監禁生活
夏未は、大型犬のハッピーを嫌がった。
予想どおりだった。
ハッピーを工房で飼えば夏未は近づきにくくなり、ロープや鎖も犬のためだと言い訳できる。
明人は地下室へ目を向けた。
和宏を座らせる椅子も必要だった。
簡単には動けず、長い時間座っていられる椅子。
おそらく、自分の最後の作品になるだろう。
明人は作業台に図面を広げた。
鉛筆を手に取り、最初の線を引く。
そのとき、ふと思いついた。
――そうだ。
――せっかくだから夏未にも手伝わせてやろう。
明人は、にやりと笑った。
◇
監禁二日目。
和宏は地下室の床で、芋虫のようにうごめいていた。
手足を縛られ、起き上がることさえできない。
――夏未の旦那、完全に狂ってやがる。
そのとき、頭上で扉が開いた。
暗かった地下室へ、眩しい光が差し込む。
階段を、明人がゆっくりと下りてきた。
片手には、手斧を持っている。
「ひっ……」
和宏の身体が硬直した。
明人は何も言わず、手斧を床へ置いた。
そして和宏の身体を抱え、壁際へ座らせる。
「悪いな。殺風景で」
明人は地下室を見回した。
「でも、君のために特性の椅子を作ることにしたよ」
嬉しそうに笑う。
「楽しみにしてて」
「俺を……どうする気だ」
和宏は震える声で尋ねた。
「どうしようかな」
明人は楽しそうに答えた。
「ふざけるな!これは犯罪だぞ!」
和宏の叫び声が地下室に響く。
明人は気にする様子もなく、和宏の正面へ腰を下ろした。
「僕はね、あんたと話がしたいんだ」
「話……?」
「そう。たくさん話して、仲良くなりたい」
明人は和宏の目をまっすぐ見つめた。
「あんたが生き残る方法は、一つしかない」
笑顔が消える。
「僕と仲良くなって、生かしてもらうことだ」
和宏は力任せに腕を動かした。
「ぐっ……外せ! 外せよ!」
何度身体を捻っても、ロープは緩まない。
明人はその様子をしばらく眺めていた。
「もしかして、すぐに帰れるとか思っているのか?」
明人は鋭い目つきで和宏を見る。
「ど、どういうことだ」
「僕の気が済むまで何日でも、ここに閉じこめるってことだよ」
和宏の顔が青くなった。
「わかったら、家族に電話しろ」
明人は和宏のスマートフォンを取り出した。
「とうぶん帰れないって自分の口で言うんだ」
「少しでも疑われたら、斧で頭をかち割る」
和宏は明人を見る。
明人の鋭い目つき。
従わなければ本当に殺される。和宏はそう思った。
動けない和宏に代わり、明人が操作し電話をかける。
電話はすぐにつながった。
『もしもし、あなた?』
『ちょっと一晩帰らないなら連絡くらいしてよ』
「ああ、すまない。連絡しようと思ったんだが」
『今、どこにいるの?』
少しの沈黙。
明人が目で合図をする。
「実は、とうぶんの間、一人になりたいんだ」
『え?どういうこと』
「家にも会社にも戻りたくないんだ。……探さないでくれ」
少しの沈黙。
『ねえ、もしかして女がいるんじゃないの?』
『前々から怪しいとおもってたけど。そういうことでしょ?』
和宏は焦るように言った。
「違う。そんなんじゃない」
和宏の妻は返事をしない。
「……子どもたちを。子どもたちを宜しく頼む」
『はあ? 何、勝手なこと言ってるの!』
受話器の向こうで怒りに満ちた声が聞こえる。
『帰ってきたくないなら、好きにしなさいよ!』
相手から電話を切られた。
和宏は、しばらくスマートフォンを見つめていた。
明人が手斧を床に降ろす。
「なかなか鋭い奥さんだな」
明人はスマートフォンの電源を切りながら言った。
和宏は何も答えなかった。




