰り返してきた。


けれど、今度こそ終わってしまった。


夏未は少し迷ったあと、トーク履歴を削除した。


続いて連絡先を開き、和宏の名前も消す。


--画面から、カズさんがいなくなった。


「終わっちゃったか……」


そう思った途端、胸の奥に小さな穴が開いたような気がした。


スマホが震える。


明人からのメッセージだった。


『陽介、もう寝たよ。気をつけて帰ってきて』


夏未はしばらく、その文章を見つめた。


何も知らずに、自分の帰りを待っている明人。


もし、今日あった本当のことを知ったら、どんな顔をするのだろう。


怒るだろうか。


泣くだろうか。


それでも最後には、自分を許してくれるのだろうか。


夏未はスマホを伏せた。


窓に映った自分の顔が、少しだけ悲しそうに見えた。



駅に着くと、ロータリーに一台の車がぽつんと止まっていた。


助手席の窓を軽く叩くと、明人が笑顔を見せ、ドアのロックを解除した。


「ごめんね。遅くなって」


「ううん。どうだった?」


「別に……」


明人は車を走らせた。


明人は、少し気になっていたのか、珍しく今日のことを尋ねてくる。


夏未は、以前の会社の人たちの近況を話していたと適当な嘘をつく。


「本当に、それだけだからね」


少し心配そうな顔をしていた明人も、最後には少し笑っていた。


「分かってるよ。気にしてないって」


和宏と別れたせいか、明人の笑顔がいつもより温かく見えた。


私だけを見てくれる男。


何も疑わず、簡単に騙される男。


夏未は、しばらくその横顔を見つめていた。



家に着いた頃は、すでに日付が変わっていた。


夏未はシャワーを浴びながら、目を閉じた。


新幹線の中で感じた虚しさが、まだ胸に残っている。


しかし、明人の笑顔を思い出すと、別の感情が湧いてきた。


もし、すべてを話して、それでも明人が自分を許すのであれば。


私が何をしても、明人は私を捨てられないということだ。


そう考えた瞬間、胸の奥が熱くなった。


怖い。


それなのに、見てみたい。


すべてを知っても、自分を愛す明人を。


夏未は濡れた身体を、両腕で強く抱きしめた。


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