和宏との会話②
監禁四日目
自宅。
明人はスマートフォンのメモに、和宏へ聞くことを書き出していた。
「楽しみだな。今日は何を聞こうかな」
「ねえ、ちょっといい?」
突然、夏未に声をかけられた。
明人は身体を震わせ、慌てて画面を閉じる。
明人は待ち受け画面を夏未へ向けた。
「あ、そうそう、これ見てよ。かわいくない?」
画面には、ハッピーの写真が映っていた。
夏未は無表情のまま、それを見つめる。
「犬を飼えて嬉しいのは分かるんだけどさ」
「うん?」
「犬の世話ばかりしてないで、陽介の面倒も見てよ」
たしかに、この三日間は和宏のことで手いっぱいだった。
夏未が怒るのも無理はない。
「じゃあ、今日は一日、俺が見るよ。それでいいだろ?」
夏未は何も言い返さなかった。
明人は陽介を抱き上げ、そのまま外へ出た。
玄関の扉を閉める。
「悪いな、和宏」
陽介を抱いたまま、明人は小さく呟いた。
「今日は飯抜きだ」
◇
監禁五日目。
地下室。
「昨日は悪かったな。夏未のやつが、子どもの世話をしろってさ」
和宏は、明人が差し出した水を一心不乱に飲んでいた。
「今日は、ゆっくり話せるぞ」
飲み終わると、明人は和宏の身体を起こした。
「よし。じゃあ、三つ目の質問」
和宏は冷や汗をかきながら俯いた。
「二人は、どのくらいの頻度で会ってた?」
「多いときで、二週間に一度くらいだ」
「会社の帰りに?」
「ああ」
「けっこう会ってるな」
「待ってくれ。ずっと続いていたわけじゃない」
和宏は慌てて続けた。
「別れたり、また会ったりを繰り返していたんだ。五年とはいっても、実際に会った回数は少ない」
「ふうん」
明人は、つまらなそうに和宏を見る。
「そうだ。明人君と結婚する前は会ってなかった。本当だ」
「……」
「お互い、結婚を機にやめようと話したんだ」
「なるほど」
明人はスマートフォンを置いた。
「じゃあ、聞くけどさ」
「なんだ?」
「どうして、僕と夏未の結婚式に来たんだ?」
和宏が黙る。
「しかも、スピーチまでして」
「それは……」
しばらくして、和宏は小さな声で答えた。
「夏未が幸せになるところを、見たかったからだ」
明人は天井を見上げた。
やがて、和宏へ視線を戻す。
「狂ってるのは、お前らの方かもな」
和宏は俯いた。
「まあ、いいや」
明人は笑顔で立ち上がった。
「楽しかったよ。また明日、話そう」
そう言うと、和宏の口元へドーナツを押しつけた。
和宏は無我夢中でかじりつく。
明人は地下室を出て、扉を閉めた。
工房の外へ出ると、ハッピーが駆け寄ってきた。
手についた砂糖を、ぺろぺろと舐める。
「やめろよ、ハッピー。くすぐったいって」
明人は笑いながら、ハッピーの頭を撫でた。
少し離れた場所から、夏未がその姿を見ていた。
「また、犬と遊んでるのね」
不満そうに鼻を鳴らすと、陽介を抱えて自宅へ戻っていった。




