表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/18

運命の日の裏側

監禁十五日目。


運命の日。


明人は陽介を一時保育へ預け、車で自宅へ向かっていた。


ついに、この日が来た。


夏未が浮気を告白してから、一か月。


和宏を地下室へ閉じ込めてから、二週間。


湖で白い月を見上げ、復讐を決めた。


すべてが今日で終わる。


家にいる夏未を工房へ呼び出し、地下室で和宏と会わせる。


そして、二人まとめて殺す。


今までの手間に比べれば、簡単なことだった。


そのときだった。


明人の頬を、何かが流れた。


「え……」


涙だった。


明人は車を道路脇へ止めた。


ハンドルを握ったまま、しばらく動けなかった。


もう一粒、涙が落ちる。


「なんでだよ……」


明人は手の甲で頬を拭った。


「なんで、今になって涙が出るんだよ!」


自分は、もう狂ったはずだった。


なのに、家で待っている夏未の顔が浮かんだ。


朝食を作る夏未。


陽介を抱いて笑う夏未。


くだらない話をしながら、自分の隣を歩いていた夏未。


憎しみの中に押し込めていた記憶が、次々と蘇ってくる。


明人はハンドルへ額をつけた。


「俺は、本当に夏未を殺したいのか」


「俺は……」


声が震えた。


「何がしたいんだ……」


――もう一度だけ、信じてみたい。


――夏未の口から、もう一度だけ本当の気持ちを聞きたい。


明人はハンドルに頭を付けたまま目をつむる。


数分後、一つの答えにたどり着いた。


もし


今日、夏未が和宏に会いに行くのをやめてくれたら。


和宏を解放し、自分は消えてしまおう。


だが。


それでも夏未が和宏に会いに行くと言うのなら。


二人を地下室に閉じこめる。


そして、その先の結末は、夏未自身に選ばせる。


たとえ最悪の結果になっても、自業自得だろう。


ここから先は、復讐じゃない。


僕が、夏未の物語の結末を作ってやる。


明人は、自分にそう言い聞かせた。


涙を拭き、ゆっくりと呼吸を整えた。


そして車を発進させた。


自宅は、もうすぐそこだった。



自宅。


「ただいま」


「おかえり。ありがとう。陽介、ぐずらなかった?」


「うん。問題なかったよ」


何気ない夫婦の会話だった。


しかし、こんな会話を交わすのも、これで最後だ。


何も知らずに家事をこなす夏未を、明人は黙って見つめる。


無意識に手が震え始める。


明人は少しだけ目を伏せ、夏未を見ないようにした。


やがて、夏未が洗濯籠を抱えて二階へ上がっていく。


足音が遠ざかる。


明人はテーブルの上の夏未のスマートフォンをポケットに入れた。


そして何も言わず、家を出ていった。



午前十時。


ハッピーに餌を与えた明人は、地下室の扉を開けた。


階段を下り、和宏へ近づく。


和宏は動かなかった。


明人が肩をつかんで強く揺らすと、はっとしたように目を開けた。


少しの沈黙。


「和宏」


明人は静かに言った。


「今日で、あんたと会うのは最後になる」


「どういうことだ?」


和宏が掠れた声で尋ねる。


「これから、夏未をここへ呼び出す」


「夏未を?」


明人は頷いた。


「そして、もう一度だけ話してみようと思ってる」


「俺はどうなるんだ」


和宏が明人を見た。


「殺すのか?」


「最初は、そのつもりだった」


明人は淡々と答えた。


「あんたも、夏未も殺そうと思ってた」


「だけど、今は悩んでる」


「……どうしてだ?」


「今までは、夏未がどうして浮気したのか。その理由を知りたかった」


明人は少し黙った。


「でも今は、ただ夏未の本当の気持ちを知りたい」


和宏は何も答えなかった。


「あんたがどうなるかは、夏未の答え次第だ」


「……」


「ただ、助かる道は残してやる」


明人は和宏の目を見た。


「だから、希望は捨てるな」


和宏は力なく頷いた。


明人は立ち上がり、階段へ向かう。


「ああ、そうだ」


途中で振り返った。


「夏未が来ても、俺がいいと言うまではしゃべるなよ」


それだけ言うと、明人は地下室を出ていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ